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「ごちそうさまでした!」
満面の笑みで青年に向き直り、そう口にするのは桃髪の少女。
「まぁ、うん。」
襲われたのは自分なのに、という気持ちと、不用意な言動で怯えさせてしまった、という罪悪感の狭間で微妙な返事をする、黒髪の青年。
あれから、出てきた食事を片付け、店を出たところだった。
「じゃぁあたし、もう行くね?」
「あぁ。もう腹が減っても変な男についてくんじゃないぞ」
「もう!わかってるよー!って、あ、そうだ!」
「?」
「なまえ!名前教えてよ、おにいさん。あたしはララっていうの!」
「ヨシュアだ。旅の冒険者をしている」
「そうなんだ!あたしとおんなじだね!」
「旅慣れているようには見えないが…」
「まだ駆け出しだからね~。この街は2つ目なの!」
「そうか…。何か困ったことがあったらギルドに伝言を残すといい。しばらくはこの街にいるから」
「うん!ありがとね!でも大丈夫。あたしも冒険者だからね!自分のことは自分でやらないと」
「そうか、そうだな。大きなお世話だったかもな。じゃあ、また道が交わったら会おう。良い旅を!」
「よいたびを~!」
そう言ってヨシュアに背を向け、手を振りながらララは去っていった。
「道が交わったら、か。交わらないことを祈ってるよ、ララ」
そう呟き、ヨシュアもまた、ララとは逆方向に歩いていくのだった。
「さっそく交わったね!ヨシュア!」
「……」
ところ変わって冒険者ギルド。
先程別れたばかりのララが、そこにいた。
当然である。互いに冒険者なので。
町に着いたばかりでトラブルに見舞われたララを、冒険者ギルドを探して歩いていたヨシュアが発見したのが出会いであるからして。まだ昼を少し過ぎた時間。次に向かうのは当然、冒険者ギルドだった。
目の前の少女には聞かれていなかったとはいえ、意味深な呟きまで残した男、ヨシュアとしては赤っ恥である。
「んんっ!さっきぶりだな、ララ」
軽く咳払いして気持ちを切り替え、爽やかに挨拶するヨシュア。
「ヨシュアも移転登録まだだったの?なら一緒に来ればよかったねぇ」
「そ、そうだな。そうすればこんな思いもせずに済んだ」
「思い?」
「いや、こっちの話だ。さっさと済ませてしまおう」
そう言って、適当に空いている列に並ぶヨシュア。ララも慌てて付いていき、同じ列に並んだ。
冒険者ギルド。
魔物が跋扈し、街から街への移動にも危険が伴うこの世界で、自然と魔物を討伐することを生業とする者たちが生まれた。
強い権能を持つ貴族たちだけでは、全てを把握し対処することなど不可能であったため、国としても歓迎された。
個人で活動するだけでは限界があると感じた魔物ハンター達が集まり、各地の情報を集め、対応する人間を斡旋していくうちに組織化され、今では魔物の討伐だけでなく、住民の困りごと全般を請け負う何でも屋の斡旋組織となった。
設立当初は人間に被害を出した魔物を調査・討伐することのみで回っていたため、ハンターギルドと呼ばれていたが、次第に余裕が生まれ、人類の生存圏を広げるための未踏地域への調査や、希少な素材の採取、神話の時代に生まれたとされるダンジョンの探索など、未知への挑戦をするものが増えていった。
そういった者たちが自らを冒険者と自称し、権能の弱まった平民たちからも憧れを込めて受け入れられたため、いつの頃からか冒険者ギルドと呼ばれるようになり、現在に至る。
そういった経緯で生まれた職業であり組織であるため、基本的には「民のため」という理念のもと活動することが義務付けられているし、それを誇りとする冒険者も多く存在する。
だが、一定の戦闘能力を持てばハメを外したがる人間がいることも現実であり、
「おうおう、ここはお前らみてぇなガキがデートする場所じゃねぇぜ?」
結果、こうなるのである。