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003 停頓と進展

「一世!今日も勉強しに行っていいか?」


一昨日勉強会をした志郎。

一日空いたが、また行きたい。いや、会いたいのだ。

テストはもう三日後に迫る。


「ああ。いいぞ。」


そうして、放課後、また一橋家を訪れる志郎。

勉強しに行くなんてものは表面上で、あの執事さんに会いたかった。

それが恥ずかしいと、心の中で思っていた。

でも、会いたいが勝った。


「いらっしゃいませ~。志郎さん。」


名前を呼ばれ、つい飛び跳ねそうになるのを抑える。


「お邪魔します。」


執事はにっこり笑ってた。

ドキッとする志郎だが、平然を装って一世の部屋に行く。

部屋に入って直後、一世が部屋を出ていった。

なぜかは分からない。

それと入れ替わるように、飲み物をもって執事さんが入ってきた。


「どうぞ~」


そういって、軽いお菓子と主にお茶をくれる。

ありがとうございます!そう言おうとした志郎だったが、それより違う言葉が出る。


「五つ?ですか?」


「ええ。5人来ると聞いておりますが。」


「あえ?そうなんすか。ありがとうございます。」


少しは会話できるようになっただろうか。


「お邪魔しまーす。」


一世はその残りの三人を迎えに行ったみたいだ。


「いえーい志郎!」


そう言って、入ってきたのは二条城信元(にじょうじょうのぶもと)

クラスで仲良くしている一人だ。

続けて、南場麗沙(なんばれいさ)。中学から仲良くしている。

最後に早乙女綾華(さおとめあやか)。高校からの友達だ。


「よし、勉強するか。」


一世がいい、豪邸ならではの大きなテーブルで勉強が始まる。

クラスで仲がいい五人だが、みんな勉強はできるのだろうか。

勉強面については何も知らない志郎だった。

麗沙は中学からの友達だから、ある程度勉強ができるのは知ってるのだが。


周りがうるさくても、集中し続ける一世。

二人でいちゃついている早乙女と二条城。

この二人は付き合ってこそいないが、両思いだと志郎は推測している。

そして、時々ちょっかいをかけてくる麗沙。割と日常茶飯なことなので、気にはならない志郎だった。


まあ、特にそれ以外何もなく勉強会は終わったわけだ。

この日、志郎が執事さんと話すことはなかった。

明日も、明後日も。

五人で勉強会をするのだが、志郎が執事さんと話すことはなかった、

モヤモヤな気持ちな志郎。

そうして、中間試験当日を迎えたのだ。

そして、無事それも終わる。

志郎は一世の家に行く理由がなくなった。

何日か何もない日々を過ごし。テストの順位表も張り出されていた。

もちろん志郎はいない。

志郎がさらっと見た感じ、一世は一位だった。

あとは中学からの友達の南場麗沙が十位にいた気がする。


そろそろあのゆるふわな執事さんに会いたい志郎であったが、もう次のテスト期間まで会えないかもしれない。

と考えていたのだが、思ってもいなかったことが起こる。


「志郎。放課後空いてるか?」


志郎は一世に話しかけられる。


「え、ああ。空いてるけど。」


「家で待ってる大事な話だ。」


「え、家?一世部活は?」


「今日はない。」


一世はサッカー部に所属しているのだが、今日はオフみたいだ。

ちなみに志郎は今のところ帰宅部である。


「あ、そうなん。分かった。」


え、なんか一世怖くない?心の中で焦る一世。

俺なんかしたか?家の必要ある?

それでも、執事さんに会えるのがちょっと嬉しい志郎である。


そんなこんなで一世の家にまた行くことになった志郎であった。


「お邪魔します。」


すると、いつものように、執事さんがいた。

一週間ぶりに会った執事さんに思わず目線が行ってしまう。

執事さんは軽く微笑み、それをずっと見ていたかった志郎だが、黙ったままの一世に連れていかれた。

一世の部屋に入ると、二人向き合って座る。

真剣な話というのがずっと引っかかっている志郎である。

志郎の脳内にはそのことと執事さんの二つしかなかった。


「お前、今回何位だったんだ。悲しいことに、トップ10すら入っていないようじゃないか。」


志郎たちの学校では、ネットを通して個別に順位が配信される。

トップ10の上位だけ。学校の廊下に張り出される。

志郎のマイページに配信された順位は198人中の84位だった。

半分よりは上で、何とも言えない数字だが、以前一世と一位を争っていたものと考えると、ずいぶん落ちぶれたものである。


「84位。一世は一位だったな。すげえな。」


「なんでそんなに元気なんだ?俺が悔しいのに、お前は何とも思ってないのか?」


「え、なんでお前が悔しがるんだ?」


「お前と競うのを楽しみにしてたのに、なんだよこのザマは!」


少し荒ぶる一世。


「ごめん。俺はもう前とは違う。」


「俺の知ってる志郎はこんなんじゃない。お前は、俺よりもずっと頭が良くて、ちょっとやっただけで、すぐ俺を置いて行って。俺はずっとそんなお前に憧れて頑張ってきたんだぞ。」


志郎は何も言えなかった。


「ごめん。ちょっと外出てくる。」


熱くなってしまった一世は外に行って頭を冷やしに行った。


それと入れ替わるように入ってきた。

あの執事さんだった。


「志郎さん、大丈夫ですか?」


執事さんは困惑した顔で言う。

なぜそんな顔をしているのかは分からない。


「あ、執事さん…大丈夫です。」


初めて彼女のことを口にした志郎だったが、それが名前ではなく、「執事さん」と呼んだのがなんだか悔しい志郎だった。


「あの子、志郎さんのこと好きなんです。ずっと私に話してくるんですよ。」


ゆるふわな執事さんだけど、真面目なモードに入っているのか、今執事さんはゆるふわではなかった。

すると、ドア付近に立っていた執事さんは、志郎のもとへ歩み寄った。

距離はあったが、隣に座った。


「葉加瀬花夜奈です。」


「え?」


突然の発言に驚く志郎。

この前教えてくれなかった名前を突然執事さんが告げたのだ。


「名前、あんまり人には言わないんです。だから前にも言わなかったんですよ。」


すこしだけゆるふわ口調になる執事、葉加瀬花夜奈さん。


「じゃあ、なんで?」


「志郎さんのことたくさん聞かせられるから、私色々知ってるんですよ。でも志郎さんは私のこと知らないでしょう。それは不公平?というやつじゃないですか?」


執事さんの圧倒的包容力というのだろうか。

志郎を見つめる目と、口調が、志郎をその包容力が襲う。


「志郎さんは天才だって言ってたんです。」


恥ずかしい志郎であった。どこまで知っているのだろう。

執事さんは一世から何を聞いて、どこまで志郎のことを知っているのか。


「何かあったのですか?テストができなかった理由。」


それは…

ただの実力だった。


「俺、中学生でだらしなくなっちゃって、今も変わらなくて…」


「中学の話は聞いてませんよ?」


「え?」


「志郎さんならやればできるって、あの子は言ってましたよ。」


志郎はハッとした。やっと気づいた。

志郎は中学でだらしない人間になったことをいいことに、逃げていたのだ。

一世の思っている志郎は、ちょっとやればすぐにこなせてしまう志郎。そう、今の志郎でも、本気を出せば、昔のようにすぐ一世に近づける才能を持っているのだ。


「私、応援してます。私が言えたことではないですが、志郎さんならできると思います。」


本当にその通りだ。所詮何のつながりもない執事さんに志郎にあれこれ言う筋合いはない。

でも、志郎には深く突き刺さった。

図星だったからなのか.

それとも、相手が執事さんだからなのか。

はたまた、その両方なのか。


「執事さんありがとうございました。俺、一世のとこ行ってきます。」


執事さんは黙ったままほほ笑んだ。

それにやられそうになる志郎。

志郎は部屋のドアの前で止まった。

自分の顔が赤いことが分かっていたため、それを見られないように志郎は振り向かないまま言った。


「執事さん。」


「どうしました?」


「あの、花夜奈さんって呼んでもいいですか?」


執事さんがどんな表情をしているのかは分からない。

執事さんはすぐに答えた。


「二人のときならいいですよ~」


完全にゆるふわ口調になっていた。


「二人のとき?」


顔に上っていた血が引いていったのを感じた志郎は執事さんのほうを向く。

変わらず、ほほ笑んだままだった。


「一世の前ではだめってことですか?」


すると、花夜奈さんは頷いた。

なぜそうしなければいけないのかは分からないが、志郎が聞くことはしなかった。

志郎はドアを開けた。

一世のところに行くために。


「志郎さん。」


もう部屋はでていた。

ドアはもうほんの少しで閉まる。

志郎はそこで手を止めた。

空けることはしなかった。


「いつでもきてくださいね。」

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