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第1話 梟の鳴き声

 私の地元はビルが建ち並ぶ都市から電車で1時間ほどの場所に位置する、いわゆるベッドタウンだ。

 ……とは言うが、実際は田園(でんえん)風景と住宅街が広がる、なんの面白味もない片田舎である。


 若い働き手はみな都会に進出するので、ここ数年は大した発展もなく、たまに新規開拓を狙った飲食チェーン店がオープンしては数年で閉店しているような寂しい土地だ。

 だけどあまり人混みが得意ではない私は、適度に静かなこの地元が好きだった。


 そんな(さび)れた田舎なので、学生をはじめとした若者たちは(みな)、常に遊ぶ場所に()えている。

 ゲームセンターやカラオケといった洒落(しゃれ)た施設もなく、精々やることと言えば放課後の教室に集まって、外が暗くなるまでグダグダと駄弁(だべ)る程度。

 私が高校生だった時代もご多分(たぶん)に漏れず、人気(ひとけ)のない溜まり場で不良のような真似事をしていた。


 男子は親兄弟から借りた卑猥(ひわい)な本を持ち寄り、味も分からないのに酒を旨いうまいと強がりながら飲み比べをする。

 女子達はそんな騒がしい男共を眺めながら、どの彼が好みだとか、やれあの仕草が素敵だなどという、実にくだらない話題で(かしま)しく盛り上がっていた。

 大人から見ればしょうもないと感じる光景だが、それはもう何年も前から何世代にも渡って繰り返されているらしい。


 そして若者の間で必ず話の種に上がるのが、『フクロギには近づくな』という怪談話。

 このフクロギというのは昔から地元にあるホラースポットで、高校の通学路の途中にある雑木林(ぞうきばやし)の中にある恐ろしい木、という何とも曖昧(あいまい)な噂話であった。

 とはいえ大した娯楽も無く、体力と暇を持て余した若者たちは肝試し感覚でそこへ行く、というのが恒例となっていた。


 ちなみにこのフクロギというのは梟ノ木(フクロウノキ)(なま)って変化したものらしく、それ自体は雑木林の中にある何の変哲(へんてつ)もないただの木なのだそうだ。

 ではなぜ梟ノ木というのか? という疑問を持った私は、その話を持ち出した男友達のAにその理由を聞いてみた。


 彼によると、その名の通り(フクロウ)が鳴くような音がする木があるからだという。

 それだけの話がなぜ怪談に? 更にそう尋ねたが、彼も詳しくは知らないらしく苦笑いで誤魔化された。

 なんでも、その音を聞いた者は揃ってどれがそのフクロギなのかを口にしないし、そもそも梟を見たのかさえはっきりと語らないというのだ。


 ただ、フクロギを見た少なくない数の人間が精神を病み、その後もろくな目に()っていないということは事実だった。

 その部分に関しては、実際に死人が出たという話を私も親や知人から聞いていたし、この話をすること自体がこの狭い田舎では一種のタブーであった。


 しかし他人の恐怖体験というものは、己の好奇心を随分と(あお)るものらしい。

 自身の勇敢さを自慢話にしてやろうと、我も我もと蜜を吸いにくる甲虫(カブトムシ)のようにフクロギへ(たか)(やから)が後を絶たなかったのだ。


 私の友人Aもその蜜とも言えぬ噂話に影響を受け、少し前に別の知人と行ってきたらしい。


 予想外に面白かったから。

 そう言って彼は、今日の授業が終わったら一緒にそのフクロギへ行ってみようと持ち掛けてきた。

 最近買ったらしい、田舎の不良に有りがちな安物のネックレスを指で大事そうに(いじ)りながら。

 少しその事で揶揄(からか)うと、Aはギャーギャーうるせぇな、と怒鳴った。

 ……どうにも不良にはなり切れていないと思うけれど。


 まぁ、特に他の用事なんて無いし、他の友達も行くなら別に良いかな。

 当時の私は深く考えもせず、二つ返事で応じてしまった。

 梟の鳴く、あの土地への(いざな)いに。


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