9-1 カスタードプリン
ニコレッタ・ジャンニーニはかわいいものが大好きだ。
見た目のかわいさはもちろんだが、それ以上に中身のかわいさに胸がキュンとときめく。そこに性別も年齢も関係ない。
最近、一番そうなるのがダンテ・アルジェントと一緒にいる時だ。
見た目こそハンサムなこの騎士様は、何というか中身がとてもかわいいのである。
その日、ニコレッタはアルジェント家の兄妹からお茶会にご招待いただいた。
するとダンテは、
「ん~~! 美味しい~~!」
と、お土産に持ってきたカスタードプリンを食べて、幸せそうな笑顔を浮かべている。 彼の隣では妹のラウラも「美味しいわ!」とにこにこしていた。
この兄妹は本当にかわいい。二人を見ていたニコレッタも、しまりのない笑顔になっていた。
「ニコレッタお姉様の作るお菓子、美味しくて大好き!」
「んふふふ。ありがとうございます。いやぁ、そう言っていただけると作り甲斐があって……」
「私も大好きです。毎日食べたいくらいです」
そうしているとダンテがそんな事を言うものだから、ニコレッタの体温が急上昇し、ラウラが「まあ!」とテンションを上げた。
ダンテは最初不思議そうにしていたが、直ぐに自分が何を言ったのか気が付いて、顔が真っ赤になる。
「ち、ち、ち、違っ、あっ、いえ、違わないけど違うんです!」
「だ、だ、だ、大丈夫ですよ! ええ、はい! 分かっておりますから! だって私達は」
一時的な婚約者ですからと言いかけて、何となく言葉が止まってしまった。
おかしいなとニコレッタは心の中で首を傾げる。
以前であればするりと出た言葉のはずなのに、何だかあまり言いたくない。何でだろうと思いながら、誤魔化すようにニコレッタはカスタードプリンを一口。美味しい。
甘いお菓子を食べて少し落ち着いたので、
「そう言えば、何かご相談があるんでしたっけ?」
と彼らに尋ねた。
お茶会のお誘いを受けた時に、相談したい事がありますと言われているのだ。
「あっ、はい。その……実は国王陛下から、王城で開かれる舞踏会に私とニコレッタさんを招待したいとのお話がありまして」
「こ、国王陛下がですかっ?」
思わず咽そうになりながら、ニコレッタは目を見開いて聞き返す。
「ダンテさんの婚約者だからって感じですかね?」
「それも、もちろんあると思いますが、どうもカルロッタ様から色々と話を聞いている内に、会ってみたくなったと仰っていました」
「あらぁ……」
ニコレッタはポカンと口を開けた。
カルロッタは職場体験の後も、時々シュガーポットに遊びに来てくれている。
接する機会が増えたため、彼女とは世間話や他愛のないおしゃべりが出来る関係になっていた。
没落貴族の自分が、まさか姫君と仲良くなれるとは思わなかった。彼女とはお互いに最初の印象こそ悪かったが――と。そこまで考えて。
そう言えばカルロッタは最近、ダンテに積極的に絡んだり彼の話を出す事が減った気がすると、ニコレッタはふと思った。ダンテもカルロッタの事で悩んでいる様子もない。
何か心境の変化でもあったのだろうかと考えながら、
「参加については構いませんが、私と一緒だとダンテさんは何か言われたりしませんか?」
とダンテに訊いた。
ニコレッタ自身の評判は没落したジャンニーニ家の娘や、自分の妖精石を売り飛ばした貴族の面汚し辺りは言われている。たぶんそこに、カルロッタの恋路を邪魔した女狐が追加されているだろうか。
ニコレッタ自身は何と言われようが別に構わないが、ダンテに迷惑がかかるのはだいぶ嫌なのだ。
「ニコレッタさんを見た同僚から、かわいい婚約者じゃないかと言われるくらいで……」
再びポッと頬を赤らめてダンテは言った。かわいい。ニコレッタは胸を押さえて「ウッ」と変な声で呻いた。
「そ、それはその……ど、どうも……」
「大丈夫ですか?」
「破壊力がすごい一撃でした。大丈夫です、ありがとうございます」
「そ、そうですか……?」
ちっとも大丈夫そうには見えないと目で訴えられた気がするが、ニコレッタはにっこり笑って誤魔化しておく。
「それでは参加で……?」
「はい。よろしくお願いします」
「やった! じゃない、えっと……よろしくお願いします」
元気に喜びかけたダンテは、ハッと一瞬で我に返ると、恥ずかしそうにそう言った。
本当にかわいいなと思いながら、ニコレッタがにこにこ笑っていると、
「お姉様、お姉様! それでね、着ていくドレスの事なのだけど……」
「あ、はい。レンタルショップでいい感じのを探すのでご安心を!」
ラウラの言葉に、ニコレッタは胸を叩いて頷いた。
「世の中には便利な店があるのだと、こうなってみて知りました」
「そ、それは確かにそうね! でも、えっと、そうじゃなくて……お兄様!」
しみじみと語っていると、ラウラがちょっと困った顔になって、ダンテの服の袖をくいくいと引っ張った。行動の一つ一つがかわいくて、ニコレッタはときめきっぱなしである。ダンテとの婚約で幸せな事を挙げろと言われれば、その一つに、この兄妹達のかわいさを間近で見られるというのが入るだろう。
んふふ、とにまにましていると、
「ほら、お兄様! 頑張って!」
「あ、ああ……。コホン。えっと、ニコレッタさん」
「はい、何でしょう?」
「その……舞踏会に着ていくドレスなんですが、私にプレゼントさせてはいただけないでしょうか?」
と、ダンテは緊張した様子で言った。ニコレッタは目を丸くする。
「いえいえ、お気になさらず。お高いものですので、お金は大事に取っておいてください」
そしてニコレッタは即座にお断りした。
するとダンテとラウラが顔を見合わせて『やっぱり!』と声を揃えて言った。
あら、とニコレッタが首を傾げていると、
「そう言われるだろうなと思いまして……第二のプランを……。その、私達の母のドレスでしたらいかがでしょう?」
「お母様の!? いえ、それこそ、そんな大事なドレスを貸していただくわけには行きませんよ。ラウラさんのために取っておいてください」
「いいのよ、お姉様。だって私が提案したんだもの。ニコレッタお姉様は絶対に、こっちの方が受け入れてくれるって思ったもの!」
ラウラが自信満々にそう言った。
おおう、とニコレッタは軽く仰け反る。どうやら彼女は自分の事をしっかり理解してくれているようだ。
ニコレッタはお金の事で頭を悩ませている。なのでそう何度も着ないであろうドレスを購入したり、プレゼントされても、もったいないと考えてしまうのだ。
そんなニコレッタの事を考えて、この兄妹は提案してくれている。
それは、とても。
「どうでしょう?」
「……お二人は」
「?」
「カスタードプリンみたいに私に甘いです」
照れ隠しにそう言うと、
「砂糖菓子まではまだまだ遠いですが」
ダンテがちょっとだけお道化た調子でそんな事を言ったものだから、ニコレッタは思わず噴き出すように笑ってしまったのだった。




