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砂糖菓子令嬢と甘党騎士のちっとも甘くない婚約事情  作者: 石動なつめ


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4-2 ハニーケーキ

 デートから数日後。

 ダンテ・アルジェントは神妙な顔で、妹とお茶を飲んでいた。

 今日のお菓子はパティスリー・シュガーポットで購入したハニーケーキだ。先日食べたものよりも、少し甘めでベリーの風味が感じられる。ニコレッタ曰く、ハチミツの種類で味が少し変わるらしい。

 それを聞いた時、ハチミツが変わるごとに楽しめるのかと、ダンテは嬉しい衝撃を受けた。


 さて、そんな優雅なアフタヌーンティーの時間なのだが。

 ――ダンテの表情は、妙に硬かった。

 そんな兄を見て、ラウラはティーカップを両手に持ったまま、不思議そうに首を傾げる。


「お兄様、お顔が怖いわ。どうしたの?」

「えっ」


 妹から指摘されたダンテは、ハッとなって顔を上げる。


「顔? そ、そんなに怖いか?」

「ええ、とっても。今ならお顔で魔物が倒せそうよ」

「そんなに⁉」


 ダンテはぎょっと目を剥いた。

 確かに考えごとはしていたが、外敵を倒せそうになっているほどの表情とは、一体どんな恐ろしい顔を自分はしていたのだろうか。

 ダンテは慌てて自分の頬をぐにぐにとマッサージする。そして「……どう?」と尋ねると、ラウラからは「及第点ね!」との言葉が返ってきた。

 ダンテはほっと胸をなでおろす。


「それで、どうしたの? 何かあったの?」

「いや、その……先日、ニコレッタさんとデートをした時のことなのだが……」


 そう言ったとたん、ガタンッ、とラウラが立ち上がった。

 妹の突然の行動にダンテが驚いていると、


「お兄様、ニコレッタお姉様と喧嘩したの⁉」

「し、していないぞ! どうしてそうなるんだっ⁉」

「だって、デートをしてきましたって顔じゃないもの! お兄様、人生で初デートだったのよ⁉ なのにどうしてそんな顔になっているの⁉」


 ラウラにそう言われ、ダンテは「うっ」と言葉に詰まった。

 

 妹の言う通り、先日のあれは、ダンテにとって初デートだった。

 騎士として仕事をしていると、女性から華やいだ声が飛んでくるダンテだが、実のところ女性とお付き合いをした経験がまるでない。

 だから期間限定の婚約者関係であっても、好印象を抱いているニコレッタとのデートに、ちょっと浮かれていたのだ。

 そう、妹と一緒にデートプランを練るくらいには。


「いや、確かに……そうだけど。でも喧嘩はしていないんだよ」

「本当に? お兄様ってば、たまにノンデリなところもあるから心配だわ」

「ノン……デリ……」


 さすがにショックを受けてダンテは少しばかり固まった。

 自覚があまりないが、一番近くにいる家族がそう言っているのだから、そうなのかもしれない。気を付けようとダンテは思った。


「それなら、どうしてそんな顔をしているの? デートは楽しくなかった?」

「いや、楽しかったよ。ニコレッタさんと色々話ができたし。そうじゃなくて、その……」

「はっきり仰って」

「私が真面目で、そういう人が一番好き……と言われて……」

「えっ!」


 思い出して照れくさくなっていると、ラウラの顔がパッと輝く。

 そして彼女はテーブルに両手をついて身を乗り出す。


「本当⁉ お兄様のこと、好きになってくれたの⁉」

「い、いや、違う! そういう対象ではないと思う!」


 ダンテが慌てて首を横に振ると、ラウラが残念そうに「そうなの……」と呟いて椅子に座り直した。


「そんなにガッカリしなくても……」

「するわ。だって、今まで見てきた女性の中で、ニコレッタさんが一番優しくて、現実的ですもの。お兄様はちょっと夢見がちなところがあるから、ピッタリだと思うの」

「ラウラの中で私は、一体どんな立ち位置になっているのだろう……?」


 デリカシーがない辺りは、多少は納得できるが、夢見がちというのは腑に落ちない。

 ダンテが微妙な顔をしていると、ラウラは反対に楽しそうな笑顔を浮かべる。


「そんなことより! お兄様、ちょっと嬉しかったのでしょう?」

「……ああ」


 妹の言葉にダンテは素直に頷いた。


 ダンテは異性に人気がある。

 そのことは自分自身も知っているし、それが容姿とか、アルジェント家の長男だとか、外側の理由で目を惹いているのも承知していた。

 それが嫌だと思ったことは無いし、そういう部分も含めて、ダンテ・アルジェントという人間だ。


 けれども何となく、その理由で告白されても、お付き合いをする気にはダンテにはなれなかった。亡くなった両親が、お互いに最悪の出会いから、徐々に内面を知って結婚した話を、耳にタコが出来るくらい聞いていたからかもしれない。

 お付き合いや結婚をするならば、お互いに中身を知って好きになれる相手が良い。

 ――そんな漠然とした理想を、ダンテは抱いていた。

 だからニコレッタが、自分の中身を褒めてくれてダンテは嬉しかった。

 それを思い出して微笑んでいると、


「……でも、なら、どうして怖いお顔をしていたの?」


 ラウラからさらにそう訊かれた。


「彼女にとって私が、恋愛対象じゃないのだろうなと理解したから、かなぁ……」


 公園デートの後で彼女の家にお邪魔をして、ハニーケーキをご馳走になった。

 その時にニコレッタの口から「いつかの出会いのために」という言葉を聞いて、ダンテはちょっとだけショックを受けた。

 そしてショックを受けた自分に、さらにショックを受けていたのである。

 ニコレッタはダンテのために厚意で婚約してくれているだけなのだ。

 それなのに、一瞬でもそんな感情を抱いてしまった自分が恥ずかしい。

 それをダンテは反省していた。


「一時的な婚約と言ってくれているのに、ほんの少しでも不純な気持ちを抱いた自分を、どう律せばいいか考えていた」

「キリッとした顔で仰らないで」


 ラウラは頬に手を当てて深くため息を吐く。

 そんなに呆れるようなことを言っただろうかと、ダンテは困惑した。


「もう! お兄様はもっと積極的に、恋愛小説を読むべきだわ。私のおすすめを貸してあげるから、しっかり勉強するといいの!」


 そう言ってラウラは、ダンテに向かって指をびしりと突きつける。


「いや、だがお前の趣味はちょっと……」

「お返事!」

「はいっ!」


 母親が叱る時の言い方と、まったく同じ雰囲気で言われて、ダンテは思わず背筋を伸ばして返事をした。


(ラウラの趣味って、三角関係ものばかりだから、参考にならないんだよな……)


 ……なんてことを、心の中で呟きながら


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