第3話 ライブオンリーと魔王召喚
「駄目だぁ、全然応募こねぇ」
今俺たちがいるのはマーシャルコードの会議室という名の休憩室
時刻は12時5分、お昼休憩タイムだ
「やっぱりライブオンリーが強いからね」
「あの世界一のⅤオタ社長の会社だもの、生半可では相手にならないのは当たり前よ」
「だよなぁ~~」
ここで大手Vtuber事務所『ライブオンリー』について説明しておく
今現在普通のアイドルなんかよりもVtuberタレントのほうがよくテレビのバライティーなんかで出てくる時代だ
そのテレビに出演するほとんどのVtuberはライブオンリー所属だ
そちらの世界で言えばジャ●ーズやA●B48を混ぜたような存在
そしてそのライブオンリーの社長、『糸日谷狭間』
彼は全Vオタが世界一のVオタと認める存在である
糸日谷狭間、26歳
学生時代から社会人なり立てのころまではどこにでもいる平凡で趣味がVオタな一般人らしい
だがある日、推しのVtuberが引退を発表した
彼女は個人勢で趣味から始め、登録者もまあまあ伸びてきた
しかし収益も雀の涙ほどで生活していくには他の仕事にVに使っていた時間を注ぐしかなかった
糸日谷狭間にとって彼女の配信は生活の一部となっていたため、その喪失感は半端なかった
その時彼は思いついた
「環境を整えよう、他のことで邪魔されずVtuberをやっていける環境を!」
そこからの行動は早かった、彼はそのVtuberへの愛を原動力に経営を学び、事務所を設立し、Vtuberが安心して活動できる環境を作った
そして彼は損得を無視して収益のことを考えずにⅤtuberのことを優先するように動いた
推していたVtuberをはじめ、多くのタレントをスカウトした
福利厚生は充実しており、契約内容もVtuberのほうが有利な条件での契約
配信機材を配布し、配信スタジオも自由に開放し、経営という面ではダメなほどVtuberを優先していった
最初は他の経営者からはいずれ潰れるだろうと思われていたが、そこに所属するVtuberが個人でやってた時よりも生き生きとしており、さらに配信する内容も広がり、コラボなどでてぇてぇも多くなってか、人気は鰻登りである
今現在はVtuberを優先したとしても余裕があるほどの大事務所になり、社長となった糸日谷狭間は社長室で自分の事務所所属に限らずいろんなVtuberの配信を見ているそうだ
『私はただVtuberが他の不安を気にせずに活動できるのを見守っていければそれでいいんです、私は所詮、ただのVオタクですから』
それがライブオンリーの話だ
つい先日Vtuber事務所の社長たちのパーティーに出席し、彼にあったが言動はおしとやかではあるが気持ちが漏れ出そうになるオタクそのものであった
話をする機会があったのだが、驚いたことにVtuberとしての黒森龍錬を知っているようでなぜか芸能人に会えた一般人のような反応をしていた、こっちがするべきのような気がするが
「自分は真面目にVtuberとして活動している人たち全員を尊敬しています、自分自身はVtuberをやる勇気がありませんので、例え登録者が少なかろうと頑張っているVtuberを尊敬しているんです」
「視聴者としては応募者0人はネタとして維持してほしい気持ちもありますが、同じ社長としてあなたのことを応援していますよ」
そんな言葉を彼からもらったし、連絡先やLINEも交換した
めっちゃいい人!!
どうやら前のブレブラ配信からの激辛罰ゲームも見ていたらしい
「あの人からアドバイスをもらったりもするんだがほとんどVtuber愛と奇跡でどうにかしたひとだからなぁ」
「龍錬くんはどうにかできないの?仲いいのなら糸日谷社長にマーシャルコードのこと紹介してもらうとか」
「ここでは社長って言ったろ正弥、あとその案はダメだ、俺自身としては自分自身の力でやっていきたいと考えてるし、もしそれをやるにしてもこっちからそれなりのお返しをしなくちゃならねぇし見合ったお返しが思い浮かばねぇ」
「なるほど」
「今やれることは全部できているわ、あとは待つだけよ」
「姉ちゃん」
「はぁ、それにしても来ないのはな~~、どっか別の世界からタレントが召喚されたりしないかな~~」
「いやいやw、さすがにそんなラノベみたいなことはならないよ龍錬くん」
「社長って呼べや正弥!」
「まあしょうがないわよ、現実から目をそむけたくもなるわよ」
広報活動にどれだけ力を入れても誰も来ない
ほかのライブオンリーに続いてできた事務所もほとんどなくなっていたりする
現実から目を背け、好きな小説などに出てくる召喚などができればな~と考えた
だがどうやら、現実がこちらに合わせてきたらしい
次の瞬間、休憩室がピカーーっと光りだした
具体的には休憩室の床に魔法陣のようなものが刻まれ、俺たち3人はその光の強さに目を閉じる
「なっなんだ一体!?」
「目が!目が~~~!!」
「何かの爆発?とりあえずすぐに避難を!!」
俺らより年上な鏡花さんが率先して避難誘導しようとするが、だんだんと光は収まり
全員が目をこすりながらその発生源を視認するが
「は?」
俺は目を疑った
だってそこには謎の少女が鎮座していた
「生きたまま転移されたか、肉塊になることも覚悟したが安心したの~~」
年齢はぱっと見で中学生くらい、しかし格好は黒と金の豪華なドレス、それに頭には禍々しい王冠のような
よくある魔王のようなファッションの格好の少女に俺たちは開いた口が塞がらず呆然としていた
その中で俺はようやく冷静になってその少女にコンタクトをとってみる
「き………君は一体なんだ?どこから入ってきたんだ?」
「ん?おぉ~おぬし等が召喚者か?」
こちらに気づくと
「いったい何の目的でわらわを召喚した?」
すると少女の足元の影が蠢き、形になり、6名の黒騎士になる
「え?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ひっ!」
その黒騎士たちは刃をこちらに向ける、こちらは無意識に両手を上にあげて敵意がないことを示すが
「わらわを無理やり召喚したんじゃ、覚悟はできておろうな?」
黒騎士たちの刃は自分たちの首近くまで届き、合図さえあればすぐさま殺せる距離だ
「まっ待ってくれ!俺たちは何もしていない、それしそもそも俺たちにその召喚?するような力を持ってはいないんだ!!」
他二人は怯え、委縮してしまっているから俺が対話をするしかない
「ほう?《MAGIC INVESTIGATION (魔力調査)》………ふむ、確かにおぬし等にはそのような力はなさそうじゃが、待て………なんじゃこの言語は?なぜ話せるし理解できる?」
少女は何かを考え始めた、何か結論が出るまで静かにしてたほうがいいのか
「言語に関しては仕方ない、情報収集をするかの、《TRUE or LIE》(真偽の眼)」
何かを唱えるとこちらに向かって話しかけてきた
「聞くが、おぬし等はわらわを召喚したものか?」
「いや、俺たちは何も知らない、この部屋で休憩していたらいきなり君が現れたんだ!」
「ふむ、嘘ではないか、後ろの二人も嘘はないか?はいかいいえで答えよ」
「はいぃぃぃ!!」
「はい!」
その後、いくつか質問を受けた、どうやら彼女は嘘か本当かわかるようだ
20分くらいたった頃
「すまなかった!!!」
少女が頭を下げた
黒騎士は消え、俺たちは解放された
「無理矢理召喚されたからつい熱くなって負った、まさか何も知らぬ一般人とは」
「あっ、あははははっ………(棒)」
今俺たちはまだ頭が処理しきれない状態だった
幼女が召喚?
黒騎士
今現在頭を下げられている
そしてあの漫画でいう殺気というもの
俺たちはマジで死の恐怖を覚えた、目の前にいる魔王コス幼女は自分たちの常識外のファンタジーの存在
後ろの二人はまだフリーズしてる、ここは俺が仕切るしかない
「えーっと、何が何だかさっぱりわからないので、とりあえず座って話をしましょう、鏡花さんお茶お願い!正弥はほかの部屋に何か変化があるか見てきてくれ!」
「え、そうねわかったわ」
「わ、わかった」
二人は足早に指示に従う
そして俺と幼女は応接室にあるソファーに座る
「えっと、とりあえずこちらから自己紹介を、自分は黒森龍錬、Vtuber事務所『マーシャルコード』の社長をしています」
いつもの癖でお偉いさんや外部の人達用の自己紹介をしてしまった
「ふむ?ぶいつーばーが何かは知らぬが、なにかの商人のおさということかの?」
「ま、まあそんなところです、で…その…あなたは一体?」
「おっといかん!ついつい考え込んでしまった、わらわも名を語らねばなるまい!」
目の前の幼女は立ち上がり
「わらわは平和の象徴と言われし,魔王 ディシアじゃ!!」
ビシッと決めポーズをしながら語った
というか本当に魔王だった、ん?平和の象徴?
あれ?魔王って悪の権化じゃないのか?
少し時間が過ぎ、鏡花さんがすぐにお茶を持ってきてくれた
「粗茶ですがどうぞ」
「うむ、いい香りのする飲み物じゃの~、感謝するぞ」
「え、えぇどうも」
そして正弥も帰ってきた
「りゅ…社長っ全部屋確認してきたけど何も問題はなかったよ」
「そうか…わかった、とりあえず今からお前も話を聞いてくれ、俺よりオタク知識あるんだから」
「わ、わかった」
「先ほどは刃を向けてすまなかった」
「いえ、何も知らない状況ではまあ仕方のないことですし」
「そ、そうか、許してくれるのならよかった」
ふむ、俺や正弥の知る魔王のイメージは傍若無人で悪の権化、独裁者で冷血漢などなど、悪のイメージが強い
昨今女魔王、幼女魔王も珍しくはないが、どれもわがままといったイメージのほうが多い
だが先ほどディシアは平和の象徴といった、こちらの世界の創作物と異世界の魔王は別物なのかもしれない
「ディシアさん、今は互いに何もわかりません、だから情報交換をしませんか?我々からはこの世界について、ディシアさんからは何があってここに来たのか、できればディシアさん自身についても知りたいですし」
とにかく情報収集だ、ほかにもディシアみたいなのが来るかもしれないし、
何か対策をしないといけないな
「うむ、そうじゃのう!わらわもこの部屋にあるものだけでもいろいろと気になるものがたくさんあるからの~~、あとそのかしこまった口調はしなくてよいぞ」
「えっ、あ~、わかった、これでいいか?」
「うむ!」
ディシアはにかッと笑った、先ほどの光景がなければ見た目相応の幼女にしか見えない
「先にわらわから自己紹介をしようかの、わらわは魔王ディシア、フィリオードにて人間国との和平を結んだものじゃ」
「すこしいいか?俺の世界では魔王っていえば暴虐武人で悪の権化って感じのイメージがあるが、そっちの世界では違うのか?」
「うむ?この世界にも魔王がおるのか?」
「いや、こっちでは空想の創作物に出てくる登場人物で出てくるだけで、実際に魔王はいない」
「ふむ、まあ本来ならそのイメージで間違いない、ただわらわは戦争が面倒くさいと考えてな、父親から魔王の座を奪い取ってからは人間国と和平に動いたわけじゃ!」
「……なるほど」
このディシアは俺たちの知る魔王とは違い平和主義者、いや戦争が面倒くさいと考えている、正直おれは安心した、この世界で世界征服してやる!なんてことにはならなそうだ
「さっきも平和の象徴とか言ってたな、戦争を終わらせたからか?」
「そうじゃの!」
「………」
「あ…あの………俺からも質問いいですか?」
「んむ?そなたは?」
俺が考えていた沈黙の中、後ろから正弥が緊張しながら話しかけた
「じ、自分は土御門正弥です、さっきの甲冑の人たちってもしかしてディシアさんの魔法とかだったりするんですか?」
「そうじゃが、魔術のほうが正しいが」
「おーー!!魔術!魔術だってよ龍錬くん!!」
「落ち着け正弥!」
まあ俺も気になっていたが、やはり先ほどのは手品ではなく魔術、ファンタジー世界では常識の力
だがディシアのは俺の知っているファイヤーボールとかヒールなんかとは別のなにかだ
「ふむ、もしかしてじゃが、この世界に魔術はないのかの?」
「そうだな、そのことも含めてこの世界についての説明をしよう」
今度はこちらが話す番だ、オタク知識がある分異世界人に説明しやすい
一時間ほど、俺がこの世界の話をした、ディシアは聞くことに集中していた
こちらからの説明が終わり、ディシアは口を開く
「………なるほどの~、魔族がいないし魔術も空想でしかない、魔術の代わりに科学とやらが浸透しているか………」
天を仰ぎ、ぼーっとしている
おそらく本当に異世界に来たことが現実であると理解してしまったといった感じだ
「………召喚魔術に関して何か心当たりは?」
「………ない」
「………………………そうか」
気まずい、多分だが元の世界のことを考えているのだろう
ホームシック以上に、絶対に帰れないわけだし
「………だ、大丈夫か?もしよければ「まあこうなったもんは仕方ないの!!」………あれ?」
俺が励まそうとしたらディシアは先ほどとは違い吹っ切れたようににかっとした笑顔だった
「ん、どうした龍錬?」
「いや、帰れないってことだから落ち込んでると思ったが、意外と元気そうだな」
「かかかか、わらわは魔王ぞ、未練がないわけではないがずっと落ち込んだりせぬ、逆にこの世界について気になってきたからの、ほかにもいろいろ教えてくれ、後ろの二人も!!」
「あ、はっはい!」
「わかったわディシアちゃん、私の名前は土御門鏡花、この正弥の姉よ、よろしくね」
「なんと、おぬしらは姉弟であったか!」
ディシアは二人と少し打ち解け、楽しそうにこの世界について聞いていた
見た目相応かと思ったが、どうやら魔王の肩書は伊達ではないらしい
さて、ここで問題なのがディシアをこの世界でどうするかだ
ディシアを縛るつもりはないがこの日本では戸籍が必要だし、生活していくには金が必要だ
だが見た目14歳くらいで頭が角が生えている女を働かせるところなんて普通はない
そして魔術なんかほかの人に見られたら漫画であるような展開になる
俺たちが全部養ってやる余裕はない、まあ住居は上の階の空いた部屋にすればいいが、本来はVtuberのタレント用の寮みたいなものだしな~~~
ん?…………あっ
「そうだ、うちのVtuberにすればいいんだ!」
「「え!?」」
「んむ?」