1 噂の商人RP
どうも。
俺はひょんなことから異世界転移した一般男性。
仕事終わりにトラックに轢かれた結果、女神様から謝罪とチートを受け取り、この世界に転移してきた。
前の世界の姿のままなので転生ではなく転移だと思う。
まあどっちでもいいんだけど。
貰ったチートは【創造】と【超越】。
【創造】は自分の魔力を消費して想像したものを創り出すスキル。
これが便利すぎて世界がやばい。
思いついたものなら大抵の物は作れてしまう。
俺はこの世界に連れてこられた時、何故か地下迷宮に転移していた。
目の前にはモンスター。
あっかん死んでまう。
最近の女神は転移リスキルが趣味なのかと。
俺が異世界転移ものの俺TUEEEE系を読んでいなければ即死だった。
すぐさまモンスターを拘束するアイテムを【創造】し、落ち着いて状況を理解。
この世界にレベルの概念はないが、倒したモンスターから経験値を得ることはできることを女神からは聞いていた。
上位の冒険者達はモンスターを狩りまくっている為、身体能力や魔力が強化されているらしい。
つまり、その経験値を大量にゲットできる装備やアイテムを創ってから倒せば一気に自分を強化できると考え、すぐさま実行。
やっててよかったメイプル◯トーリー。
転移直後、俺は最強になった。
創り出した経験値装備の性能が良すぎて、1体倒しただけで人類最高峰になったのだ。
なぜわかったかって?
地下迷宮で偉業を成し遂げれば、謎の力によって世界中にアナウンスされるから。
不思議なことだが、それはこの世界では常識らしい。
ダンジョンボスを倒したり、世界に1つしか存在しないレアアイテムを発見したりしてもアナウンスされるようだ。
そして俺がモンスターを倒した時、アナウンスが流れた。
『全てを超越した存在がダンジョンに現れました』
タイミング的に完全に俺のことだ。
【超越】スキルも持ってるし。
このスキルは、人類が到達できる身体能力や魔力を超え、上限無く自分を強化できるらしい。
つまり、俺は転移初日で新世界の神になったのだ。
はじめはそのことに喜び、モンスターを狩りまくっていたが、普通に飽きた。
徐々に強くなる喜びや、困難を乗り越えて強くなる的な経験も無く、ただ機械的にモンスターを倒して強くなっていくだけ。
そりゃすぐ飽きるわな。
地下迷宮を攻略しようとも思ったが、先程言ったようにボスモンスターを倒したらアナウンスされてしまう為、変に活躍できない。
ていうか、女神からチートを貰っただけなのにイキがるのは普通にダサい。
でもちょっと目立ちたい。
実はあいつ強いんじゃね的な目で見てもらいたい。
その葛藤の中、俺が行き着いたのが、謎の商人になることである。
ボスモンスターの攻略はこの世界に人間に任せ、俺がその手助けをするのだ。
それも、ただ手助けするのではなく、意味深な言動と確かな実力をそれとなくアピールしつつである。
思いついたが吉日。
俺は2秒で考えた計画を実行に移した。
地上に出て、情報収集。
ここはエターナルという世界で、この国はログズと呼ばれる世界最大の国らしい。
なぜ世界最大なのか。
それは地下迷宮が存在するからである。
地下迷宮から得られる資源やアイテムは、地上に存在するものよりも遥かに価値があり、それを売るだけで億万長者にだってなれる。
つまり、この国は地下迷宮が存在してくれているおかげで恩恵を最大限に受けることができる。
他国からしたら羨ましいだろうね。
日本で考えたら、無限に石油や金が湧いてくる源泉があるって感じだろうし。
「黄金世代が60階層の攻略に乗り出した……、か」
道に落ちていたポスターを見るとそんなことが書いてあった。
ちな、意味は無いが意味深に呟いた。
黄金世代についても調べてみた。
イリアと呼ばれる女の子を筆頭に、ここ数百年で最高の才能を持つ人間が集まったからそう呼ばれていること。
ここ30年間攻略できなかったのが50階層ということ。
世論では、彼女らに攻略できなければもう60階層の攻略は不可能だと言われるほどに、黄金世代は世界の希望だった。
別に攻略しなくてもいいのでは?
至極真っ当な疑問が浮かんだので、街のおばちゃんに聞いてみた。
「地下迷宮には神がいると言われておる。もしも地下迷宮の攻略を諦めた場合、神の怒りを買い、世界にモンスターが溢れ出すのじゃ。迷宮は人々の意思を理解しておる。この国は迷宮の恩恵を受けているが、それと同時に縛られておるのじゃよ。他の国がこの国を奪おうとしない理由はそこにある。王族にしか伝わっておらぬ迷宮の秘密とやらがあるのじゃ……」
ふむ、このおばちゃん、俺が理想としている意味深系だ。
俺もその設定に乗っかっていくことにしよう。
迷宮には、王族しか知らない秘密があり、必ず攻略しなければならない。
その秘密を知っているかのように振る舞う謎の商人。
めちゃくちゃ良くね?
サンキューばあちゃん。
「成程、だから人間は面白い……」
「お、お主、何者じゃ?」
「何者でも無いですよ。今は、ね」
俺はドヤ顔でそう言った。
そしてイリアという最強少女の面を拝みに迷宮に潜り、黄金世代の戦いっぷりを楽しく観戦。
【開闢者】と呼ばれるつよつよボスモンスターの討伐を見届けた。
もしもこの世界に物語があるとすれば、彼女は完全に主人公だろう。
魔王がいたなら彼女は勇者と呼ばれただろうし、戦争が起こっていたなら英雄と呼ばれていたに違いない。
モブの相手をしててもしょうがないからな。
やっぱりある程度有名で実力もある人間を相手に、意味深商人RPをしないと面白くないだろう。
街のおばちゃん相手にそんなことしても何も意味無いし。
機を見て、初心者冒険者を相手にやってみてもいいかもしれないが、まずは黄金世代が狙い目だ。
意味深なことを言って困らせてやろう。
よーし、俺の物語はここからだ!
と、気合を入れて1年経過。
着々と準備を進め、謎の商人の噂を流していった。
黄金世代と会った時、こいつ誰だって感じの目で見られるとちょっと恥ずかしいからね。
それっぽい噂を流しておけば、まさか貴方は……、って感じになるはず。
さて、人払いも済んだし、そろそろ始めようか。
「いらっしゃい。珍しいね、こんなところでお客さんに会うなんて」