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砂糖菓子令嬢と甘党騎士のちっとも甘くない婚約事情  作者: 石動なつめ


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9-9 カスタードプリン


 その後、サラーフとマイヤーは、カルロッタ達と共にホールを出て行った。

 これから色々と事情聴取があるらしい。

 マイヤーはやはり詐欺については認めはしなかったものの、頭の中で今後どう動くべきか必死に考えているらしく、話を終えてからずっと悲愴な顔をしていた。

 どのみち彼が今後しばらくは、楽な人生を送る事は出来なさそうだなとニコレッタは思って、息を吐いた。


「とりあえずひと段落しましたねぇ」

「そうですね。……すみません、ニコレッタさん。何もお話せずに」

「いえいえ、理由がありそうなのは分かりましたので! 参考までに教えていただいても?」

「事前に情報を入れておくと、思い込みで反応が変わってしまうから黙っていて欲しいと、王族の皆様に頼まれまして……」

「あらまぁ」


 カルロッタだけではなく、そこまで動いていてくれたなんてとニコレッタは目を丸くする。

 彼が言った通り、事前に説明を受けていれば、ニコレッタは気負い過ぎて逆に思い出す事が出来なかっただろう。


 人間の記憶は曖昧なもので、思い込みで無意識に捻じ曲げてしまう事だってある。

 そして思い出す事が出来なければ、サラーフとマイヤーは留学期間を終えて国へ帰っていただろう。そして、そのまま詐欺の被害に合っていたのかもしれない。


 ただ、サラーフの言動から考えると、マイヤーは元から疑われていたようにも思えるが。

 別室へ向かう際にサラーフが「ありがとう、君のおかげだ」なんてウィンク付きでお礼を言ってくれたが、あれは確信を得た事に対する感謝だったのかもしれない。


 そんな話をダンテとしていると、ホールにカラカラと何かの音が聞こえ始める。

 顔を向けるとワゴンでお菓子や飲み物が運ばれて来るところだった。


「舞踏会の始まる前に騒ぎが起こったので、お菓子を食べて休憩をして、仕切り直ししましょう、という事らしいですよ」

「それはいいですねぇ」


 お菓子を食べて、のところでダンテが嬉しそうだったのがかわいくてニコレッタは微笑む。

 ワゴンに乗ったお菓子はクイーン・ケーキやキャロットケーキ、クッキーなど、種類はなかなか多い。

 その中にカスタードプリンが並んでいるのを見つけて、ニコレッタは「あ」と口を開けた。


「どうしました?」

「いえ、プリンがあるなって」

「あ、本当ですねぇ。いいですね、プリンも。ニコレッタさんが作って下さったプリン、とても美味しかったです」

「んふふ。ありがとうございます。……実はね、私の叔父もカスタードプリンが好きだったんですよ。だから、それをちょっと思い出していました」


 ニコレッタがそう言うとダンテは軽く頷いて


「甘い物がお好きだったんですね」


 と言った。彼の言葉に「そう思うでしょう?」とニコレッタは言うと、人差し指をピンと立てた。


「叔父は甘い物は苦手だったんですよ」

「えっ」

「意外でしょう?」

「はい」


 ダンテはこくりと頷いて、ニコレッタは小さく笑った。

 ジャンニーニ家はお菓子を扱っているので、叔父がお菓子が苦手だと知るとダンテのように意外そうな顔をされる事が多かった。

 実際にニコレッタもそうだったのだ。


「会いに来てくれる時に、お土産にお菓子をたくさん持ってきてくれたので、叔父さんもお菓子が好きなんだろうなって思っていたんですよねぇ。違うって聞いた時はびっくりしました。そんな叔父が、唯一好きだった甘いお菓子がカスタードプリンなんですよ」


 叔父がカスタードプリンを好きになったきっかけは、彼の母――ニコレッタからすると祖母だ――が、誕生日に作ってくれたからだとニコレッタは教えてもらった。

 子供の頃の叔父は、ジャンニーニ家の人間が甘い物が苦手なんて言えないと、気を遣って隠していたのだそうだ。

 しかし彼の母はそれに気付いていて、彼が無理なく食べられるように甘さ控えめのカスタードプリンを作ってくれたらしい。

 食べた時は、やっぱりそれでも甘かったけれど、母の気持ちがとても嬉しくて、それ以降食べられるようになったのだと叔父は幼いニコレッタに笑顔で話してくれた。

 だから叔父はカスタードプリンだけは食べられる。

 叔父からその話を聞いて、彼の誕生日に同じように甘さ控えめのカスタードプリンを作ったら泣いて喜んでくれたっけと、ニコレッタは今になって思い出した。 


「……知って、いたかったですねぇ」


 ぽつりと呟く。

 叔父が怖いものや苦しいものからニコレッタを守るために、敢えて悪役となってくれた事がどれだけありがたい事だったのか、あの手紙を読んで分かった。

 けれど、それでも、もう取り戻せない事だとしても、ニコレッタは知りたかったと思ってしまう。

 知らないまま、誤解をしたまま、もう二度と叔父には会えなくなってしまった。


 ――最初から今までずっと、自分は終わってから気付く。


 心の中でそう呟いていると楽団の演奏が始まった。その美しい音色を聞いて、そう言えば舞踏会だったっけ、とニコレッタは思い出す。

 するとダンテがニコレッタに手を差し出して、


「ニコレッタさん。私と踊っていただけませんか」


 優しい微笑みを浮かべた。

 ニコレッタはぱちぱちと目を瞬いた後「喜んで」とダンテの手に自分の手を合わせる。

 ダンテはにこっとさらに笑顔を深めると、ニコレッタをエスコートしながらホールの中央へと移動する。そこではすでに数組がダンスを始めていた。


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