【完結】チャプター4 V・A・A!!! ③
「そ、そんなに見ないで! なんだかよくわからないけど、凄く熱いわ!」
それはお前がまた無理したからだろう。警察署で横になって少し休んだ程度で全快するかっての。
と、いつもならツッコむところだが、これは真剣な話だ。もう時間も少ないだろうし、最後まで言うぞ!
「だから鈴も、負けるなよ? これから先のシリーズで、いろんな強敵と戦うことになるだろうけど、俺、ずっと鈴のこと見てるから。応援してるから!」
ボンッ!
なッ⁉ また鈴の頭から煙が出た! なにその現象⁉
ふらりとした鈴は真っ赤な顔のまま後ろへ倒れそうになる。そんな彼女の細い身体に腕を回して支えた俺は、
「俺は、……鈴。君が好きだ。短い間だったけど、ありがとう。本当に、感謝してる」
たぶん、失神して聞こえていないであろう憧れの人に、自分の最後の思いを告げた。
恐い思いもたくさんしたけど、あっという間だった。貴重な体験だったよ。
俺は目を閉じた。なんとなく、そうしたら元の世界に戻るような気がしたから。
…………。
……………………。
………………………………ん?
…………………………………………あれ? まだ?
俺は目を開けてみた。
そこには、俺に支えられた鈴の小顔がまだあった。しかも、バッチリ意識を保っておいでだ!
えっ⁉ もしかして、俺の最後の台詞、全部聞こえてた⁉
「い、いま、好きって、言ったの?」
上目で俺を見つめて、鈴が言う。
やっぱり聞かれてた!
「そ、その、なんというか、じ、ジョークだよジョーク!」
バッカ俺! なんでそんな誤魔化し方するかね!
「……あんたねぇ――ッ!」
ほらぁ! 鈴さんが怒ってしまわれたじゃん!
「からかうのも、大概にしなさぁあああああぃ‼」
そう叫びながら、鈴は俺の脇から胴部に腕を回し、またしてもバックドロップで投げ飛ばすのだった。
★
これは後になって俺が導き出した推論だが、安倍が言っていた、元の世界に戻る引き金。則ちエンディング。これは多分、この映画の全シリーズを終えた、正真正銘最後のエンディングのことじゃないかと思う。
だって、戻らなかったから。
「栄治! 踏ん張りなさい! 舌噛んで死んだら殺すわよ!」
「待て待て! マジかぁああああああああああああ‼」
鈴の運転するパトカーが助手席に俺を乗せたまま、暴力団の事務所がある建屋に突っ込んだ。
そこは、ルームリフォームの看板が掲げられたダミー会社の建屋一階。爆発が起きたような大轟音と衝撃で、身体がガクンと前に折れた。
俺も鈴も無傷なのが不思議なくらいだ。
「なにやってんだよ⁉ 死んだかと思ったぞ⁉」
「ドアをノックしたって居留守使うか、誤魔化してくる連中よ? こうした方が手っ取り早いわ。お巡りさんが入るわよー?」
コンクリート製の壁をブチ破って停止したパトカー。そのドアを蹴破って平然と降車した鈴は、つかつかとブーツを鳴らしながら建屋の奥へ進んでいく。
今日も強気、勝気、元気の三拍子だ。
「いや、友達の家に上がるんじゃねぇんだからさ……」
ツッコみ役がハマってきた俺は、後からふらつきながら続く。
千葉県警はこんなごり押ししないよ? ちゃんとドアをノックして、悪党が相手でも礼節は守って接するよ?
パトカーによって穿たれた大穴から粉塵はあっという間に出ていき、突然の事態に腰を抜かした暴力団員たちが目に入った。
総じてガラの悪い身なりをざっと見渡してチェックしたが、ほとんどは非武装で脅威は無さそうだ。いかつくていかにも気性の荒そうな顔以外は。
「はい、全員注目。これ《逮捕令状》ね。わかったら抵抗なんて考えないで、両手を頭の後ろに回して寝てなさい。言うことを聞かない奴は身体を真っ二つにへし折って頭をケツに突っ込んで粗大ゴミに出すわよ?」
ツッコみが追いつかん! もういいや。なるようになれだ!
「俺たちは異能課だ! お前たちを麻薬密売の容疑で逮捕する! お前たちの中に、悪質な意志能力使いがいるのもわかってる! 抵抗は無駄だからな? 頼むから、妙な気を起こして俺の相棒をキレさすなよ? この建物どころか街一つなくなるかもしれないから!」
――人生ってやつは、本当に何が起こるかわからないものだ。
突如、同僚から応援の要請を受けて出動したと思ったら、意志能力使いの力で映画の世界に入って、映画のキャラクターと一緒に事件を解決したりする。
そうした予期せぬ体験が、その人の人生にとって吉と出るか凶と出るかはわからない。
でも、心のどこかで、予想外のできごとが起こる可能性を考慮しておくのは大事だと思う。
そしてそれにワクワクしてみたり、楽しめるようになることは、とても素敵なことだ。
「てめぇらこそ、それ以上近づくんじゃねぇ! 俺の能力は銃弾の軌道を操れるんだぞ⁉ てめぇらが逃げようが隠れようが、確実に仕留められるんだ! 全身をハチの巣にされたくなかったら、俺たちがここをずらかるまで動くな!」
と、ずんぐりと太った男が、隠し持っていたらしい回転式拳銃を引っ張り出し、こっちへ向けてきた。
事前に調べた通りの身なり。こいつが意志能力使いだな。
「どうしたの? 手が震えてるわよ? 撃ち方はちゃんと習った?」
鈴は銃を意に介した様子もなく、更に前進。
俺は鈴に合わせる。
【アイアン・コーティング】はパトカーの中で施し済み。
「と、止まりやがれぇえ!」
上擦った声で叫び、男は両目をぎゅっと瞑ってトリガーを引いた。
計五発の弾丸が部屋中に跳弾。
ニセモノ臭が半端ないツボを粉砕。
大人しく床に伏せる他の野郎のケツを掠り、テーブルの上に並ぶ灰皿や酒瓶を破砕。
壁や天井にめり込んだ。
「目を瞑って発砲するやつがあるか!」
あまりの危なっかしさに、俺は思わず怒鳴る。
「黙れ! 黙れ黙れぇ!」
尚も銃を構える男の膝が笑ってる。
奴の銃の総弾数は六。残るは一発だけ。どうやら俺たちへの恐怖で、能力を制御できていないみたいだ。
「考えてるわね?」
得意げに言って、鈴は床に落ちていた自動式拳銃を拾って構える。野郎どもの誰かが腰を抜かした際に取り落とした銃だろう。
「異能課のわたしの能力は果たして、あんたと同じ射撃系か、他の何かか」
やれやれだ。鈴の射撃はパルプンテ。どこに当たるか、何が起こるか、誰にもわからない。
この俺が、支えてやらない限りはな。
「当ててやる! てめぇの能力は後方支援だ! そんな細身の弱そうなボディで、前に出て戦えるわけがねぇ!」
「ふーん。だそうよ、栄治。試してみる?」
「構わないぜ? ただしこれ以上モノを壊すなよ? 説教を飛ばす署長の喉が持たないからな」
俺は鈴と背中合わせに立ち、彼女の銃を持つ手を片手で支え、狙いを定めてやる。
鈴の腕の傷は、セイヴの蜂のおかげでかなり回復しているものの、まだ本調子ではない。だからこうして支えてやるのがベターだ。俺の命のためにも。
――予期せぬできごとはいいことばかりじゃないのも確かだ。でもな。
少しでもいい。それをどうにかして、自分の糧にできれば。
それをどうにかして、自分の経験値にできれば、人生は変わっていく。
そういう俺も、鈴に比べればまだまだだが、これだけは胸を張れる。
俺には、かけがえのない仲間がいる。
きっとまた危険な目に遭ったり、落ち込んだりすることもあるだろうけど、鈴となら、必ず乗り越えられる。
ですから、警部補。帰る目処が立つまで、どうか待っていてください。
俺、こっちで警察官やります!
そんな決意と想いを胸に秘める俺は、何故かまた頬を朱色に染める鈴と一緒に、彼女の決め台詞を言い放った。
「撃ちなさい。望むところよ!」
「撃ってみろ。望むところだ!」
【FIN】
これにて完結となります。
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