トビラの先には
ここはどこだろう
大きな扉…というより大きな屋敷?の前にいる
とりあえず…扉を叩いてみるか!
ドン!ドン!
あれ…?誰もいないのかな?
ドン!ドン!
「…誰ですか?」
不機嫌そうな声が聞こえた
誰かいたみたい
今の状況を説明するのであれば…
「すみません…道に迷ってしまって…一晩泊まれる場所を探しているんです」
道に迷った…とはとても信じてもらえなそうな理由だ
しかし…
「そうなんですか…夜も遅いですし、一晩この家で休んでください」
相手はすんなりと受け入れてくれた
相手の情報が全く分からない状況で信憑性のない理由を聞き入れ、受け入れてくれることがあることに驚いた
扉が開き、相手の顔を初めて見たとき、とても綺麗な顔だと思った
子供のような純粋さがある綺麗な顔
頭の中にその顔が焼き付く
中に入ってみると、年代物といった印象を受けるものが多々あり、この人はお金持ちの生まれの人なんだと思った
「この絵はなんですか?」
部屋のある一部分に飾られた女の子の絵
とても不思議な気持ちにさせるこの場所のような絵だ
「この絵は…私が描いた絵です」
「…そうなんですか」
私が描いた絵…
有名な画家が描いたものだと思ったのだが…物凄い才能だ
「この少女は実際にいた人…ですか?」
「…はい、この家に住んでいた少女です」
この家に住んでいた少女…
じゃあ、今目の前にいる人はこの家を買ったということだろうか…?
「空いている部屋があるのでそこでお休みください」
あまり詮索はするなという合図なのか、それとも優しさなのか分からない…
けれど、疲れたのは確かだ
お言葉に甘えてお休みしよう
「おはようございます。分かるところまで、送りますので支度をお願いします」
既に帰れという合図がなされている…
「…分かりました」
凄く気になる場所だから頑張って記憶しよう
またここに来てお話ししたい
そう思ったのも束の間であれよあれよと事が進み、分かるところまで着いてしまった…
というより大通りまで来て、見放されたというほうが正しいかもしれない
実際、自分の家からさほど遠くないことだけは分かったので、次行く時はある程度絞ることが可能であった
ただあまり家に帰りたくないというのが本音…
今日はバイト入っていたかな…
こういうしっかりしていない部分が駄目なのだと分かってはいるのに…
スマホを見るとカレンダーにしっかりとバイトの予定が書かれてあった
というより時間が今から一時間後
遅刻は許されないにも関わらず何度も遅刻を繰り返している
今回遅刻したらクビになるかもしれない
案の定遅刻
まさかあの場所から二時間もかかるとは思ってなかった
しかも、店長からは怒られクビにされた…
いや、仕方がない自分のせいだと分かってはいるのにどうしてこうもイラつくのだろう
とりあえず…家に帰るか
ブー
携帯の通知音だ
なんだろう
“昨日と今日どうしたの?”
同級生からの連絡か…そういえば学校があったな
忘れてたわけではないけど、行きたい場所じゃないから記憶から消してた
単位もあるし学校行かなきゃいけないな
そう思い歩きながら帰っているとあるカフェを見つけた
とてもこじんまりしたカフェで自分に合っているような気がした
「すみません」
勢いでカフェに入ってしまったけれど…人がいなそうな雰囲気だ
「はーい」
声がした方を向くと、あの屋敷の人が現れた
「え」
「あれ…君は…」
…こんな奇跡あるのだろうか
これこそ運命というやつなのだろうか
ここで会ったのならば運命に違いない
「ここで働いているんですか?」
「…はい」
私は嬉しかった、とても嬉しかった
どうして嬉しいのか分からなかったけれど、接点を作れる場所が出来たことに嬉しく思った
次の日、学校の帰りに寄ってみた
あのお屋敷の人はカフェの店長のような立場であった
それはただの勘でしかないが、店員さんが一人もいないところを見ると、店長として一人で経営しているのではないかと思った
そして何故か同級生も着いてきたが、迷惑がかからなければ許そうと心の中で思う
「へぇ…こじんまりしたカフェだね」
「私に合った場所だと思ってね」
「…ふーん」
何故か微妙な空気になった
とりあえず店長さん(お屋敷の人)いるかな
「いらっしゃいませ」
「…店長さん、ここ一人で経営してるの?」
素朴な疑問だけど、聞いてはいけない質問だったかな
「…はい、そうですよ」
本当に不思議な人だ
あの家のことも気になるし、このカフェのことも気になる
今の私は少し変だ
その後、何度もカフェに寄った
次いでにあの家までの道のりも知ることができた
「店長さん、あの家は買ったものなんですか?」
「…はい」
店長さんはいつも無口だ
こちらが質問したことに“はい”か“いいえ”としか答えない
しかも、それだけかと思いきや
「学校はどうしてるんですか?」
と質問をしてきた
まるで、先生のような母親のような口調で質問をしてくるものだから私は少し不貞腐れてしまった
「たまに行ってるよ、私学校が嫌い」
本当に子供のような返答をしてしまった
しかし、店長さんは
「そうですか…学校は行っといて損はないと思いますよ。この社会は学歴が大事なようですから」
…そう分かっていても感情はどうにもならない
「もう一つ聞きたい!店長さんは…絵を描くのが好きなんですか?」
店長さんの手が止まった
これはまずい質問だったのだろうか
地雷を踏んでしまったのだろうか
空気がピリつき始めたのが分かる
これは聞くべき質問ではなかったということなのだろう
「…私には大事な人がいました。その人とは有意義な時間を過ごすことができ、本当に自分のやりたいことが分かったような気がしました。しかし…その大切な時間を失い…今いる自分はその時間を求めるだけのただの抜け殻です」
真実を言っているようで何も伝わることのないそんな言葉だった
きっと、その時間を過ごした人だけが分かる…そんな気がした
私は…どうしても店長さんの近くにいたかった
でも、店長さんには忘れられない時間と今を繰り返している
それは新しいなにかが生まれない限り進むことがない時間
私は初めて店長さんの家まで行った
何度も行こうと思ったその場所に…
迷惑かもしれない…けれど…
ドン!ドン!
「誰ですか?」
初めて会った時と同じ…
「私です!」
「どうしてここに…」
中に入ると前と同じ変わらない風景だった
ただ今分かることはこの少女の絵…
店長さんが描いた少女の絵、きっと少女と過ごした時間を止めた絵なのだろう
この少女と何があったのかは分からないけれど…
「店長さん、私とお友達になりませんか?」
今はここから始めよう