表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂糖菓子令嬢と甘党騎士のちっとも甘くない婚約事情  作者: 石動なつめ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/43

5-2 バナナオレ

ダンテを見てニコレッタは目を丸くする。

彼は私服姿なので、仕事ということはないだろう。それならば、一体どうしたのか。

――そう考えてハッとした。

そもそも診療所を尋ねる理由なんて、基本的には一つしかないからだ。


「ダンテさん、もしかしてお怪我でもされました? それとも具合が悪いとか⁉」


 ニコレッタが慌てて駆け寄ると、ダンテは軽く目を開いた。そして直ぐに笑って首を横に振る。


「いえ、大丈夫です。至って健康ですよ」

「あ、良かった。それなら、どうしたんですか?」

「実は本日、急にお休みになりまして。それで街を散歩していたら、大通りでバナナオレを売っている屋台を見かけたのです。試飲させていただいたら美味しくて、せっかくなのでニコレッタさんに差し入れをと。……あっ、もちろん、フェイ先生のもありますよ」


 焦った様子で言葉を付け足したダンテに、フェイが苦笑する。


「そんなに怯えないでいいのにネ~。別に取って食ったりはしないヨ」

「取るっ⁉」


 びくーん、とダンテの肩が跳ねる。


「フェイ先生、何を言ったんですか……?」


 大人の騎士がここまで怯えるなんて相当である。

 ニコレッタが、若干訝しみながらフェイを見ると、彼は「別ニ~?」とすっとぼけた。


「それにしても、僕の分もなんて嬉しいネ。ちょうど患者さんが一区切りしたところだから、ゆっくりしていっていいヨ!」

「あ、ありがとうございます! は、ははは……」


 ダンテは頬を引きつらせながら笑う。

 フェイに話しかけられると、微妙に緊張しているようなので、何を言われたかは知らないがだいぶトラウマになっているようだ。

 ――かわいそう。

 ニコレッタはそう思った。



        *



 診療所のドアの外側に『休診中』の看板を下げると、ニコレッタたちは奥にある休憩室へと移動した。

 窓際の台に、リラックス効果のある植物が綺麗に並び、座り心地の良いソファのあるそこは、少々狭いながらも落ち着く雰囲気になっている。

 ニコレッタはいつもここで、フェイと食事や休憩を取っていた。


「実は今日のおやつ、バナナマフィンだったんですよ」


 そんな話をしながら、ニコレッタはテーブルの上に、持ってきたバナナマフィンを置く。その隣にダンテのバナナオレを並べた。

 どこか南国を彷彿とさせるバナナの香りが、ふわりと室内に広がる。

 ――バナナ尽くしだ。

 滅多にないことだとにこにこしながら、ニコレッタはフェイやダンテと一緒に、それぞれのバナナオレを飲んだ。


「あ、美味しい……!」


 甘いだけではなく、どこか爽やかさも感じる優しい味だ。それから、バナナともミルクとも違う甘さを感じる。ニコレッタが使ったことのない風味のものだ。


(ハチミツかしら?)


 面白いなぁと思いながら、ニコレッタが頬を緩ませていると、ダンテが「良かった」と嬉しそうに呟く声が聞こえた。


「本当ダ、美味しいネ~。ニコレッタのバナナマフィンとも良く合うヨ!」

「んふふ。これは素敵なお話を聞きました。今度うちの店でも作って、バナナマフィンとセットで売ろうっと」

「キミネ?」


 フェイが半眼になったが、商売人としては重要な話である。

 ニコレッタは「んふふ」と笑って、バナナオレをもう一口飲んだ。


「でもこれ、本当に美味しいです。基本的な材料は手に入る範囲で大丈夫だと思いますけど、このハチミツはどこのでしょう」

「ハチミツ?」

「ええ。バナナオレの甘さの中に、ほんの少しだけ、そんな風味を感じました。隠し味ですかねぇ」

「全然気がつきませんでした……。さすがお菓子屋さんですね」

「んふふ」


 ダンテに褒められて、ニコレッタが胸を張って笑っていると、


「本当に良い舌をしているヨ、ニコレッタ。これは南の国(ヴォラーレ)で採れるハチミツで、パルム王国では滅多に流通していない品だネ」

「あ、そう言えば屋台の店主さんは、そちらの出身っぽい見た目の方でしたね」


 ヴォラーレとはパルム王国の南東にある、周囲を海に囲まれた島国だ。

 陸地のほとんどが砂で覆われており、昼と夜の寒暖差が激しい土地だと、ニコレッタは本で読んだことがある。

 パルム王国では滅多に見かけない、珍しい果物や香辛料もあると聞いて、いつか訪れてみたいとニコレッタは思っていた。

 そこのハチミツと、まさか出会えるなんて。ニコレッタがジーンと感動をしていると、フェイが顎に指をあてた。


「なるほどネェ……。んー、時にダンテ君」

「何でしょうか?」

「君さ、身に着けているものに、何か違和感はないカイ? ちょっと調べてくれナイ?」


 するとフェイがそんなことをダンテに頼んだ。

 急にそんなことを言われたものだから、ダンテはぱちぱちと目を瞬いたが、素直にその言葉に従って確認し始める。

 そうして、最後に首の辺りに手が触れた時、


「――あっ」


 ダンテは目を見開いた。


「ペンダントが、ない……⁉」

「えっ⁉」


 彼のペンダントと言うと、ラウラとお揃いのアレだろう。

 ニコレッタもぎょっと目を剥くと、フェイが「やっぱり……」と呟いた。


「フェイ先生?」

「たぶんその屋台の店主、スリだネ」

『スリ⁉』


 ニコレッタとダンテが声を揃えて絶叫する。


「あの屋台でバナナオレを買った人間のほとんどが、その日に物を失くしているみたいなんだよネ」

「そう言えばリナさんも、ブレスレットを失くしたと言っていましたね……」

「そうそう。ダンテ君、その時に何かおかしなことなかったカイ?」

「おかしなことですか……。……あ、そうだ。バナナオレを飲んだ時に、一瞬ぼうっとした気がします。……まさか、この中に毒が⁉ ニコレッタさん、吐き出してください!」


 ダンテは立ち上がりニコレッタに駆け寄ると、肩をがしっと掴んで言う。

 あまりに真剣な眼差しに、ニコレッタも口の中に手を突っ込もうとして、


「待って、待って。変なものは何も入っていないカラ! ニコレッタも迷いがないネ⁉」


 と、フェイに慌てて止められた。


「飲食物におかしなものが入っていたら、僕が真っ先に気がつくヨ。それに、僕たちより先に飲んだダンテ君が無事だから平気」

「あ、確かに……」


 そう指摘されてダンテはほっと息を吐く。

 ややあって、ニコレッタに触れていたことを思い出して、ダンテは顔を真っ赤にして「し、失礼しました!」と手を離した。


「ま、そもそも、飲食物に悪意で毒の類を入れるのは、この国では重罪だからネ。入国の時にかなり厳しい口調で忠告をされるカラ、しないデショ。たぶん魔法の類じゃないかと思うんだケド」

「そう言えば店主の腕に妖精石がありましたね……。……そうだ、バナナオレを飲んだ時に、妖精石が光りました」

「それダネ! ……って言うか、キミは注意力があるのかないのか、どっちなんダイ?」 


 訝しんだ眼差しのフェイに、ダンテはあたふたしていた。

 それは確かにとニコレッタも思った。アルジェント家の騎士ダンテとして聞いていた評判と、こうして実際に見たダンテの姿は結構イメージが違う。

 何ごとも、自分の目と耳で見て聞いて判断しなければいけないな、とニコレッタは思った。

 まぁ、それはともかくだ。


「つまり屋台の店主さんがバナナオレと魔法で隙をついて、ダンテさんのペンダントを盗んだ……ってことですか?」


 改めて言葉にしてみると何とも作ったような話だ。

 今の時点で、屋台の主人を犯人だと決めつけるのも良くないが、それでもいくつかの条件が揃っている。


「それにしても、この体格の男性をよく狙う気になりましたねぇ」

「ダンテ君、ちょっとぼうっとしているところがあるし、いけると思ったんじゃナイ?」

「な……情けなさ過ぎる……」


 ダンテは、ガーン、とショックを受けて頭を抱えた。

 しかし彼は立ち直りも早かった。


「……すみません。直ぐに屋台へ行ってみます!」


 ダンテはそう言って席を立つと、診療所を走って出て行った。


「ダンテさん⁉」

「よっぽど大事なものだったんだネ」

「フェイ先生、ちょっと追いかけても良いですか⁉」

「いいヨ。あの分だと、止める人間がいなければ、ずっと探し続けるだろうからネ」

「はい! 行ってきます!」

「だけど深入りしないコト。何かあったら、まず僕のところへ相談に来なサイ……って、イナイ⁉」


 フェイがニコレッタの方を見た時には、診療所のドアがパタンと閉じるところだった。


「ん~……まぁ、ニコレッタが一緒なら無茶はしないカ」


 フェイは後頭部をがしがしとかいてから、バナナオレを見て小さく息を吐いたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ