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しばらく出てきませんが、ちゃんと登場人物に名前はあります。
「どれくらい歩くのかな?もう着く?あたしもうおなかペコペコだよ~」
「さっきまであんだけ食ってたのに、もう腹が減ったのか?ま、まぁもうすぐだ。黙って付いてきな」
路地はどんどん細く、薄暗くなっていく。
だというのに、怖気づいた様子もなく空腹を訴える少女に、いっそ不気味なものを感じながらも、この後のお楽しみに意識が向いている男達は気が付かない。
自分たちこそが、追い詰められているということに。
「待て」
後ろから声を掛けられ、3人の男と1人の少女が振り向く。
そこには、黒い外套に身を包んだ、若い男が立っていた。
「んだぁてめぇは?」
「その子から離れろ。今なら見逃してやる」
「いきなり出てきてなに抜かしてやがる!俺たちは親切にもおのぼりさんのお嬢ちゃんを飯屋へ案内してるだけだぜぇ?」
「そうだよっ!おいしいご飯の邪魔しないで!」
思わぬところからの援護に、若い男は一瞬呆気にとられた顔をしたが、すぐに気を取り直し、さらに声を上げた。
「この先には飯屋なんて無い。あるのは袋小路と、君にとっての不幸だけだ」
「えっ!?ごはん屋さん無いの!?」
少女が男たちに向かって尋ねると、
「いーや?ちゃぁんとあるぜぇ。俺たちも嬢ちゃんも幸せになれる、とびっきりの飯屋がなぁ」
「まぁおいしくいただかれるのは嬢ちゃんのほうだがなぁ!」
「ぎゃっはっは」
もはや誤魔化す気もなくなったのか、男たちは下卑た話題で盛り上がる。
それを聞いた少女は、
「ほら、あるって言ってるよ?ごはんの邪魔しないでよ!」
この期に及んで食欲に支配された少女の言葉に、若い男だけでなく3人組の男たちすら呆気に取られて少女を見つめた。
「い、いや、こいつらは君を食事処へ連れていくと嘘をついていてだね、本心では君にいかがわしいことをしようと」
「問答無用!!」
少女は叫ぶと、瞬時に若い男の左側へ跳び、側頭部へ蹴りを見舞う。
「くっ!」
若い男は左腕を上げて蹴りを防ぎ、さらに声をかける・
「待ってくれ!俺と君が争う理由は無いはずだ!」
「あたしのごはんを邪魔する奴はみんな敵!」
「そんな無茶苦茶な!?」
言い合いながらも、目まぐるしい攻防が繰り広げられるのを後目に、3人組はコソコソと話し合っていた。
「な、なぁ、俺たち実はとんでもないのを相手にしようとしてたんじゃねぇ?」
「そうだな、このままここに居たら、どっちが勝っても明日の朝日は拝めそうにねぇ」
「よし、逃げるぞ!」
言うが早いか、元来た路地を駆け戻っていく男たち。
「あ、待て!ぐぁっ」
そちらに気を取られて声を上げた瞬間、左頬に少女の拳が直撃してたたらを踏む若い男。
「とどめっ!」
叫びながら、宙で一回転して踵落としを見舞う少女。
若い男はそれを両腕を交差させて受け止める。受け止められた少女は、男の肩を蹴って後方宙返りして着地。
男は瞬時に体勢を立て直し、反撃に移ろうとしたところで、
「きゅぅ、おなかすいたぁ~」
少女はその場で倒れこみ、目を回していた。
「なんだこれ」
薄暗い路地裏に、若い男の声が響いたのだった。
多分不定期投稿なので、ブクマの片隅にでも置いといて、溜まってたら読んでいただけると嬉しいです。