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チャプター3 ②

「ち、ちくしょうがぁ! オレ様がこんなもやし野郎に……」


 爆発のダメージは相当大きいらしく、ジャンベリクは仰向けに倒れたまま動かない。

 この分なら、もう能力も使えないだろう。


「動くな」


 無事な方の片手で銃を構えた俺は、もう一方の肩の痛みに耐えて手錠(わっぱ)を取り出し、ジャンベリクの手に掛ける。


「ここで大人しくしてろ。医者を呼んでやる」


 俺は踵を返し、電話で救急車を呼びつつ、UDXの脇道から大通りに向かう。


「そこのあんた、警察だ」


 電話を終えた俺は手帳を見せて、路肩に停まっていた車の運転手に声を掛ける。


「お巡りさん、だ、大丈夫か?」


 ヘリと車の残骸が燃え盛るのを見て路肩に停めたのだろう、運転手は目を丸くして、ボロボ

ロになった俺を見る。


「平気だ。それより、あんたの車を貸してくれ。緊急なんだ」

「えっ」


 戸惑う運転手だが、警察手帳を掲げる俺に迫られて、何も言えないまま車を降りる。


「あ、あの、まだローンが残ってて――」

「すぐ返すよ」


 俺は言って、重いクラッチを踏みギアを一速へ。

 そしてエンジンを吹かし、【ブライアン・オコナー】よろしくロケットスタートさせた。

 車は、国産最強クラスのエンジンを搭載する、日産・R34GTR。

 本当の闘いはこれから。

 どんなにボロボロでも、やるときはやるのが警官だ。



観客視点(ザ・ヴィジョン)発動》



 能力も良いタイミングで発動し、再び安倍たちの様子を映してくれたので、俺は意識を左目に集中。

 安倍の運転する車は、新東京都郊外にある教会へとやってきていた。

 この教会は閑静な住宅街の中に広大な敷地を有し、首都で一、二を争う規模の大聖堂がある。

 間違いなく、件の神父がいる場所だ。けど、パート2で登場するキャラクターがそう都合よく現れるだろうか?


「神父様は、この中にいるわ」


 セイヴがそう言って、大聖堂のドアを押し開けた。

 無数の長椅子が規則正しく並ぶ大広間を、見上げてしまうほどに高い天井が覆う、ドーム状の屋内。

 黒い法衣に身を包んだ痩せ型の男が、立派な司教座に相対する形で両膝をつき、壁に高く掲げられた十字架へ祈りを捧げていた。

 視界は彼の背中を映すのみで、正面に回ろうとしない。だから顔は見えない。


「神父様、ただいま戻りました」


 と、セイヴは神父の背に向かって言い、その場でお辞儀をする。


「――随分早く戻りましたね。あなたがこの施設を巣立って半年。理想へ近づくことはできましたか?」


 振り返ることなく、神父が言う。渋みのある低い声だ。


「いいえ、神父様。教わった通りに資金集めから始めたのですが、邪魔が入ってしまって、うまく進んでいません」

「焦りと怒りを認め、そうしたあとで受け流しなさい。脳のリソースを取り戻し、見るべきものを見落とさないようにしなさい」

「教えの最中に失礼。あなたがスカージ神父ですね?」


 セイヴと神父の会話に、安倍が割って入る。

 スカージ・ヴィンセント。それが神父の名前だ。


「僕は安倍十吾と言います。あなた方の理想への到達に有力な情報を持ってきました」

「なぜ、私たちの理想のことを知っているのですか? ミスター安倍」


 少しの間を挟んで、スカージが問う。


「彼は未来を見る能力を持っていて、私たちに協力するというので連れてきました。妙な真似をしたらいつでも始末できますので、話だけでも聞いて頂こうかと」

「ほう? 話とは?」


 セイヴの仲介に、スカージは顔を僅かに振り向かせる。耳につけた十字架のピアスが銀に煌めいた。まだ顔はわからない。


「【想征剣(ヴァーデン・アイル)疑似継承(アクティング)】の在処を教えます」


 安倍は単刀直入に言った。


「おお! 信じ難いことが起こりました! 主よ、恵みに感謝致します」


 言って、スカージは立ち上がる。


「その話、詳しく聞かせて頂けますか?」


 彼はゆっくりと振り返る。そして顔が明らかになる瞬間――。



観客視点(ザ・ヴィジョン)終了》



「なんだよ! なんで途中で止まるんだよ⁉」


 俺の左目は通常の視界に戻り、それ以上、連中のやり取りを見られなくなった。

 まずい。スカージまで安倍たちのパーティに加わったら、戦力差は天地の差になる。

 ただ一つ幸運なのは、連中はまだ【剣】の在処には到着していないってことだ。

 俺はタイヤを鳴かせ、交差点でハンドルを切る。


 向こうが戦力を増やしているなら、こっちも増やす。他の警察署に行って事情を説明し、増援を呼ぶのは無しだ。

 意志能力(フォース・オブ・ウィル)を公務レベルで操れる人口は、極端に少ない。

 だから、【異能課(ウィルセクション)】自体、配置できている警察署が少ない。つまり、即応できる意志能力(フォース・オブ・ウィル)使いがいないんだ。そんな中、他部署の警察官を集めたところで、敵の意志能力(フォース・オブ・ウィル)にやられてしまう。


 俺はある建物の前で車を急停止させた。

 そこは、【八咫烏(やたがらす)】の秘密の詰所(つめしょ)がある、バロック様式の白い外観が洒落たレストラン。

 この状況下で話がわかって、力になってくれる人物を、俺は一人だけ知っている。


 その名は(カラス)。さっき俺と鈴のピンチを救ってくれた男だ。

 何を隠そう、彼こそが【想征剣(ヴァーデン・アイル)疑似継承(アクティング)】の在処を知る人物なのだ。


 安倍のやつはこの映画を見て、剣の在処を大体把握しているから、まだ全貌が明かされていない不明瞭なキャラクターの鴉を訪ねる必要はないと考え、あえて別のラスボス級キャラクターを味方につけようという魂胆なのだろう。


 だがな、安倍よ。俺の左目の能力は不規則ではあるが、ハマれば相手の行動や考えを丸裸に

できるメリットがあるんだぜ? お前の行動は全部丸見えだ!

 安倍が敵のボスキャラを仲間にするなら、こっちはこっちで、謎めいてはいても頼もしい助っ人を仲間にしてやろうじゃないか。俺一人で【剣】の在処に先行して、万が一【剣】を手に入れられなかったときの保険だ。味方についてくれるかどうか不安だけど。


「問題は、ガードマンだな……」


 この洋風レストランは確か、ドレスコードのある敷居の高い店だったはず。おまけに、入り口に張ってるガードマンがカードを一枚裏向きに見せてきて、そこに描かれた絵柄を答えられなければ門前払いになるという徹底ぶり。


 会員制で、会員には事前にカードの絵柄の情報が伝わっているんだ。要するに、絵柄を言い当てることが会員証を見せるのと同義ということ。

 俺はミリタリーシャツにデニムという私服姿で、しかも戦闘を掻い潜ったあとだから所々ボロボロ。この時点で見た目はアウトだろう。


 でもこっちには、この映画を熟知しているというチートがあるんだ。パート2で鈴がこの店を訪れた際、ガードマンが鈴に裏向きで出したカードの絵柄――俺はそれを覚えている!

 カードの絵柄を言い当てさせるとか回りくどいことしてないで、単純に会員証を提示させるシステムにしておけば、俺に突破されることはなかっただろうに。


「お客様、失礼致します」


 と、馬の顔をした、縦にも横にもデカイ獣人のガードマンが入り口に立ちふさがり、一枚の

カードを俺の眼前に出してきた。

 (ひづめ)の手に器用に挟んでいる。随分と柔軟性のある蹄だな。


「二匹のウサギ」


 即答した。

 俺は得意顔で進もうとしたが、次の瞬間首根っこを掴まれ、


「許可の無い者を通すわけにはいかない」


 そんな風に言われて、路上にゴミみたいに投げ捨てられた。

 ……そうですよね。絵柄がいつも同じなわけ、ないですよね。

 こうなれば必殺の警察手帳だ。あまり目立ちたくないからあくまで一般客を装いたかったけど、止むを得ん。


「警察だ。中に会いたい人がいる」

「通れないとわかったら警察のフリか? 馬をからかうもんじゃないぞ? 坊や」


 絵柄を外したことで警戒心を持たれ、警察手帳を見せても信じてもらえないどころか、成人

済みなのに坊や扱いされた。


「俺は本物のお巡りだ。この手帳が目に入らぬか!」

「よくできてる手帳だな。徹夜で自作したのか?」


 また首根っこを掴まれ、ゴミみたいに捨てられた。


「――こっちは急いでるんだ! 公務執行妨害で逮捕するぞ!」

「ならこっちは営業妨害でお前を訴えてやるぞ」


 ならばいいだろう、手錠掛けてやる! 

 ――さっきジャンベリクに使ったからもう無いわ!


「わかった、冗談だよ。今度はちゃんと言い当てるから、もう一度カードを出してくれないか?」


 俺が仕切りなおすと、渋々といった様子でカードを出すガードマン。


「おい、後ろに不審者がいるぞ!」

「ッ⁉」


 ガードマンが背後を振り向いた瞬間、


「だりゃァアアアアアアア‼」


 俺は渾身のグーパンを彼の後頭部にお見舞い。

 失神したガード(ウマ)ンを生垣にゴミみたいに捨てた俺は、何食わぬ顔で入店を果たす。

 もうなりふり構っていられん。


 お昼時なこともあって、店内はそれなりに賑わっており、どの客も高そうなスーツに身を包み、お上品な雰囲気を漂わせている。

 一人だけみすぼらしい格好の俺は、せめて立ち振る舞いだけでも極力目立たぬよう、自然体且つやや早く歩いてカウンターへと向かう。


鴉が見たい(、、、、、)いつものを頼む(、、、、、、、)


 気品のある笑顔を向けてきたウェイターの姉ちゃんにそう注文する。確か鈴がそんな風に言っていたんだ。


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