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「ヨシュアっ!」
街へと帰還した調査隊の中から、満面の笑みを浮かべたララが駆けてきた。
ヨシュアも笑顔で手を挙げる。
「どうしたの?もしかして迎えに来てくれたんだったり?」
「あーまぁ、そうだと言えばそうなんだが、違うと言えば違うというか…」
表情を悪戯な笑みに変えたララが尋ねると、ヨシュアは歯切れ悪く返す。
「もーぅ、なによそれー!ちょっと嬉しかったんだからね!?」
「いや悪い。調査隊帰還の知らせがギルドにも届いてな。悪魔憑きが出たって言うから、事情を知ってる人に話を聞こうと思って」
「悪魔憑きの?どうして?」
「俺の依頼に関係あるかもしれないんだ。誰か当時の状況に詳しい人を知らないか?」
相変わらずコロコロと変化する表情に内心苦笑しながら、ララへと要件を告げる。
それを聞いたララは、途端に得意気な表情になった。本当に表情豊かな少女だ。
「その顔からすると、心当たりがあるんだな?紹介してくれないか?」
「へっへーん!悪魔憑きはねー、なんと」
「ララ、急に走りだしてどうしたんだよ?」
勿体ぶりつつ話し出そうとしたララの声を遮って、後ろから声がかかった。赤髪の剣士、アインだ。
「アイン!ごめんごめん、知り合いが居たから、つい嬉しくなって先に来ちゃった」
振り向いたララが、てへっとあざとい笑みを浮かべて謝罪する。
反省しているようには見えないが、相手に不快感を与えないのは天性のものだろう。
「まぁ、もう街だからいいけどよ。で、知り合いってそいつ?」
初対面でそいつ呼ばわりされたヨシュアだが、悪意の感じられないアインの表情を見て苦笑を浮かべつつ返事を返した。
「パーティ行動の最中だとは知らず、ララを拘束してしまってすまない。俺はヨシュアだ。ララとはちょっとした縁があってね」
「そうなのか。さっきも言ったけど、もう街に入ってるから気にしなくていいぜ!俺はアイン。3日前からララに入ってもらってるパーティのリーダーだ」
ニカっと人好きのする笑みを浮かべ、手を差し出すアイン。ヨシュアも応じ、握手を交わした。
「いや、お前は気にしろよリーダー。解散前に各パーティの代表者を集めて申し送りがあったのに、サガさんが怒ってたぞ」
「サガさんが!?まずい!いってくる!」
後ろから歩み寄ってきたリードが、呆れたように声をかける。傍らにはリーンも居た。
慌てて駆け出そうとしたアインだが、すれ違いざまにリードがラリアットの要領で止めた。
「ぐぇっ」
「落ち着けって。お前がさっさとララを追いかけてったんで、代わりに聞いといてやったから」
「…アインはもっとリーダーとしての自覚を持つべき」
ジト目のリーンに詰られ、うぐっと声を詰まらせるアイン。
「…いつもすんません。気を付けます……」
「ま、サガさんの話は簡単な連絡事項だけだったから、後で話すよ。で、そちらさんは?」
話を切り上げ、ヨシュアに視線を向けたリードが尋ねる。
「俺はヨシュア。ララの知り合いだ」
2度目の自己紹介を簡潔に済ますヨシュア。
リードとリーンも自己紹介を返して、ようやく場が落ち着いた。
「で、なんだっけ?」
ララがヨシュアに尋ねると、ヨシュアが呆れ顔で返す。
「お前な…。悪魔憑きが出た現場を知ってる人を紹介してくれって話だったろ」
「そうそう!それでその悪魔憑きだけど、なんとねー!」
今度こそ驚かそうと、得意満面の笑みで勿体ぶるララ。
「悪魔憑きなら、最初に遭遇したのは俺達だぜ?」
あっさりとアインが言ってしまった。
ララは愕然とした表情でアインを振り返り、
「もー!なんで言っちゃうのアインー!せっかくヨシュアを驚かそうと思ったのにー!」
頬を膨らませて抗議するララに、
「す、すまん。そんな大した話じゃないと思って」
たじろぎながら謝るアイン。
「ごめんララ。うちのリーダーは空気が読めないから」
「悪気は無いんだ。許してやってくれ」
追い討ちをかけるリーンとフォローするリード。
ララはしばらくもーもーと唸っていたが、苦笑したヨシュアに撫でられて黙った。見れば飼い主に撫でられる猫のような表情になっているので、機嫌も直ったようだ。
「その話、詳しく聞かせてくれないか?」
「あー、別にいいけど。本当に大した話じゃないぜ?」
苦い記憶を思い出し、顔を顰めながらも応えを返すアイン。
そこへリードが割り込んだ。
「ちょっと待ってくれ。先にギルドへ報告したいんだが、それでもいいか?あと、流石に今日は疲れてるんで、日を改めたいんだが…」
このパーティの調整役はリードなのだと理解したヨシュアが向き直り、改めて提案する。
「それもそうだな。すまん、配慮が足りなかった。なら、明日の午後はどうだろう?」
「コイツの治療にも行きたいから、夕方でもいいか?」
「了解だ。なら夕飯を共にしよう。奢るよ」
「嬉しいが、大丈夫か?俺たちみんな結構食うぜ?」
調査隊の報酬がどうなるか分からず、アインも負傷してしまっている現状、食費が浮くのは嬉しいが、どう見ても同年代の青年一人にタカるのは忍びない。
「大丈夫だ。これでも結構稼いでる。明日の午後3つの鐘が鳴る頃にギルドに居るようにするから、来てもらってもいいか?」
余裕の笑みで返したヨシュアに、虚勢を張っている訳ではないと見抜いたリードもまた笑みを浮かべて答える。
「ああ。それくらいなら丁度いい。なら明日、ギルドで会おう」
「よろしく頼む。疲れてるところ邪魔して悪かった」
互いに手を挙げて挨拶し、4人と1人に別れて歩き出した。
因みに、ヨシュアとリードが話している間、ずっとララは撫でられていた。
「なんか、雰囲気のあるやつだったな」
「だな。余裕があるっていうか、同年代のはずなのに妙な貫禄のあるやつだった」
アインがヨシュアの去った方を見ながら呟くように言うと、リードも思うところがあったのか、感想を述べる。
「ララ、ヨシュアってどういうヤツなんだ?」
自分達よりは彼の人物について知っているであろうララに聞いてみる。
「うーん、知り合いって言っても、あたしも出会ったのはこのパーティに入る3日前だからね~」
「そうなのか?なんだか随分親し気というか、懐いてるように見えたけど」
ヨシュアに撫でられて飼い猫のように大人しくなっていたララを思い出し、アインが言う。
「懐いてるとは失礼な!あれはヨシュアの撫でテクがすごかっただけで…!」
顔を赤くし、ヨシュアの撫でテクがいかに素晴らしかったかを語ろうとするララに、リードが待ったをかける。
「あー、撫でテクについては後でアインが聞いてやるから、今はヨシュアの人となりを教えてくれ」
ぎょっとした顔で振り向いたアインを無視し、ララに話の続きを促す。
いくらアインといえど、どう凄いのかも理解できない技術について語られるのは苦痛であるらしい。
「そうだなぁ。とりあえずノリはいいね!あと正義感も強いと思う。あとは~、唐揚げが好き!」
「いや、最後のはどうでもいいが」
「唐揚げ好きに悪い人はいないんだよ?」
「そんな当たり前のような顔で出す統計情報じゃない」
「ぶー。あー、あとね!とっても強いよ!」
「どれくらいだ?」
ようやく聞きたい情報に辿り着けそうで、ほっとしつつも更に突っ込むリード。
「オークを瞬殺できるくらい?あ、悪魔憑きじゃなくて普通の方ね!」
「!すごいな…。どれくらいのランクなんだろう?」
「あ、それ先に言えばよかったね!Aランクだよ!すごいよね!」
「「A!?」」
いきなり飛び出したとんでも発言に、黙って聞いていたアインまでハモって聞き返す。
リーンも、声こそ上げていないが驚愕の表情を浮かべている。
「ま、間違いないのか?さすがにあの年でAは無いだろ?」
「んー、だって冒険者タグ見せられたし。ちゃんとAって書いてあったよ!」
絶句したリードに代わってアインが尋ねるが、ララはあっけらかんと答える。
「み、見たのか?Aランクのタグを…」
「見たよ!あたしもまさかと思って聞き返したんだけど、疑われ慣れてるみたいで、黙ってタグを外して見せられちゃった」
「かぁ~、うらやましい!俺も明日見せてくれねぇかな~。ララからも頼んでくれよ!」
「えぇ~?いいけど、ただのタグだよ?そんなに見たいの?」
「わかってねぇなー!いいか?Aランクってのは、ただ努力してなれるってもんじゃねぇんだ!才能とか運とか、色んなものに恵まれたヤツにしか辿り着けない冒険者の最高峰!それがAランクだ。俺達Dランク程度からすりゃBランクだって山の頂くらい遠いけど、Aランクなんて雲の上だ!領地に1人抱えてりゃ皆が安心して暮らせて、領主様も他の領主に自慢できる。それくらい希少ですごい存在なんだぞ?タグだけでも拝めりゃご利益があるってもんだ!」
「う、うん。すごいんだね、Aランク…」
目を輝かせて一気に捲し立てたアインに、流石のララも引いていた。
「出たよ、アインの冒険者オタクが…」
「アイン、うるさい」
テンションの上がったアインに辟易としている兄妹。
誰も聞いていないのに、まだまだ語り続けるアイン。
正面に立たされたララが助けを求めるようにこちらを見ていた。
「そこまでだ。ララが固まってるぞ」
「はぁ、はぁ…わかってくれたか、ララ?」
こくこくと頷くララに、満足気に頷き返すアイン。
「よぉーし、漲ってきた!さっさとギルドに報告して明日に備えるぞ!」
「…はぁ、なんでこんなのがリーダーなんだろ」
諦めの境地で呟いたのは兄か妹か。
夕闇に包まれ始めたギルドへの道に、4つの影が伸びるのだった。




