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砂糖菓子令嬢と甘党騎士のちっとも甘くない婚約事情  作者: 石動なつめ


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6-5 バナナチップス


 ちょうどその頃、王城ではロッティことカルロッタ・パルマが自室で、不機嫌そうにバナナチップスを上品に食べていた。


「もう、信じられないわ。人前で服を脱ぎだすなんて!」

「そもそも姫様が焚きつけたんですよ。ああいう振る舞いはおやめくださいと、何度も申し上げております」


 そんな彼女に双子の護衛の片方――レイラが苦言を呈する。カルロッタは「だって」と口を尖らせた。


「ダンテなら格好よく勝ってくれると思ったんだもの。あんなに賭け事に弱いとは思わなかったわ」

「誠実な証拠ではありませんか。カジノにはまったく慣れていなさそうでしたし」

「それはそうだけど……勝つところが見たかったわ」


 カルロッタはそう言って肩をすくめる。

 恋する相手の素敵な姿は、いつだって見たいものだ。ペンダントを理由に会いに来てもらうのを諦めるなら、そのくらいはいいだろうと提案したのに、これでは意味がない。

 つまらないわ、と思いながらカルロッタはバナナチップスをもう一枚口に入れた。


「それよりも姫様。以前ならまだしも、婚約者のいる方に迫るのはおやめください。品がありません」

「別にいいじゃない、私の方が先にダンテを好きになったのよ。私が奪えるなら、その程度の関係だったって事だわ」

「姫様!」


 つーん、と顔を背けて言うカルロッタに、レイラが目を吊り上げる。

 カルロッタと同い年(十八歳)のこの護衛は、彼女の双子の弟共々、小さい頃から一緒だったためか、自分に対して臆せず物を言ってくる。

 口うるさいとは思うが、その事はカルロッタにとって不快ではなかった。自分の事を想って言ってくれているのだと理解しているからだ。

 王族であるカルロッタに強く言える人間はそう多くない。だからこそレイラ達のように、ダメな事はダメだと言ってくれる相手は貴重なのだ。

 そう考えると、カジノで出会ったダンテの婚約者も、レイラ達に少しだけ似ていた気がする。


「……そう言えばダンテの婚約者。名前をニコレッタ・ジャンニーニと言ったかしら」

「ええ。ジャンニーニ家のご令嬢ですね。元、ですが。ご両親がタチの悪い詐欺師に騙されて、没落したと聞いています」

「そうだったわね」


 ニコレッタ・ジャンニーニは、パルマ王国では珍しい銀色の髪をした少女だった。

 顔立ちはなかなかかわいらしいが服装が地味だ。もう少しお洒落をすれば映えるのに、なんて考えながら、カルロッタは彼女の言葉を思い出す。


貴族のロッティ(・・・・・・・)様ですよね! ええ、存じておりますとも!』


 ニコレッタはそう言って、カルロッタに対して一切の弱気を見せずに、堂々と挑発して来た。

 あんな風に真正面から、自分に喧嘩を売ってきたのはダンテ以来初めてだ。


「……ねぇ、レイラ」

「何でしょうか、姫様」

「ニコレッタさんって……私の事が好きなのかしら?」

「はい?」


 ぽつりと零れるように出た言葉にレイラは目を見開いて、それからやや間を開けて「……なんて?」と聞き返してくる。


「ニコレッタさんって私の事が好きなのかしら?」

「…………」


 聞こえなかったのかと思って同じセリフを繰り返せば、レイラは眉間にしわをよせて頭を抱えてしまった。


「…………ひ、姫様、どこでそう思われたんです?」

「だって私に臆さずに、真っ直ぐに喧嘩を売ってきたのよ。これはそういう事じゃなくって?」

「全然、まったく、何一つそんな事はないと思いますよ、姫様」


 レイラが一言ずつ区切りながら、しっかりとした声でそう断言する。

 それから彼女はこめかみを押さえつつ、


「喧嘩を売ってきた事が、どうしてそうなるんです?」

「だって私と話す時には皆、曖昧な態度を取るもの。なのにニコレッタさんはそうじゃなかったわ。ダンテだって同じよ。初めて会った時に、私に向かってはっきりと物を言ってくれたわ。私の事が好きじゃなきゃ、王族にそんな事しないでしょう?」

「違いますよ。どちらの時も姫様は、貴族のロッティ様でした。お二人共、とても勇敢ではありましたが、状況を考えればありえない事ではありません」


 レイラは困り顔になりつつ首を横に振っているが、カルロッタは気にしない。両手を顔にあてて、頬をポッと赤らめた。


「最初は生意気だって腹が立ったけれど……好きだって思われるのは悪くないわ」

「……あの、姫様?」

「お友達になってくれるかしら……!」

「ひ・め・さ・ま! ダメですよ! ニコレッタさんにまでご迷惑をおかけするなんて!」

「何よ、いいじゃない! 友達を作れって言ったのはレイラ達よ!」

「うっ」


 カルロッタがそう言えば、レイラは言葉に詰まった。

 自分には友達が少ない。それはカルロッタ自身もよく分かっている。

 理由は王族という身分に加えて、この癖の強い性格だ。普段の振る舞いも含めて、本当に友達と呼べる相手がほとんどいないのである。

 そんな自分を心配して、双子の護衛達は「友達を作りましょう!」とよく言ってくれていた。

 だから、友達になりたい相手が出来たので、喜んでくれると思ったのだが、反応があまりよろしくない。それどころか、


「第一印象が最悪過ぎて無理そう……。陛下に報告しなきゃ……」


 なんて難しい顔になって、再び頭を抱え始めた。

 失礼ね、とカルロッタは思いながら、ニコレッタの事を考え始める。

 ――お友達。

 同性で同年代は、もしかしたら初めてかもしれない。そう考えたら楽しくなってきて、カルロッタはにこにこと笑顔になったのだった。


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