人魚の記憶
水の音がする
その音を聞くだけで私は生き返るような気がした
「…」
目を覚ますとそこは学校だった
いつもの学校
そして、いつもの水音
この音は私の好きな音
「…た…たすけ…!たす…」
誰かの声が聞こえる
「…た…」
学校のプールは私のテリトリーだ
泳ぎたい
そう思っているけれど、禁止されている
泳ぎたい…その気持ちを抑えて、やっと出来た行動はプールに足をつけるだけ
それだけで私は心地が良かった
やっぱり好きな場所
そう思える瞬間だった
毎日の習慣でお昼休みにプールに行く
この時間に行くと誰もいないからとても好きだった
そう思ってた矢先…
「あははは!あまりふざけると危ないぞ!」
「大丈夫!大丈夫!」
四人の生徒がプールで遊んでいた
「見ろよ!」
「わはははは!」
一人がふざけているのが分かった
その人の笑顔が眩しくて、心の闇を消してくれそうな笑顔で見蕩れてしまうほどの美しさだった
「うわ…!…わ…たすけ…!」
「大丈夫か!今助けに行く!」
…助けに行かなければ
みんな…みんな…巻き込まれてしまう…!
足が勝手に動いていた
ずっと泳いでいなかったのに助けに行けた
「…大丈夫?」
「……君は?」
声をかけてしまった…
君は息苦しそうに私に声をかける
泳いでしまった…
早く…早くここを離れなければ…!
離れる必要は無かった
けれど…私がずっと見ていたのをバレたくなかった
泳いだことはきっとバレないであろう
だから…私の気持ちだけはバレませんように…
その日からプールに行くことはやめた
やめるしかなかった
私を探している姿を何度も見かけるから
何百人もいる生徒の一人を探すことはとても困難だ
こちらから姿を現さない限り、きっと平穏で終わる
そんなある日、授業中に大きな水音が聞こえた
周りは気づいていない
まさか…また溺れたりしたのだろうか
そう心の中で焦りと心配が交互に動きながら咄嗟に体が動いてしまった
周りは不思議そうな顔をしている
先生も困惑と不思議を混ぜたような自分の感情を決められていない表情をしていた
そんな顔で見られたとしても私は止まらなかった
走った
こんなにも走れるのかと思うくらいに走った
プールに行くと一人で泳いでいる君を見つけた
「…あ!…探したよ」
そう言った君は眩しい笑顔を向けた
「君の名前教えてよ」
私の名前は…