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【完結】いただきます ごちそうさま ――美味しいアプリの小さな奇跡【加筆修整版】  作者: 加藤伊織 「帝都六家の隠し姫」発売中


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3品同時に作るよ!

 夏生の周りの空気がふっと緩んだ。全て話しきって安堵したのか、夏生の笑顔もいつもの柔らかい見慣れたものに戻っている。



「今日は3品作るからね。厳密に言うと5品、かな。もちろん、アプリには初心者向けを個別にアップするからそっちも見てね。それでは、クレインマジックのクリスマススペシャル、今日の料理はこちら!」


 夏生が悠に向かって手を伸ばす。剣持の構えるカメラのレンズが自分を捉えたのが悠にもわかった。

 悠が手にしているのは今日夏生が作るクリスマスのメインディッシュの一覧だった。

 フライドチキン夏生風、和風照り焼きローストチキン、2種のソースを使ったローストチキン。メインの3種に、チキンに添えるオレンジソースとクランベリーソースで5品になる。


「ローストチキン2種は丸鶏、フライドチキンは骨付きのモモ肉を使って作るよ。もちろん、ひとりで丸鶏は食べきれないから、みんなはスーパーで売ってるもも肉でもオーケー。これからの時期ならスーパーでも丸ごとの鶏肉を買えるから、鶏の丸焼きにロマンを感じたら、是非チャレンジしてみて。食べきれなかったら骨からそいだ肉を冷蔵すればいいからね。翌日にサンドイッチにして食べるのが手軽でお勧めだよ。それじゃ、まずはローストチキンの下味を付けます」


 夏生は鶏肉を洗ってペーパータオルを使って内側まで綺麗に水気を拭き取った。その手元を剣持が映している。悠は夏生の邪魔にならないように、今日はアシスタントに徹することになっていた。

 道具や材料の用意に洗い物と、レンズに映らない場所での仕事は結構多い。


「和風ローストチキンは、調味液に漬けておきます。材料は醤油・みりん・砂糖・ニンニク・ショウガ。みりんがなかったら、味はちょっと変わっちゃうけど日本酒を使ってもいいよ。はい、分量どおりに混ぜた調味液と一緒にジップパックに入れて、このまま放置。それじゃ、その間にもうひとつのチキンも洗って拭いて、っと。……こっちは、蜂蜜を表面に塗り込んだ後にハーブ入りの塩で味付けします。使うハーブは、タラゴン、バジル、タイム、ローズマリー。これは塩と一緒にミルに掛けて、粉にしちゃうよ。このハーブソルトに少しだけニンニクとショウガを足して、さっき蜂蜜を塗った肉に塗り込みます。ニンニクの匂いが手に付くのが嫌だったら、使い捨てのキッチン用手袋を使ってもいい。僕は手が大きいし思いっきりやると破けちゃうから使わないけどね」


 夏生の大きな手が豪快にハーブソルトを肉に擦り込んでいく。普段は繊細な手仕事をする彼が時折見せるこういった部分が、悠は実はとても好きだった。彼が常々気にする格好良さも、本当にやりたいことの前では棚上げにすることができる、そういう夏生の姿勢が本当の格好良さだとも思う。


「ハーブソルトを塗り込んだら、これもしばらく放置。その間に、ローストチキンを焼くときの付け合わせにするタマネギとニンジンを切っておこうか。タマネギはくし切り、ニンジンはいちょう切りが簡単だね。火が通らないってこともなくなるし」


 喋りながら夏生の手が物凄い速さで野菜を切っていく。何度見ても早送りかと思ってしまう。実際には、手入れを欠かさない包丁を使って、素で切っている速度だった。悠には真似しようとしても絶対にできないことだろう。


 夏生の様子を確認しながら、打ち合わせたとおりに鶏モモ肉を取り出してワークトップに置く。野菜を切り終わった夏生は今度はモモも肉を手に取り、皮を下にしてまな板の上に置くと骨に沿って包丁を入れた。


「じゃあ、フライドチキンに取りかかろう。ちょっとスジを切っておくと後で食べやすいよ。さて、フライドチキンだけど、ハルくんはフライドチキンと唐揚げの違いは知ってるかな?」

「えっ?」


 突然振られた話に、悠は思わず固まった。強張った顔はきっとズームで撮られているだろう。数秒考えたが、そんなに簡単に推測できるものではなかった。今まで違いなど全く気にしたことがないのだから。


「英語と、日本語……?」

「残念、はずれ。答えは、肉に味を付けてから粉を付けるのが唐揚げ。肉に味付けをせずに粉に味を付けて揚げるのがフライドチキンだよ」

「そうなのか」


 初めて知ったことなので、本当に驚いて悠は目を丸くしてしまった。悠のそんな表情を見て、夏生はふふっと笑いを漏らしている。


「それじゃあ、丸鶏に下味が染み込むまでちょっと時間を置こうか。大体2時間もあれば十分だからね」


 手を洗いながら夏生がカメラに向かって笑いかけ、そこで前半の撮影が終了した。


 撮影を再開したのは2時間後だ。いつもよりも長い時間をしゃべり通しだった夏生は、麦茶で喉を潤しつつおとなしくしていた。

 その間に悠はまな板と包丁を片付け、オーブンを予熱して、揚げ物用の鉄鍋に油を入れて用意した。この辺は打ち合わせ済みだし既に手慣れたことで、困ることはない。


「はい、それじゃあ再開するね。下味が染み込んだ丸鶏をオーブンで焼き始めるよ。今回は小さい鶏を用意したから、オーブンペーパーでそれぞれ仕切りを作ってふたつ同時に焼いてしまおう。お肉の下にさっき切った野菜を置くことを忘れないで。肉から出た油とタレの味が、野菜に染み込んで美味しく焼き上がるよ。あと、お肉の下側が焦げない。結構大事だね」


 天板に敷いたオーブンペーパーの上に、夏生は野菜を並べた。その上に肉を置いているところを剣持がアップで撮影している。火が通りやすい様にくし切りにしたタマネギはバラして、ニンジンと適度に混ざる様に並べている。火がじっくり通ってとろとろになったタマネギを想像して、思わず悠の口の中に唾が湧いた。

お読みいただきありがとうございます!

面白い、続きが気になると思っていただけたら、ブクマ、評価・いいねを入れていただけると大変嬉しいです。よろしくお願いします!

特にポジティブな感想を頂けると物凄く嬉しいです!

よろしくお願いします!(二度目)


挿絵(By みてみん)

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