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絵の中の彼女  作者: 茜桜手鞠
7/15

海の契約



人魚姫…

目を覚まして…

あの人のために死ぬことはないのです

だから…目を覚まして…




「はっ…!」




今の声は誰?

女の人のような、男な人のような、よく分からない声

“あの人のために死ぬことはないのです”ってどういう意味なんだろう…

人魚姫…

私のことを言っていたのだろうか

私は…一体…




「君は人魚姫を知っているかい?」




そう問いかけられてやっと自分が戻ってきた




「…」




声が出ない

“知っているけれど、それがどう関係するの?”

このままだったら学校もまともにいられない

何が関係しているのか、私の声は彼に“名前”を聞かれた瞬間、無くなってしまった




「人魚姫の話の中でも、声を失うシーンがある。まさに今のように…」




彼の言葉を聞く度に殴られたような痛みが脳に響く

何かを忘れているような気がする




「人魚姫ではある契約をするんだ。それは…」




それは…

思い出そうとする度に頭が痛くなる…

どうしてこんなにも痛いのだろう




「王子と結ばれるために、人間になる魔法をかけてもらう」




その時に…した契約は…




“三日目の日没までに王子と結ばれなかった場合、海の泡となって消える”




……思い出した…私は人魚姫だった…




「王子様と添い遂げたい!どうにかして王子様と一緒にいられる方法はないかしら?」




私は数日前に船で楽しく騒いでいる王子様達を見つけた

その時、王子様を見た瞬間体に稲妻が走ったようにドクドクと波打った




「とってもかっこいい…」




一目惚れだった

そんな想いとは裏腹に天候は悪くなり、船はどんどん悪い方向へ向かい、黒い海の底に沈んでいく




「…大丈夫?」

「……君は…」




沈んでいった船を追いかけ、彼を見つけた

私は急いで浜辺へと彼を連れていった

彼はなんとか息を吹き返し、私を見たが…王子様を探す人の声が聞こえ、姿を見られてはいけない…そう思い、急いで海に帰った…

本当はもっと彼といたかったのに…




「王子様…王子様…どうしたら一緒になれるの…」




どうしても一緒になりたかった…

けれど…

私だけの力では一緒になることはできない…分かっている…

ならば…どんな手を使ってでも…




「…願いを叶える代わりに声を差し出せ、そして…人間になった暁にはある約束を果たしてもらう…それは、三日目の日没までに王子と結ばれること。それを守れなければ海の泡となって消える。分かったな?」




一緒になるために、私は魔女に魂を売った

実際、人間にはなれたが…王子様に全く会うことができない

早く会いたいのに…




「君!こんなところで何してるんだ」




会いたくて…会いたくて…ずっと探していた人が近くにいる…

そう思い、私も声を出そうとして思い出した…

私の声は魔女に差し出したということを…

だから咄嗟の質問に答えられなかった




「君…喋れないのかい…?」




頷くことしかできなかった

しかし彼は…




「そうか…君は、私を助けてくれた人によく似ている…私の家においで」




と言ってくれた

そして、彼の家に行くと…

そこはお城だった

王子様なのだから当たり前だが、初めて人間のお城を目の当たりにした




「お腹は空いているかい?」




私は頷いた

すると、彼は使用人に料理を持ってくるように告げたようだった

お腹は確かに空いているけれど、そんなことどうでもいい

彼と一緒にいられるのなら…





ある日の出来事だった

隣国の王女様がパーティーに参加した時、彼の目の色が変わった

まさに…私が初めて彼を見た時と同じ色だ

私はその事実を受け入れられなかった

受け入れられないまま時間が過ぎていき、時間が過ぎている間に王子様は王女様と結婚することが決まった

そう…三日目の日没までに結ばれるなんて無理だったのだ

本当に悲しかった

そんな思いで泡になった





しかし、なにかしらの奇跡は起きたのだろう…

漂うだけの泡だった私が、いつの間にやら人間に…

昔、私が一番なりたかった姿になった

しかし…なった瞬間、恋しくなったのは水…

やはり、生まれ故郷が恋しくなった

だから、毎回プールに行き、時間があるときは海まで行った




そんな時、出会ってしまった

運命なのだろうか、またあの時と同じ海で彼と再会してしまったのだ

海で溺れかけている彼を無意識のうちに助けていた




「…大丈夫?」




と…声をかけてしまった

波打ち際まで助けたところで、彼だと認識した

もう会っては駄目だと頭の中で警告が鳴っている

あの時の二の舞になるぞと警告が…

しかし、また彼を好きになってしまった

本当にどうして同じことを繰り返すのだろうか

だけど…今生では…想いを伝えたい

泡となって消えた自分の無念を晴らして私は消えよう

これはあの時の自分にもう一度チャンスが来た…

それだけなのだ

そして…私が彼と接触してしまったことで魔女との契約も復活してしまった

なら…と、私は携帯を出した




「…そうか!携帯で連絡する方法があったな!」




私は頷いた

その日から彼と毎日連絡を取った

名前や趣味、私がいつもプールにいる理由などを聞いてきた

私は喋れない状況に慣れてしまい、答えていいものかと悩んだが、今踏み出さなければ意味がないと勇気を振り絞り聞かれた質問に答えた

そして、彼のことも徐々に知っていった





ある日、彼が海に行こうと言ってきた

話せない私と一緒に行っても会話の一つも生まれないというのに、彼は私を誘った




「…俺さ……ずっと探してたんだ。あの後、やっぱり君と違くて…君に似ている人を錯覚して…君の声と違う人を愛して…何度も何度も君を探した。俺…ずっと君のこと好きだった…」



その後、続きそうな言葉を私は無理矢理遮った



「…わ…私も…ずっと好きだった…運命なんだね…また君と出会えて好きになってしまった…」

「声が…」

「…うん、契約を守れたみたい。ありがとう…」



私は微かに涙を浮かべた

嬉しいのか…悲しいのか…よく分からない




「……こんな時に言うのも変だけど…付き合ってください!」

「…ふふっ。喜んで!」





私を呼んでくれた声はお姉様だったのだろうか

それとも友人の声だろうか

分からない…けれど…きっと昔の私を心配した声だったのだろう

もし…昔の私がその声を聞いていれば…と考えても無駄だろう

どうしたってきっと彼の元へ走っていくんだ





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