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砂糖菓子令嬢と甘党騎士のちっとも甘くない婚約事情  作者: 石動なつめ


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6-1 バナナチップス


 結論として、ビギナーズラックというものは存在しなかった。


「…………」

「…………」

「ダ、ダンテ……それにニコレッタさん……。あなた達、びっくりするくらい弱いわね……」


 大負けをして打ちひしがれる二人に、さすがのカルロッタも手にブドウを持ったまま固まって、同情した様子でそう言った。

 どうやらフルーツを食べながら優雅に観戦するつもりが、当てが外れたようだ。


「カジノもカジノゲームも初めてだったので……」

「コインって儚いんですね……」


 ニコレッタとダンテは黄昏れながらそう零す。

 実のところ、ここまで大負けするとはニコレッタも考えていなかったのだ。手持ちのお金は――もっともニコレッタはそこまで持っていなかったが――すっからかんである。


「それなのに、あんなに自信満々に答えたわけ!? 考え無し!?」

「ロッティ様に言われるってよっぽどですよ」

「どういう意味かしら!?」


 護衛のツッコミにきいっと怒るカルロッタ。

 それを見てネロは苦笑しつつ、


「どうします? お手持ちがなければ、こちらはお取り置きしておきますので、後日という事でも構いませんよ。もしくは何かと引き換えにコインを得るという手段もありますが……」


 と提案した。取っておいてくれるならば、ひと安心だ。

 カジノ側としても、出所が不明な品物が景品に紛れ込んでいたという事で、気を遣ってくれているようだ。ニコレッタがほっとしていると、


「手持ち……そうか! では服はどうでしょうかっ!?」


 するとダンテがハッとした顔になって服を脱ぎ始めた。

 大真面目な様子の彼にカルロッタが「はい!?」と目を剥く。


「だ、ダンテ!? あなた何を……」

「おや。ダンテさん、やる気ですね!」

「もちろんです! 大事なペンダントがかかっていますから」

「なるほど。そうですね……アルジェント様がお召しになられているものは、人気のあるメーカー品ですし……構いませんよ。ダンテ様の私物という事で、一部の方に人気が出そうです」


 若干含みを持たせてネロは頷く。するとカルロッタが悲鳴を上げた。


「ちょ、ちょっと! 冗談でしょ!?」

「本気です」

「きゃあ! もう、やだ! やめてよ!」


 カルロッタは顔を真っ赤にして、テーブルの上に置かれたフルーツを投げつけた。バナナだ。そんなに勢いはなかったので、ニコレッタはダンテの代わりに、はしっとそれをキャッチする。


「食べ物を投げたらダメですよ」

「それはごめんなさいね! じゃなくて――私はダンテが格好よく勝つところが見たかったのに! これじゃあ何の意味もないわ! お金がないからって自分の服をだなんて、みっともない! 興覚めだわ! 帰るわよ!」

「えええ、これだけ騒ぎを起こしておいて……!?」

「み、皆様、大変ご迷惑をおかけしました。後日、必ずお詫びに伺います……!」


 怒りに任せて靴音を立てながらカルロッタはVIPルームを出て行く。その後を護衛が慌てて追いかけて行った。

 残されたニコレッタ達はポカンとした表情を浮かべ、お互いに顔を見合わせる。

 少しして噴き出すように笑い出した。


「んふふふ。いやぁ、嵐でしたね」

「嵐でしたねぇ。それではオーナー、これをお願いします」


 下着姿になったダンテは、脱いだ服を綺麗に畳むとネロに手渡した。


「ふふ、ありがとうございます。ああ、下着はそのままで結構ですよ」


 ネロは微笑んでそれを受け取る。

 それを見ていたニコレッタは、これだけでカジノのコイン代は足りるだろうかと心配になった。

 自分も何かないかと考えながら身体を見回す。そして髪が目に入って「あ!」と目を輝かせた。


「私の髪も同じように出来ませんかね? 銀髪は結構珍しいと聞きますし!」

「ニコレッタさん、何を言っているんですか!? ダメです! それはダメ!」

「髪は生えて来るから便利ですよね。前に一度売りました。そこそこのお値段でしたよ」

「それは確かにそうでしょうが、私の事であなたに傷をつけたくない!」

「たかが髪ですよ?」

「されど髪ですよ!」


 普段のダンテと違った強い口調で止められて、ニコレッタはぱちぱちと目を瞬く。

 ここまで必死の形相を浮かべるダンテは初めてだったので、ニコレッタは驚きながら、こくこくと頷いた。


「わ、分かりました……。あ、なら服はどうでしょう? ダンテさんのようにプレミア価格はつきませんけれど、素材はなかなか悪くないですよ。上着くらいならセーフですし」

「もっとダメです!」


 ダメらしい。これではコインに替えられるものがなくなってしまう。

 ニコレッタが「うーん」と悩んでいると、ネロが堪えきれないと言った様子でくすくす笑い出した。


「オーナー?」

「失礼しました。いえ、ふふ……。とても可愛らしいカップルだなと思いまして」

『か、カップル……!?』


 ネロから微笑ましそうに言われて、ニコレッタとダンテの顔が赤くなる。

 一時的な婚約者同士ではあるし、そういう風に振舞おうとは思っていたものの、改めてそう表現されると妙に気恥しくなってしまう。変な感覚だと思いながらニコレッタは頬に手を当てた。熱い。


「素敵なものを見せていただいたお礼に、ジャンニーニ様の髪をいただいたくのと同じ分をコインでお渡しいたしましょう」

「いいんですか?」

「ええ。こう見えて私、ここのオーナーですから」


 ネロは茶目っ気たっぷりにウィンクする。ニコレッタとダンテはパッと目を輝かせて『ありがとうございます!』と頭を下げた。


「では、準備はよろしいでしょうか?」

「もちろんです!」

「よろしい。――それでは始めましょう!」


 満足げに頷くネロ。

 そうしてニコレッタとダンテの最後の挑戦がスタートしたのだった。


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