5-3 バナナオレ
ダンテと合流したニコレッタは、ペンダントが落ちていないか探しつつ、大通りへと向かう。そして屋台があった場所に到着したのだが、残念ながらすでにどこかへ移動した後だった。
ただ、店を閉めるには少々早い時間にも思えるので、バナナオレ以外の仕事を終えたから今日のところは逃げた、とも考えられる。
「とりあえず、近くの人に聞いてみましょう」
「……はい」
「大丈夫ですよ、ダンテさん。そんなに時間は経っていません。見つけましょう」
ニコレッタは落ち込むダンテの背中を、手でポンポンと軽く叩いて元気付けるように笑いかける。
それから周囲を見回した。幸いなことに人の姿はあるし、付近に営業している店もある。だから、その中に何人か、屋台を見ている人がいるかもしれない。
ニコレッタとダンテが手分けをしつつ情報収集をしていると、
「ああ、それならさっき、店を閉めているところを見たよ」
そんな話をしてくれる人を発見した。
「その屋台、どちらの方へ行ったか分かります?」
「ああ。えーっと、あっちだ。グラナートパレスの方だよ」
そう言って、その人は左の方を指さした。
グラナートパレスと言うのはカジノの名前だ。
ニコレッタは外から見たことがあるくらいだが、深い赤色を基調とした品のある外観の建物で、貴族やお金持ちが多く通っているらしい。
情報をくれた人にお礼を言って別れると、ニコレッタたちは件のカジノを目指して歩き始めた。
「カジノと屋台とスリ……あまり結びつかない単語ですね。カジノでスリをしているって話なら、まぁ、分からないでもないですけれど」
「そうですね。ですが、あそこはオーナーが厳しい方らしいので、そんな真似をしたらタダでは済まないと思いますよ。以前にトラブルが発生したと、騎士団へ通報があった時に駆け付けたら、犯人が悲惨なことになっていたそうです」
「悲惨?」
「精神的にボコボコにされていたらしいです」
「うわぁ……」
それはまた相当な仕返しをされたものだ。ニコレッタは驚愕の表情を浮かべたが、それはそれとして、通報されるほどのことをした方が悪いのは事実である。
やり過ぎ感は否めないが、何かあれば然るべき対処をしますよと、周囲へ分かりやすく示しているあたり、ちゃんとしたカジノなのだろう。
「ダンテさんは行ったことがありますか?」
「ないですね。同僚の何人かはたまに行っているらしく、ギャンブル依存にならない程度に遊んでいるみたいですよ。……中にはちょっと手遅れになりそうなのもいますが」
「あらまぁ。騎士団のお金に手を付けたらアウトなので、今のうちに何とか止めた方がいいですよ。せっかく騎士になれたのですから、不名誉な形で辞めるのは避けたいでしょうし。お金のイザコザは怖いですからねぇ」
「ニコレッタさんが言うと説得力がありますね」
「んふふふ。でしょ~?」
そんな話をしながら歩いていると、グラナートパレスへ到着した。
営業はしているようだが、時間帯の関係か、今のところ周囲に人気はほとんどない。
ダンテとニコレッタは、建物の周りをぐるりと歩いて、まずは様子を見ることにした。
「途中には、屋台らしきものはありませんでしたね」
「そうですね。ここで何か手がかりがあれば……あ、ニコレッタさん、こっちへ!」
そうして裏手までやって来ると、何かに気が付いたらしいダンテに手を引かれた。
そのまま、ダンテに包まれるような形になって物陰に身を隠すと、少し遅れて上空をオウムが飛んで行くのが目に映る。
(オウムだ、初めて見た)
オウムは、パルム王国には生息していない鳥類なので珍しい。
(そう言えばリナさんが、あの屋台にオウムがいるって言っていたっけ)
もしかしたら、あれがそうなのだろうか。
ニコレッタはダンテの服を、指でつまんでくいくい引いて彼を呼ぶ。
「ダンテさん、あれってもしかして」
「ええ。屋台の店主と一緒にいたオウムです」
小声で聞けば、ダンテは頷き返してくれた。
なるほど、とニコレッタは心の中で呟く。それならば、この辺りに目的の人物がいるはずだ。
二人はなるべく顔を出さないように、オウムを目で追う。するとオウムは真っ直ぐにグラナートパレスへ向かって行った。
そのままじっと見つめていると、ふと、その足の辺りで何かがキラリと光るのが見えた。
――何だろう?
ニコレッタがそう考えている内に、オウムはグラナートパレスに到着する。
「ジブリルッ、ジブリルッ」
するとオウムの口からそんな単語が出た。人名だろうか、オウムがそう鳴きながら空を旋回していると、建物の脇から褐色肌の青年が顔を出した。
白色のワイシャツに黒色のベスト、それからネクタイをつけている。バナナオレの屋台の店主っぽい雰囲気ではないので、恐らくカジノの制服だろう。
オウムは「ジブリルッ」ともうひと鳴きすると、彼の腕へとふわりと降りる。そしてちょんちょんと小刻みにジャンプして青年の肩に乗ると、顔をすりすりとすり寄せた。
「ルーイ! どこに行っていたんだよ~。心配するだろ~?」
「コレ! コレ!」
そう言うとオウムは誇らしげに片足を上げた。
そこにあったのは指輪だ。器用に足で掴んでいる。
「おっ、また見つけてきたのか~? えらいぞ~!」
ジブリルと呼ばれた青年は、オウムの頭をよしよしと撫でた。
褒められたオウムはご機嫌にきゅるきゅる鳴いている。
「ダンテさん、あれってまさか……」
「……ええ。そのまさか、ですね」
どうやら犯人の可能性が高くなって来た。
そのまま様子を見ていると、彼らは従業員用の裏口からグラナートパレスの中へと入って行く。
ダンテとニコレッタはお互いに顔を見合わせて、
「…………」
「…………」
こくりと頷き合うと、正面の入り口へと向かった。




