エピローグ
まだ入学したばかりだが、悠の卒業後の就職先はクレインマジックに決定した。あくまでも、それまでに会社が潰れていなければ、の話だが。
そして、理彩の補佐も増えてきたためにとうとう悠のデスクが置かれることになった。
予算以内なら好きな物を選んでいい、それを超えるなら差額を自分で払えばいいと桑鶴に言われ、高見沢からカタログを見せられる。夏生のデスクだけがやたら豪華だった理由がやっとわかって、彼らしいこだわりに苦笑が漏れた。
「桑さん桑さん、今からカメラ回してくれる?」
「おっ、なんだ?」
桑鶴がスマホを構えると夏生は悠の新しいデスクに歩み寄った。怪訝そうな顔をしている悠の耳に口を寄せて、男でも思わずドキッとしてしまうような声で囁く。
「ハルくん……イケナイことを教えてあげる」
「な、なんだ?」
「イムラ屋のダイヤモンドあずきアイスを、耐熱容器に入れてレンジで溶かすんだ。沸騰するくらいに温まったら、そこにもちもち大福アイスをひとつ入れて……」
「くっ! やめろ! それ以上言うな!」
いつものクールさを吹き飛ばして耳を塞いでいる悠を解放すると、夏生は楽しそうに声を立てて笑った。桑鶴の構えているカメラに向かってVサインを出して見せている。
「あ、それいいですね。速水、あずきアイスともちもち大福アイスを今すぐ買ってきてください」
「なんで私が! 自分で行け!」
「これ、SNSで流したらイムラ屋さんからコラボ依頼来ませんか? 社長、ちゃんと撮ってます?」
「当然だ!」
「クレインマジックではコラボ提案もお待ちしてまーす」
最後に夏生が笑顔で手を振り、突発撮影が終わった。
楽しく美味しい魔法のレシピ。親子を繋いだ奇跡のアプリ。クレインマジックはその評価を高めながら、2年目へ向けて進み続けていた。




