街の彗星
別れはいずれくるものです
みなさんも夜空を見上げてみたらふだんとは違ったものがみえてくるかも
ここシュテルン王国には、毎年星が降ってきます。それも、ただの星じゃないのです。
形はとげとげで、両手でふんわり持てるくらいの大きさ。とげとげしているけれど、触り心地はちょっと硬くて、でも痛くはありません。なんだか、包みこんだ手に元気をもたすような、そんなものでした。見た目はとてもきらきらと輝いています。上から黄色、そしてだんだんと青色へと色が変化していくその星々は、まるで金平糖のようで、古くからこの王国に降ってくる星は大切な存在として、まもられてきました。
ある世代は国宝として、ある第61代王様は秘蔵の品として、みんなにとって星とは、生活になくてはならないものだったのです。
星が降ってくる理由は、だれもしりませんでした。なぜなら、この王国の人々は、みんな幸せな顔をしていて、しる術もなかったからです。
このよる、王国の人たちは星を見るために丘に来ていました。静寂が流れる夜空の中での星空の観賞は至福そのものでした。たくさんの人影が丘に映っています。
「ねえイヴ、星がみえるよ」
ラウラが言いました。ラウラの言う通り、曇り一つない夜空の上から、たくさんの星が降ってきていたのです。イヴは思わず声を零しながら、小さな身体をおおきく倒して見上げました。
そして、ふたりが夜空に見惚れていると、なんと星々が次々と足元へ降りてきたではありませんか。
「..あっ!」
「ほら、星さんたちが降りてきたよ」
「ひとつ、すくってあげなさいな」
ラウラが言いました。イヴはひょいっと立ち上がり、星が降ってきているそばまで駆け寄りました。すると、星たちがその想いに答えるよう、静かにイヴのお手々の中に収まったのです。繊細に、ぴかぴかと自身を照らす星々たちは、ほんとうにうつくしいものでした。
手のぬくもりに包まれた星は、きらきらと一生懸命体を光らせています。見た目はより一層煌めいていて、耳を澄ますと時々『ぱちぱち、かちかち』と音が聞こえるのです。その素晴らしい生き様を見て、イヴは感動した気持ちが膨れ上がれ、その端麗な姿に圧倒されました。
「..どうして、星が降ってくるのかな」
単純な、こどもの疑問でした。
イヴは夜空を見上げながら問いました。すると、ラウラが口を開きました。
「きっと、お空にいる子たちの想いが伝わってきているんだよ」
ラウラは優しい口調で、イヴに言いました。そのことばを発しているラウラは、遠い星空を見透かしておだやかなお顔をしていました。
このとき、イヴはなんだか不思議な気分になっていました。もうここにはいない子たちのきもちが、イヴたちのせかいに届いているという事実に、感銘を受けていたのです。
ラウラのおはなしをきいてから、イヴは星々のことばかりを考えるようになりました。
「ねえイヴ、あそこであそぼうよ」
この日はぽかぽかとお日様がでていたので、イヴたちはお外にきていました。あまりにも日差しが心地よかったので、イヴはあそびなんかよりも、思わず原っぱにごろんと体を預けました。葉が素肌にあたって、こしょばゆく顔を掠めます。そして、イヴは手招きをしました。
「ほら、エトワールもこっちにおいで」
「あそびはあとでにしよう」
すると、イヴの呼びかけに応えて、ふたりは原っぱの真ん中に寝転びました。そして、晴天の青空に目を向けて大きく息を吸います。爽やかな風がぴゅーっと吹いて、髪の毛がさらさらと舞いました。雲がひとつもないとうめいな青空は、どこまでもどこまでも、世界が続いているような気がします。
「きもちいいねっ!」
ふたりは顔を見合わせ、とびっきりの笑顔で笑います。そしてちいさな手を繋ぎ、舌っ足らずな声で、いっしょにお歌をうたうのです。
『ぼくらはみんないきているー』
「..あれつづきなんだっけ?」
ふたりのげんきな声が、空一面にひろがります。時々、つづきをわすれてしまうのでなんとも言えない完成度のお歌になってしまいますが、そんなのイヴたちは気にしません。音が外れていても気にしません。
たのしくうたえていればいいのです。まだ幼く純粋なふたりには、失敗ということなどわかりませんでした。
『てーのひらをたいように』
『すかしてみーれーばぁー』
『まあっかーにながれる』
『ぼくのちーしーおー』
『わたしのちーしーおー』
お歌をうたうのがたのしく、思わずイヴたちは口角をきゅっと上げて微笑みます。誰の視線も気にせず、なに不自由のないこの青空で、なかよくお歌をうたうことはとっても幸せでした。いっしょに歌うと、なぜだか一人だと萎れていた心の溝が、だんだんと元気になって活気を取り戻すのです。ふたりにとって、このかけがえのないひとときは、なくてはならないものでした。
そして、この日の夜、いっしょに丘へ行ってたくさんの星たちを眺めます。
「きれいだね」
ふたりは目一杯空を見上げてはなします。流れ星のように降ってくる星たちは、まだ幼いこどもたちにとって、ほんとうにわくわくするものでした。
「...ねえあのお星さまおいしそう」
小さな指でお星さまを指して、イヴが言いました。
そして、エトワールがくすっと笑いを零しながらイヴに言います。
「たべちゃだめだよ!」
イヴが手を伸ばしました。すると、星たちが一気にふたりの下へ降り立ってきます。
「うわぁっ!」
たっくさんの星がすぐ目の前のお空にあつまり、なんとも美しい風景が空に浮かびました。ふたりは、目の前のとてもきれいな光景に目をうっとりさせます。そして顔を見合わせてるのです。
「ぼくたちもいつかはこうなっちゃうのかな」
「そんなことないよ」
「ぼく、別れも生きていくうえではたいせつだとおもうんだ」
ふたりは会話を交わしながら、うとうとし始めました。涼し気なそよ風が、からだ全体にあたって眠気をさそいます。お空がどんどんとまよなかになるにつれ、ふたりはぐっすりと眠ってしまいました。
イヴは、ふかふかのおふとんの中で目を覚ましました。きのう、丘の上ですやすやと寝落ちしてしまったイヴ達は、おかあさんたちに連れられて、おふとんに寝かしてもらっていました。カーテンからのぞく窓からは、あったかくいい匂いのするお日様が顔を出しています。
イヴは、ふあぁとおおきなあくびをしながら、おかあさんに「おはよう」とあいさつをします。きょうの朝ごはんのあま〜い香りが、寝ぼけ眼のイヴをささやかに起こします。
イヴは、すっかり目が覚めて、たくさん朝ごはんを食べました。そして、新しいお洋服に着替えて、げんきよくお外にでます。
イヴはいつもの丘に行きました。さんさんとお日様がひかっていて気持ちがいいです。イヴには、ただここに来たのではありません。ある理由がありました。
それは、あの子に会うためです。
でも、あの子はいませんでした。
日が昇って、日が沈んでも来ませんでした。
イヴは寂しく空を見上げます。きょうは、夜でもほんのり暖かく、原っぱの上でよくねむれそうな夜でした。イヴはごろんと寝転がります。でも、イヴはなかなか眠れませんでした。
いつもはとなりに居るはずの、エトワールが居なかったからです。ひとりさびしく夜空を見上げるのは、とってもかなしいことでした。イヴがぼんやりと空を眺めていると、星がたっくさん降ってきました。
「...きれいだなぁ」
イヴは切なくつぶやきます。でも、その気持ちはかなしみの気持ちに押しつぶされ、消えてしまいます。
おおっきなお空をうえに、イヴはいままでのたくさんの思い出に浸りました。
いつもは楽しく駆け上がっていたこの緑の草原も、今では悲しみに暮れる場所となりました。
しんみりとした空気のなか、驚くことに、イヴのもとにきらきらしたお星さまが降ってきました。まるで、イヴに会いたかったというようにです。
「..お星さま!」
イヴはよろこんで、星をやさしくすくいました。すると、その星はきらきらと、他の星よりも鮮明に光りだしたではありませんか。たっくさん光って、たちまち星はいろが変わりました。黄色や黄緑色、藍色、紅色など、眺めていて、イヴのきもちを晴れやかにしてくれるものでした。
でも、そんなしあわせな時間は長くつづきませんでした。
「...!まって」
星はイヴのもとから離れ、しずかにお空へととんでいきます。ひかりは一層きらめいて、まるでイヴにさようならと伝えているようにみえました。
星は、おおきなキャンバスのような夜空にきえてしまいました。
イヴはしみじみとしたきもちになりました。このとき、イヴはもうわかっていたのです。
そんな中でも、きれいにぴかぴかとひかる空は、生命力がかんじられました。
もういませんし、もう会えることはありません。エトワールは星になりました。
イヴは時々、夜空を見上げていると、あの子のことを思い出します。そして、空に描かれたたくさんの星たちが、エトワールなのではないかと、しんみり想うのでした。
こども同士のものがたりで、わかれの大切さが分かるような文面にしました
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