王子の行方
騒いでる声がする
楽しい
その声を聞くだけで凄く楽しい
今日は俺の誕生日
みんなが俺を祝ってくれるらしい
俺の誕生日は夏だからなのか、何故か海の近くで行われた
ついでに花火もしようということになり、自分の誕生日はどこにいったんだ?というような終わり方だったが、凄く楽しかった
自分が中心にいなくてもみんなが楽しくいられるだけで充分楽しい
夏生まれだからか海は嫌いじゃない
というより、海は家族のようなそんな心地の良い場所だ
だから、夏休み中は海に寄った
まあ誕生日だからというのもあるが、誕生日ついでに泳いでも構わないだろう
そう思い、泳いでいたのだが何故か分からないが足を攣った
自分は運動神経がいい方だし、泳いでいて足を攣ったのは初めてだ
しかし、みんなは遊ぶのに夢中になっていて俺の存在には気づかない
ああ…今から死んでしまうのかな…そんなことを思った瞬間
大きな水音が聞こえた
同い年くらいの女の人が助けに来た
どうやって助けたのかは分からないが、凄く頑張って引っ張っていたのは確かだ
助ける際に物凄い力で引っ張られた気もするし、引っ張るのに苦戦しているようにも感じた
「大丈夫?」
心配そうに見つめている彼女はとても綺麗だった
しかし、友人が俺に気づいた瞬間
彼女はどこかに行ってしまった
また”会いたい”そう思うほどに綺麗な人だった
そして、夏休みが明け
まだ暑い九月を過ごしているなか彼女を見つけた
昼休みに彼女はいつもプールに行くようだった
気になってプールに行くと、彼女は嬉しそうにプールに足をつけていた
彼女は水が好きなのか…そう心の中で思った
彼女と話がしたかった
だから昼休みプールに行ったのだが、彼女はいない
ついでに友人もついてきたが…彼女がいないなら仕方がない、友人達と過ごすか…
そう思いながら昼休みの時間をふざけて過ごした
楽しい時間だが、また足を攣った
痛い、溺れる、怖い
色々な感情が交差しながら沈んでいく
今回は友人達も気づいてくれたようだが、助けにいけない様子だった
助けにいったら自分達も巻き込まれる
そんな不吉な予感がしたのだろう
すると、音がした
まさか…と思ったがそのまさかだった
彼女がまた助けに来てくれたのだ
「…大丈夫?」
「……君は?」
君は…大丈夫だった?と聞きたかったが、声が続かなかった
何故か詰まってしまった
水を沢山飲んでしまったせいなのか、はたまた呪いのせいなのか…分からない
その後、彼女には会えなかった
何度プールに行っても会えなかった
彼女が何年何組の生徒なのかも知らない
こんなに多くの生徒の中で彼女を見つけるなんて不可能なのかもしれない
なにか部活に入っているかもしれないと思ったが、部活にも入っていない様子
プールが好きなようだから水泳部にでもいるかと思ったのに、水泳部には所属していない
じゃあどうしたら会えるのだろう
そう何度も何度も悩みながら考えついた答えは…
思いっきりプールに飛び込む
溺れるつもりはないけど、音さえ聞こえればもしかしたら来るかもしれない
そう考えたが当たりなようだった
彼女は走ってきた
とても焦っているのだろう
周りを気にしないで来た様子だった
俺の姿を見た瞬間、安堵をした
溺れていなくて良かった…といった声が聞こえてくるようだった
「…あ!…探したよ」
彼女の顔は時間が止まったように動かなくなった
「…君の名前教えてよ」
そう言った瞬間、何かの力で遮られたように彼女の声は聞こえなくなった
確かに彼女の口は動いているのに
彼女も自分の声が“無くなった”と思っているのか焦りを含んだ表情をしている
確か…数日前に読んだ本にも書かれていた気がする
数日前、俺は帰り道にあるカフェに寄った
そこはこじんまりしたカフェで凄く心地の良い場所だったことを覚えている
そのカフェの店長さんらしい人に
「今、在庫が切れていまして…少々お待ちいただく形になりますがよろしいでしょうか?」
そう言われたので、カフェの中にあった“人魚姫”の本を手に取った
暇つぶしにはちょうどいいだろうと思い、本のページをめくる
人魚姫の内容は、魔女と契約した人魚姫が王子と出会い、そして幸せになれない話だ
とても楽しくなるような話ではない
しかし、人魚姫が王子様を愛していたことだけは分かる
魔女と契約し、痛みと声を失ってでも王子に会いたかった
王子も海で溺れそうになった時に助けてもらった恩があるのにも関わらず、人魚姫と会って恩人だと分からないっていうのが苛つくところだ
そんなこんなで読み耽っていたら料理ができたようだった
“人魚姫”の状況が今なのではないか
彼女は話すのをやめたようだった
「声が無くなったのか?」と質問をした
自分の声は無くなっていなかったみたいだ
彼女は頷いた
もしかしたら人魚姫の状況を理解すればこの謎は解けるのではないか
彼女が水を好きな理由と何か関係してるのかもしれない
そう思い、彼女に問いかけた
「君は人魚姫を知っているか?」