表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂糖菓子令嬢と甘党騎士のちっとも甘くない婚約事情  作者: 石動なつめ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/43

8-5 キャロットケーキ


 フランクが帰った後は、ごく普通に時間が過ぎ、あっという間に閉店時間となった。

 ドアの外に『営業終了』のプレートをかけて店内に戻り、奥の部屋へと行くと、そこでは疲れ切った顔をしたダンテとカルロッタが、ぐったりと椅子に座っていた。

 カルロッタはこうなるかなとは思っていたが、ダンテも慣れない仕事で疲れたようだ。

 そんな二人を微笑ましく思いながら、ニコレッタは二人にホットココアを入れたマグカップを手渡す。


「お疲れ様でした、ダンテさん、ロッティさん」

「お疲れ様です……」

「つ、疲れたわ……」

「んふふ。頑張ってくださってありがとうございます」


 二人を労いながらニコレッタは、双子の護衛(レイラとハル)達にも同じようにマグカップを渡す。


「私達もいいんですか?」

「もちろんですとも! ハラハラして疲れたでしょう?」

「あははは……バレちゃってたぁ」


 ハルは指で頬をかいて苦笑した。

 彼女達はカルロッタの護衛という事で、万が一が起きた時に直ぐに動けるよう、奥の部屋で待機していてもらったのだ。

 その間、二人はずっと心配そうにカルロッタを見つめていた。彼女の行動に一喜一憂するハル達は、妹を見守る兄や姉のようにニコレッタには見えた。

 そんな事を思い出しながらテーブルにトレーを置くと、ニコレッタ自身もココアを飲み始めた。


「それにしても、結構繁盛しているのね。驚いたわ」

「いつもはもう少しゆったりとした感じなんですけどね。皆、ダンテさんやロッティさんに興味津々だったみたいですよ」

「えっ私に? あら、ヤダ……そうなの? そう……皆、私の事、好きなのかしら」 


 するとカルロッタは顔に片手を当てて、ポッと頬を赤くした。


「えっと、ロッティさん?」

「何が……」


 ニコレッタとダンテが目を丸くしていると、


「……そのう、実は姫様、惚れっぽいと言いますか」

「真正面からはっきりとものを言われたり、素直に好意を伝えられたりすると、相手を好きになっちゃうんです」


 と、双子の護衛達がカルロッタには聞こえないくらいの声で、こっそりと教えてくれた。


「そういう相手、姫様には本当に少ないですから。ほら、姫様ってああいう性格でしょ? だから身分の事もあって、ほとんどいないんですよ。それで嬉しくなっちゃうんでしょうねぇ」


 ハルはそうも続けた。

 その言葉にニコレッタは先日のカジノの件を思い出す。もしかしたら、あの時のやり取りで気に入られたのだろうか――そんな風に思ったらニコレッタはキュンとした。何だか、カルロッタがどんどんかわいらしく思えてくる。


 ニコレッタが「んふふ」と笑っていると、ダンテも「なるほど、そう言う……」と呟いていた。

 どうやら彼も彼で思い当たる節があるらしい。恐らくダンテがカルロッタに惚れられた理由も、その辺りが関係しているのだろう。


 なるほどなぁと軽く頷きながら、ニコレッタは飲み終えたマグカップをテーブルの上に置いて、奥の棚へと近づいた。そして鍵のかかった棚を開けると、中から封筒を二つ取り出す。

 そしてそれをダンテとカルロッタへ差し出した。


「今日は本当にありがとうございました。これ、今回のお給料です」

『えっ』


 ニコレッタがそう言うと、二人は大きく目を見開いた。


「いえ、いただけません! 私はただ勝手にお手伝いに来ただけですし……」

「わ、私もそんなつもりじゃないわ!」


 首をぶんぶんと横に振る二人。

 ニコレッタは笑って「だとしても」と言葉を続ける。


「労働には正当な対価を支払う事。これはこの国の法律で定められている事です。それに――」

「……それに?」

「誰かと一緒に働くのが久しぶりで、すごく楽しかったんです。ですのでこれは仕事の対価と、私からのお礼です。ありがとうございます、ダンテさん、ロッティさん」

「…………」


 これは本音だ。

 今まで誰にも話した事は無いが、従業員達を解雇した翌日、あまりに静かで寂しくてニコレッタは店の中で泣いた。

 それから時間が経って、一人で働く事に慣れはしたものの、寂しさだけは変わらず胸の中にあった。


 だから今日、ダンテとカルロッタと一緒に働けてニコレッタは楽しかった。

 本当に、本当に、楽しかったのだ。

 その気持ちを込めてお礼を言うと、ダンテとカルロッタは顔を見合わせ、差し出した封筒をおずおずと受け取ってくれた。


「……大事にします」

「私も。……私もよ。働いて、お金をもらったの……初めてだわ」

『ぐすっ、姫様……!』


 真剣な顔のダンテ、感慨深そうなカルロッタ、そして涙ぐむ護衛達。

 反応はそれぞれだが、そこまで喜んでもらえると、こちらは何だか照れてしまう。特別な事をしたわけでもないからだ。

 なので照れ隠しのように「んふふ」と笑うと、ニコレッタは冷蔵庫の方へ歩いて行って、中にしまっておいた箱を二つ取り出した。中にはキャロットケーキが入っている。


「これ、お二人が作ったキャロットケーキです。どうぞ、お持ち帰りくださいな」

「えっ、いいの!?」

「いいんですか?」

「ええ、もちろん! そのために取っておきましたからね! 味見した時にも思いましたけど、最高に美味しいですよ!」


 ニコレッタがウィンクをすると、ダンテとカルロッタはパァッと輝くような笑顔を浮かべる。

 すると双子の護衛達が、


「ひ、姫様の手作りのケーキ……!」

「陛下達も喜んでくださいますよぉ……!」


 ――何故か号泣し始めた。


 こちらもこちらで、まぁまぁ情緒がおかしくなっているようだ。


「な、何も泣く事ないじゃない!」


 とカルロッタが顔を真っ赤にしながら慌てているのを、ニコレッタはダンテと共に、何だかほのぼのした気持ちで眺めていたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ