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砂糖菓子令嬢と甘党騎士のちっとも甘くない婚約事情  作者: 石動なつめ


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6-2 バナナチップス


 勝負を終えたVIPルーム――そこには敗者達が並んでソファに座っていた。

 ニコレッタとダンテである。二人は室内にいるのに、何故かひゅるりと風が吹いているような、そんな侘しさを醸し出していた。


「見事に……負けましたね……」

「コインって……儚いですね……」


 しおしおになった顔でそう呟く二人。ダンテにいたっては着ていた服とグラナートコインを交換したため下着姿である。

 勝負を終えたのに何故まだここにいるのかと言えば、もちろんこの格好が理由だ。さすがに今の格好では帰せないと、オーナーのネロが迎えの人(フェイ)を呼んでくれたので、VIPルームでそのまま待機させてもらっているのである。


「情けない姿をお見せしました……」

「いえいえ、格好よかったですよ」

「そう……ですか?」

「ええ。大事なもののために頑張る姿は格好いいですよ」


 ニコレッタがそう言うと、ダンテは目を瞬いて、少し照れつつ指で頬をかいた。こういうところはかわいいな、と言葉にはせずにニコレッタは微笑む。


「それにしても、カルロッタ姫様(ロッティ様)、帰っちゃいましたねぇ。今度こそ真正面から喧嘩を売ってしまいました」

「それこそ格好よかったですよ。私はなかなか出来なくて」

「んふふ。ダンテさんがお会いする時は王族の姫様ですからね。今日はたまたま一般貴族のロッティさんだったので何とかなりましたけど、普段であればこうはいきませんよ」


 もしも姫君として会っていたら、それこそ不敬罪になりかねない。即座に首が飛んだりはしないだろうけれど、捕まるくらいはしたかもしれない。

 ただ、今後の風当たりはきつくなりそうだが。そうなったらその時に考えようとニコレッタが思っていると、


「正直……騎士になって、こういう事が起こるとは思っていませんでした」


 ダンテが目を伏せて、ぽつりと零すように言った。


「私ね、騎士ってもっとこう……物語で描かれるヒーローみたいな感じの仕事()すると思っていたんですよ。ヒーロー・ジャンキーのヒーロー譚の主人公だって、どんなに落ちぶれていても、ヒーローとして活躍するんです。そんな物語のヒーロー達に憧れて、私は騎士になりました」

「お、いいですねぇ~。格好いいですもんね」

「はいっ! だからそのためならいくらでも頑張れました。訓練も好きです。書類仕事も好きです。現実は物語みたいに派手じゃなくても、ヒーローっぽさなんてほとんどなくても、私は騎士という仕事が好きです。だけど……恋愛関係のいざこざはッ、好きじゃないッ」


 頭を抱えてダンテは叫ぶ。血の涙を流す錯覚を覚えるくらいの悲痛さだった。心の底から困っているのが見ているだけで伝わってくる。

 ニコレッタも先ほど自分の目でその現場を見て、これは大変そうだなと思った。婚約者がいてもおかまいなしにあの調子なら、相手が王族である事も含めて対処は困難だっただろう。


「……どうして私なんだろうって思いましたよ」


 疲れたように肩を落とし、ダンテは言う。


「私は周りが言うような理想の騎士ではないですし。そんなに立派じゃないし。……今だってすっからかんだ。慣れない事をして、結局、失敗した。依頼でボロボロになる事はほとんどなかったので、こんな姿になったのは初めてです。身ぐるみはがされるってこう言う感じですかね」

「そうですねぇ。そこはホラ、自ら差し出したので、ちょっと違うかも」

「あはは、そうですね」


 ニコレッタの言葉にダンテは少しだけ明るく笑った。それから視線を上げて、天井のシャンデリアを目に映す。キラキラとした輝きがダンテの瞳を輝かせた。


「……だけど、何ででしょうねぇ。すごく晴れやかなんですよ。負けたのに」

「大事なもののために頑張ったんですから、晴れやかなんですよ」

「そうですかね」

「そうですよ」

「みっともないって言われました」

「私にはそうは見えませんので、感じ方は人それぞれなんじゃないですかね」

「そっか」


 小さく笑ってダンテは握っていた手を開く。そこには彼のペンダントが握られていた。


『先ほどのペンダントを査定し直しました。残ったコイン分での交換で大丈夫ですよ』


 勝負が終わった後、ネロはそう言ってペンダントを返してくれた。

 あれはお情けだったのか、実際にそうだったのかは分からない。だが、とにかくダンテのペンダントを取り戻す事は出来た。


「綺麗なペンダントですね」

「はい。これ、父の形見なんです。妹は母の形見を持っていまして。この世に二つしかない、オーダーメイドの品物なんですよ。両親の友人が結婚祝いに作ってくれたものなんだそうです」

「それは素晴らしい。何よりの宝物じゃないですか」


 ニコレッタが何気なくそう言うとダンテは軽く目を見張った。それからとても嬉しそうな笑顔を浮かべて、


「そうでしょう?」


 と言った。ニコレッタは一瞬、その笑顔に見惚れた。

 ぱちぱちと目を瞬いた後に、ちょっと顔が熱くなったのを感じて、ニコレッタは慌てて顔を逸らす。

 ――よくない、よくない。これは一時的な婚約なのだ。

 うっかり惚れそうになってはいけないと、ニコレッタは首をぶんぶん横に振る。ニコレッタの様子を見て、ダンテは不思議そうに首を傾げている。

 そんな話をしていると、コンコン、ドアがノックされた。


「ジャンニーニ様、アルジェント様。お待たせいたしました。お迎えの方が到着しましたよ」


 入って来たのはネロだ。彼の直ぐ後を呆れ顔のフェイが続いてやって来る。

 フェイはダンテの様子を見てため息を吐くと、


「も~、何やってんの、こんな時間マデ~! ちっとも帰って来ないから探したんだヨ! ネロから連絡をもらってびっくりしたんだからネ!?」


 と言ったのだった。


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