6-5 バナナチップス
ちょうどその頃、王城ではロッティことカルロッタ・パルマが自室で、不機嫌そうにバナナチップスを上品に食べていた。
「もう、信じられないわ。人前で服を脱ぎだすなんて!」
「そもそも姫様が焚きつけたんですよ。ああいう振る舞いはおやめくださいと、何度も申し上げております」
そんな彼女に双子の護衛の片方――レイラが苦言を呈する。カルロッタは「だって」と口を尖らせた。
「ダンテなら格好よく勝ってくれると思ったんだもの。あんなに賭け事に弱いとは思わなかったわ」
「誠実な証拠ではありませんか。カジノにはまったく慣れていなさそうでしたし」
「それはそうだけど……勝つところが見たかったわ」
カルロッタはそう言って肩をすくめる。
恋する相手の素敵な姿は、いつだって見たいものだ。ペンダントを理由に会いに来てもらうのを諦めるなら、そのくらいはいいだろうと提案したのに、これでは意味がない。
つまらないわ、と思いながらカルロッタはバナナチップスをもう一枚口に入れた。
「それよりも姫様。以前ならまだしも、婚約者のいる方に迫るのはおやめください。品がありません」
「別にいいじゃない、私の方が先にダンテを好きになったのよ。私が奪えるなら、その程度の関係だったって事だわ」
「姫様!」
つーん、と顔を背けて言うカルロッタに、レイラが目を吊り上げる。
カルロッタと同い年のこの護衛は、彼女の双子の弟共々、小さい頃から一緒だったためか、自分に対して臆せず物を言ってくる。
口うるさいとは思うが、その事はカルロッタにとって不快ではなかった。自分の事を想って言ってくれているのだと理解しているからだ。
王族であるカルロッタに強く言える人間はそう多くない。だからこそレイラ達のように、ダメな事はダメだと言ってくれる相手は貴重なのだ。
そう考えると、カジノで出会ったダンテの婚約者も、レイラ達に少しだけ似ていた気がする。
「……そう言えばダンテの婚約者。名前をニコレッタ・ジャンニーニと言ったかしら」
「ええ。ジャンニーニ家のご令嬢ですね。元、ですが。ご両親がタチの悪い詐欺師に騙されて、没落したと聞いています」
「そうだったわね」
ニコレッタ・ジャンニーニは、パルマ王国では珍しい銀色の髪をした少女だった。
顔立ちはなかなかかわいらしいが服装が地味だ。もう少しお洒落をすれば映えるのに、なんて考えながら、カルロッタは彼女の言葉を思い出す。
『貴族のロッティ様ですよね! ええ、存じておりますとも!』
ニコレッタはそう言って、カルロッタに対して一切の弱気を見せずに、堂々と挑発して来た。
あんな風に真正面から、自分に喧嘩を売ってきたのはダンテ以来初めてだ。
「……ねぇ、レイラ」
「何でしょうか、姫様」
「ニコレッタさんって……私の事が好きなのかしら?」
「はい?」
ぽつりと零れるように出た言葉にレイラは目を見開いて、それからやや間を開けて「……なんて?」と聞き返してくる。
「ニコレッタさんって私の事が好きなのかしら?」
「…………」
聞こえなかったのかと思って同じセリフを繰り返せば、レイラは眉間にしわをよせて頭を抱えてしまった。
「…………ひ、姫様、どこでそう思われたんです?」
「だって私に臆さずに、真っ直ぐに喧嘩を売ってきたのよ。これはそういう事じゃなくって?」
「全然、まったく、何一つそんな事はないと思いますよ、姫様」
レイラが一言ずつ区切りながら、しっかりとした声でそう断言する。
それから彼女はこめかみを押さえつつ、
「喧嘩を売ってきた事が、どうしてそうなるんです?」
「だって私と話す時には皆、曖昧な態度を取るもの。なのにニコレッタさんはそうじゃなかったわ。ダンテだって同じよ。初めて会った時に、私に向かってはっきりと物を言ってくれたわ。私の事が好きじゃなきゃ、王族にそんな事しないでしょう?」
「違いますよ。どちらの時も姫様は、貴族のロッティ様でした。お二人共、とても勇敢ではありましたが、状況を考えればありえない事ではありません」
レイラは困り顔になりつつ首を横に振っているが、カルロッタは気にしない。両手を顔にあてて、頬をポッと赤らめた。
「最初は生意気だって腹が立ったけれど……好きだって思われるのは悪くないわ」
「……あの、姫様?」
「お友達になってくれるかしら……!」
「ひ・め・さ・ま! ダメですよ! ニコレッタさんにまでご迷惑をおかけするなんて!」
「何よ、いいじゃない! 友達を作れって言ったのはレイラ達よ!」
「うっ」
カルロッタがそう言えば、レイラは言葉に詰まった。
自分には友達が少ない。それはカルロッタ自身もよく分かっている。
理由は王族という身分に加えて、この癖の強い性格だ。普段の振る舞いも含めて、本当に友達と呼べる相手がほとんどいないのである。
そんな自分を心配して、双子の護衛達は「友達を作りましょう!」とよく言ってくれていた。
だから、友達になりたい相手が出来たので、喜んでくれると思ったのだが、反応があまりよろしくない。それどころか、
「第一印象が最悪過ぎて無理そう……。陛下に報告しなきゃ……」
なんて難しい顔になって、再び頭を抱え始めた。
失礼ね、とカルロッタは思いながら、ニコレッタの事を考え始める。
――お友達。
同性で同年代は、もしかしたら初めてかもしれない。そう考えたら楽しくなってきて、カルロッタはにこにこと笑顔になったのだった。




