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「聞いてんのかコラぁ!ここはなぁ、お前みてェなガキが来るところじゃねぇっつってんだよ」


 筋骨隆々、2m近い身長にスキンヘッド、代わりとでも言うかのように顔の下半分を覆う髭。

 絵に描いたような荒くれものが、腰をかがめて下から睨め付けるようにヨシュアを見ていた。


「すまないが、どの列が何に対応しているなどとは書いていないようだが?」


 荒事の予感に緩く身構えながら、ヨシュアは男に向き直った。


「んだとオラ!痛い目に合わねぇとわかんねぇのか?」


「痛い目には合いたくないな。だが帰るわけにもいかない。こっちにも用事がある」


「ほぉ~う、いい度胸だ!ならこの俺様が教えてやる!」


「何を教えてくれると言うんだ?」


 ニヤリとあくどい笑みを浮かべた大男に対し、こちらも不敵な笑みを浮かべて答えるヨシュア。


「いいかよく聞け!この列はなぁ、俺たちの心のオアシス、プリンちゃんに唯一話しかけることができる神聖な儀式を待つ男たちのためにあるんだ!お前みてぇに、か、か、かわいい女の子を連れてるような人生の勝ち組が並んでいい場所じゃぁねぇんだ!」


「ん?」


 かわいい、という単語を言う際にチラリとララに目線をやり、それだけで真っ赤になりながらどもる男は、まだ足りぬとばかりに言い募る。


「プリンちゃんはなぁ、俺たちみてぇに見た目で怖がられ、世の女の子たちに見向きもされないようなヤツらにも分け隔てなく接してくれる、天使みてぇな子なんだ!迷子の子供の親を探してやれば憲兵に通報され、盗賊を討伐すれば代わりに捕まり、新人冒険者を助ければ新人狩りと勘違いして逃げられる!そんでやさぐれて、もう本当に盗賊にでもなってやろうかと悩んでた俺を冒険者に繋ぎとめてくれる尊い存在なんだ!俺だけじゃねぇ。ここに並んでるのは、多かれ少なかれそんな目にあってきたやつらばっかりだ!そりゃぁ皆惚れてる!でも俺らみてぇなのに言い寄られても迷惑でしかねぇことも皆わかってる!そこで俺たちは協定を結んだ!抜け駆けはしねェ!単独で話しかけていいのは依頼の受付と報告のときのみ!そんな俺たちの大事な時間を!お前みてぇに、お前みてぇにほっといても女が寄ってきそうな男が!あまつさえ女連れで並んで!邪魔する権利が!あるとでも思ってんのかてめぇぇぇえええ!」


 後半は涙さえ流しながら言い切った男。


「よく言った!」「それでこそプリンちゃん親衛隊の鏡!」「色男はおっさんの列に並べぇ!」

 それまで傍観していた、ヨシュアの前に並んでいた男たちから喝采が上がり、その奥のカウンター内では顔を真っ赤にした推定プリンちゃんが俯いて座っていた。


「そ、そうか。それは失礼した。お前達の熱い思いを邪魔する気は無い。大人しく隣の受付に向かうとするよ」


「さっさと行け!女連れでさらにモテようなんざ、いつか刺されて痛い目見るからよ!隣の子を大事にしてやんな」


「あ、痛い目見るってそういう…」


「他になにがあるってんだ?女ってのはこえぇ生き物なんだ。プリンちゃんを除いてな!」


「あーうん。忠告感謝する。…いいギルドだな」


「当たりめぇよ!プリンちゃんに顔向けできなくなるようなこたぁ、この俺らが許さんぜ!お前も気をつけろよ!下手なことしたら粛清だからな!」


「あ、あぁ、気を付けるよ。それじゃあ」


 どこか釈然としない思いを抱えながらも、無事トラブル(テンプレ)を回避できたことに安堵し、隣の受付の前に立つ。

 ちなみにこのギルド、受付は3か所あり、内1つがプリンちゃん(行列)、残り2つは男性職員(列無し)という状況であった。

 まさかそんな偏った行列ができているとは思わないヨシュア達が、とりあえず1列に並んで、順番が来たら振り分けられるのだろうと勘違いしても無理のない話である。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 何事も無かったように、決まり文句を口にする男性職員。


「あぁ。移転手続きを頼みたい。…ところで、あれはいつものことなのか?」


「移転手続きですね。それでは冒険者タグをお出しください。…当ギルドの風物詩ですね。皆さん顔は怖いですが、依頼達成率も高く、当ギルドの主力冒険者たちですよ。…時に暴走しますが」


「…なるほど。大変だな。しかし、いいヤツだってのはわかる」


 世間話をしながら冒険者タグを出すヨシュア。


「…はい、確かにお預かりします。隣の方は、お連れ様ですか?よろしければ一緒にお手続しますが」


「あ、お願いします!」


「…いたのか」


 プリンちゃん親衛隊とやらとの茶番の間大人しかったララだが、ちゃんと付いてきていたようだ。


「いたよっ!どうなるのかなーって見てるうちに圧倒されちゃって、ずっと黙ってただけだよ」


「あーまあ、あれは圧倒されるか」


「うん。怖い人なのかなーって思ってたけど、皆あんまりこっち見ないし、目が合っても真っ赤になって逸らすから、実はあんまり怖くなかったけどね。あの男の人の演説にはびっくりしたけど!」


「あれはいい演説だった。魂の叫びを聞いたよ」


「言われた側のセリフじゃないね」


「まぁな」


 そうして二人で笑いあっていると、手続きが終わったようで、声を掛けられる。


「お待たせしました。ヨシュア様、ララ様ですね。無事、当冒険者ギルド・アドレア支部への移転手続きが完了いたしました。今からでも依頼を受注なさいますか?」


「ありがとう。今日は手続きだけでいい。依頼はまた今度受けさせてもらうよ」


「あたしもっ!あと、おすすめの宿ってありますか?」


「宿でしたら、この建物近辺の宿はすべてギルド提携のものですので、どこも安心して宿泊いただけますよ。ララ様は女性ですので、個室がよいかと思います。となると、木漏れ日亭がおすすめです。雑魚寝よりは値が張りますが、全室カギがかかりますし、荷物も預けておけますので」


「なるほど~。じゃあそこへ行ってみます!ありがとう!」


「いえいえ。今後とも当ギルドをよろしくお願いいたします。良い冒険を」


 そう言って頭を下げた職員に挨拶を返し、二人してギルドを出る。


「ヨシュアはどこの宿にするか決めてるの?」


「いや、せっかくだから俺も木漏れ日亭に行ってみようと思ってる」


「そっか、じゃぁしばらくはよく会いそうだね!これからよろしくね?」


「あぁ、こちらこそ。とりあえず、行くか」


「うん!」



 二人は連れ立って歩き出し、木漏れ日亭へ向かうのだった。

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