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【完結】いただきます ごちそうさま ――美味しいアプリの小さな奇跡【加筆修整版】  作者: 加藤伊織 「帝都六家の隠し姫」発売中


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ナツキッチン・2 「夏生お兄さんのお悩み相談コーナー・1」

完全新規書き下ろし部分です。というか、アルポリ版を完結させた後で「書き忘れてたー!」ってなった部分です。

「はーい、みんな、今日も元気かな? 僕は、四本夏生。クレインマジックの料理のお兄さんだよ」

「アシスタントの速水悠だ」


 最近「コピペオープニング」などと呼ばれ始めたいつもの導入から、今日も撮影が始まる。

 だが今日は新しい試みがあった。いつもは悠が実際に料理を作る企画なのだが、今回は夏生が主役だ。


「今日は新企画、『夏生お兄さんのお悩み相談コーナー』だよ! 動画のコメントやSNSで貰った質問の中からいくつかお答えしようと思うんだ。

 それで、まず最初に話したいことなんだけど――ハルくん、君が自炊をするのは何のためかな?」

「えっ? 俺が自炊をする理由? ……節約のため、だな」


 急に話を振られて一瞬悠は言い淀んでしまった。

 とにかく夏生も桑鶴も「悠の生の反応」が欲しいらしく、リハーサルも打ち合わせもなしの一発撮りなのである。

 今、自炊をするのは何のためかと聞かれ、思わず「自炊してないが?」と言うところだったのが危ない。


「うん、料理が得意じゃないって人でも、『節約のために』と思って自炊する人は多いね。そこで! 体に良くて更にお財布にも優しい自炊の大原則を今日はお話しします!」


 夏生が自分で拍手を始めたので、悠もつられて拍手をした。体に良くて財布にも優しいとは、かなり惹かれるテーマではある。


「ハルくんは、旬の食べ物って気にしたことはあるかな?」

「全然気にしたことがない。冬瓜が夏野菜だって最近知ったくらいだ。冬って付くから冬野菜なんだと思ってた」

「ああ、なるほどねー。あれは夏に採れて冬まで保存しておけるから『冬瓜』なんだよ。

 さて、ハルくんは食べるのは大好きだけど料理知識はほとんど0だから、そういう人向けに基本的な話をするね」


 夏生はここでボードを取り出した。春夏秋冬の4つに区切られたボードには、各季節を代表する野菜がイラスト付きで書かれている。


「旬の食べ物が体に良い理由をまず説明するよ。人間の体がうまいことできてるのか、それともその時期に食べられる物に応じて進化していったのかはよくわからないけど、四季折々の旬の野菜にはそれぞれ違う効果があるんだ」


 夏生の長い指が、春と書かれた部分でぐるりと円を描く。


「春と言えば特に山菜が有名だね。タケノコや菜の花もだし、ほろ苦い食材が多いイメージかもしれない。これらの食べ物は冬の間に溜まった老廃物を排出する、新陳代謝を活発にする働きがあるんだ。冬はどうしても活動量が減ってしまうからね」

「へえええ……そういえば、ふきのとうも春に入るのか?」

「そう。あれが庭に出ると春の訪れを感じるっていう人もいるんじゃないかな」


 言われてみれば、ふきのとうもタラの芽もほろ苦い。ピーマンやゴーヤなどの苦さとは少し違った苦さだ。


「夏が旬のものはスイカを始めとして水分を多く含むものが多いね。トマトとかキュウリとか。それと、体を冷やす作用があるものが多い。昔は今みたいにエアコンはなかったから、こうやって食べ物で体を自然と調節してたんだ。水分を取る一方で、ゴーヤやピーマンなどに代表される苦みは、東洋医学では体内の熱を整えたりするとされている。それとむくみ取りとして有名だね」

「へえええええ」


 そういえば幼い頃に夏休みを祖父母の家で過ごしたとき、畑で採れたてのトマトを食べさせて貰ったことがあった。

 そんな懐かしい記憶を蘇らせながら、悠にできるのはただ頷くことだけだ。まさか夏生が料理だけではなくて、東洋医学の話まで持ち出すとは予想外だ。


「次は秋! 食欲の秋という通り、一番食べ物が美味しく感じる季節かもね。夏に疲れた体をケアして、冬に向かって栄養を蓄える季節だから、美味しい物が多いのも当たり前かも。

 秋の味覚の代表と言ってもいいきのこ類は免疫を高める作用が確認されてるよ。ニンジンやほうれん草みたいにビタミンが豊富なものもあるし、イモ類は特に主食にもなるくらいデンプンが多かったり、カリウムが豊富だったり、良い効果がたくさんある」

「焼き芋……」

「あ、うん。ハルくん焼き芋好きだよね。いつもサン・チョパンサに行くと買ってるし」

「サンマも好きだし、秋は良いな」

「サンマか! サンマはやっぱりフライパンとかグリルより、七輪で焼くのが最高だよ! 油が落ちて煙が立つことで、独特の風味が出るからね!」

「ここのベランダで七輪使って、消防車呼ばれたよな?」


 クレインマジックのベランダで煙を盛大に立てながらサンマを焼き、消防車が来たのは事実だった。両隣の部屋に謝りに行ったのは夏生と桑鶴だ。

 なかなかの珍事件を起こした犯人である夏生は、「んもー!」と言いながらボードで顔を隠した。


「だって美味しい方が良いじゃないか! ハルくんだってあの時は2本食べてただろう?」

「確かにうまかった……。そうだ、バーベキューの時にサンマを焼けばいいんじゃないか?」

「それだ! ハルくん天才だね! 今度肉じゃなくてサンマを焼くバーベキューをしよう。……って、話がずれたね。じゃあハルくん、冬野菜っていうと何が思いつく?」


 打ち合わせがないせいでこうして雑談が入ったりもするが、桑鶴はあらかじめ「自然体でやってくれ。話は多少ずれても構わない」と許可を出していた。

 おそらく、ふたりのやりとりが人気を支えているのを分かっているが故だ。


 夏生が持っているボードを極力見ない様にして、悠は考え込む。


「ブロッコリー?」

「正解。このボードにも書いてあるけどね。

 ブロッコリーと言えば葉酸が豊富なことで有名だね。葉酸はビタミンBの一種で、胎児の発育に重要な役割を果たすから妊婦さんの必須栄養素とも言われるよ。他にも小松菜とか白菜とか、案外葉物もあったりする。ネギの旬も冬だね。

 ここで問題です。このラインナップでビタミンが多いというヒントで、冬に嬉しい効果は?」

「風邪を引きにくくなる?」

「凄いね! 正解だよ! 後は、冬が旬の食べ物は体を温める作用を持つものが多い。これは夏と逆だからわかりやすいね」


 夏生のリアクションが大げさな様に悠には思える。満面の笑みで悠を褒めてくるから、恥ずかしくなってくるのだ。


「そ、そうか。ちゃんと四季に合わせた効果があるのは驚いた。それで、次は?」


 自分が照れているのがバレない様に、いつもより少し早口で悠は続きを促した。促された夏生はボードを下に置き、別のボードを取り出す。書かれているのは、様々な食材の輸送コストだ。


「次は、旬の食べ物がお財布に優しい理由。それは、露地栽培で収穫できることでコストを抑えられて、安い価格で買えること。特に国内で生産しているものに顕著だね。

 今は輸入や温室栽培とかで一年中食べられるようになったものが多いけど、やっぱりスイカは夏が一番安いし、SDGsにおける『フードマイレージを下げる』という点からも旬の地場野菜はメリットがたくさんだよ」

「そういえば、真冬に麻婆ナスが食べたいと言ったら母に怒られたことがある」

「夏に言えってことじゃないかな。冬のナスは高いから」


 まさにその通りだったので悠は頷く。それを見て夏生は笑っていた。


「話が長くなったけど、安く自炊をしようと思ったら、旬を意識してみて欲しいな。そうでなくても、栄養価が高くて美味しい時期が『旬』だからお勧めだよ。

 もちろん、クレインマジックのレシピもそういう理由で旬を取り入れることを大事にしてるから、レシピ情報にある春夏秋冬のマークもこれからはチェックしてみてね」

「あれってそういう意味だったのか……」

「今知ったの!? 嘘だよね!?」

「旬について説明されたのも今日が初めてだが」

「あっ……あー」


 夏生の手からボードが落ちて、ポコッという軽い音を立てる。夏生は顔を覆って「そういえば、ハルくんに料理のことはほとんど教えてなかった……」と呻いた。


「……まあ、俺が料理関係で無知なのは仕方ない。何も知らなくても、素だと玉子焼きすら作れなくても、クレインマジックの動画があれば料理が作れる。そういうことだ」

「よく言ったぞ、ハルキチー!」


 画面に入らないところから桑鶴の叫びと拍手が入った。

お読みいただきありがとうございます!

面白い、続きが気になると思っていただけたら、ブクマ、評価・いいねを入れていただけると大変嬉しいです。よろしくお願いします!

特にポジティブな感想を頂けると物凄く嬉しいです!

よろしくお願いします!(二度目)


挿絵(By みてみん)

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