1-18
昨日は更新できず申し訳ありません。
拙作を見て頂けている方のご期待に沿えるよう、頑張って更新します。
「サガさん!」
「おうアイン。よく頑張ったな。すぐに片付けるから、ちっとずつでも離れとけ!」
「サガさん。そいつ多分悪魔憑きです!気を付けて!」
「おうよ!」
既にある程度予想はしていたのか、動揺も見せずに請け負うサガ。
アインはなんとか立ち上がり、左腕を庇いながらも明かりの方へと歩いて行った。
そこへリードが駆けつける。
「アイン!無事か!?」
「まぁな。サガさんを連れて来てくれてありがとよ」
戦場から離れながらも、互いの無事を確認する二人。
「あとはサガさんに任せよう。…悔しいが、俺たちじゃ足手まといだ」
「…そうだな。あー!早くもっと強くなりてぇなぁ!」
アインは空元気を見せて答えるが、リードは相棒の異変を見逃さない。
「その腕!…あの時か」
「あぁ。…まぁ、腕1本で済んで御の字ってとこだな」
「…すまんな」
「俺が未熟だっただけだ!次はもっとうまくやろうぜ」
「あぁ!」
アインが攻撃を食らったあの時、走りながら振り向いて矢を放った瞬間、地面の凹凸に足を取られてバランスを崩したリードを庇ったのだ。
万全の体勢であれば往なすことも出来たはずだが、あの場面ではアインが壁となって受けないと、リードに直撃していたかもしれない。
自身の所為でケガを負わせたことに詫びるリードと、自身の未熟を恥じるアイン。
二人は改めて、強くなることを誓ったのだった。
「とりあえず、合流したらリーンに治してもらわないとな」
「だな。で、この依頼が終わったら走り込みだな」
「ははっ、ああ、そうだな」
アインが左腕を見ながら体力の増強を提案すると、自身も体力不足を痛感したリードが応じる。
アインの左腕が完治するまでは、どうせまともな依頼を受けることはできないのだからと。
頑なに依頼受注を禁止するリーンの顔を思い浮かべ、苦笑する二人だった。
「それにしても、ララ達遅いな…。リーンのケガが大したことなければいいが…」
リードは呟くと、自分達が逃げてきた方を見つめるのだった。
辺りはウルフの襲撃も収まり、冒険者と領主軍が入り乱れて事態の収拾にあたっていた。
サガが引き離しに成功したのか、西の方で戦闘音が聞こえるばかりだった。
「んぅ…シスター?」
目を覚ましたリーンは、シスターの声が聞こえた気がして、辺りを見回した。
すると、ララが自身に覆いかぶさるように眠っているのが目に入った。
「私…うそ、ケガが治ってる?」
ウルフの襲撃で目を覚まし、パーティの皆で本部テントへ向かおうとした瞬間、右半身に受けた大きな衝撃と共に自身は吹き飛ばされた。
幸いと言っていいのか、入口が開かれていた誰かのテントの中へと滑り込んだようで、ここはテント内だ。
僅かに意識はあったように思うが、少なくとも右腕と右脇腹に激しい痛みは感じていた。
死すら覚悟するような痛みの中で、誰かに呼ばれたような気がする。
「ララ…だったの?でも…」
自身が無傷であることの説明がつかない。
よほど高性能なポーションでもあれば別かもしれないが、そんなものが都合よく残されているとも思えないし、ララを含めた自分達が持っているはずもない。
治癒魔術を扱う者として、あれだけのケガを治すには、魔法レベルの力が必要なはずだとも思う。
「ん…考えても分からないことは後回し。今は状況確認が大事」
とりあえず自身の身に起こったことは置いておいて、無傷であることを受け入れる。
そして、現状唯一の手掛かりである目の前の少女を起こしにかかった。
「ララ…ララ。起きて」
緩く揺すりながら、ララに呼びかける。
「ん…リーン!?生きてる!大丈夫!?」
気が付いたララは勢いよく起き上がり、ペタペタとリーンの身体を触りながら無事を確認する。
「ララ、くすぐったい。大丈夫、私は無傷」
「よかったぁ~!リーンが死んじゃうかと思って、あたし心配したんだよ~!」
涙目になってリーンに抱き着くララ。
よしよしポンポン、と頭を撫で背中を叩き、あやすリーン。
ララの方が年上で体も大きいはずだが、立場が逆転していた。
「それで、ララ。何がどうなったのか教えてほしい。あの後どうなったの?」
ララの嗚咽が収まったのを見計らって、リーンが尋ねる。
ララは身を起こし、斜め上を見ながら答えた。
「んー、リーンを吹き飛ばしたのはオークだったの。それでね、アインとリードがそいつを引き付けて強い人たちが居る所へ連れて行くから、あたしはリーンを助けに行ってって。で、ここでリーンを見つけたんだけど…」
「だけど?」
言い淀んだララに、オウム返しで首を傾げるリーン。
「リーンのケガがひどくて、動かせなくて、でもあたしには何もできなくて、それで…っ」
あの時の情景を思い浮かべ、また泣きそうになるララ。
「落ち着いて。私は生きてる。大丈夫だから」
ララを抱きしめ、優しく諭すリーン。
「うん…。それでね。一か八かでリーンを背負って連れて行こうとしたの。そしたら…」
「そしたら?」
「……なんだっけ?」
肩透かしを食らい、ややズッコケそうになりながらも再度問いかけるリーン。
「覚えてることだけでいい。話して?」
「うーん…。なんかね、声が聞こえて、それで、信じてって、リーンを助けるって、言われて……ごめん、必死だったし、よく覚えてない。あたしも寝ちゃったみたいで、気が付いたらリーンが起こしてくれてた感じ」
「そう…ありがとう、ララ」
「んぇ!?あたし、何もしてないよ?多分その声の人がなんとかしてくれたんだろうし…」
「ううん。ララはこうして見つけてくれた。その声の人だって、ララが居なかったら私に気付かなかったかもしれない。だから、ありがとう」
「あたし、役に立ったかな?」
「うん。とっても。ララは私の命の恩人」
満面の笑みで、リーンに抱き着くララだった。
「さて…どうにも参ったねコイツは」
一方、オークの相手をしていたサガは、困惑していた。
(周りを巻き込まねぇように引っ張ってきたはいいが、どうにも誘導されたようにも感じる。それに、あの回復力だ)
サガはオークと何度か切り結び、致命傷とはいかないまでも数か所に傷を与えていた。
傷を受ける度にオークは距離を取り、本部テントから西の方、山と森の境界線が見える場所へと戦場を移していた。
西へと移動しながら衝突を繰り返しているうちに、気付いたのだ。
最初の方に与えた傷が消えていることに。
魔物全般が人間より高い回復力を持つが、中でもオークは高い回復力を持つことで知られている。
とはいえ、さすがに骨が見えるほどの切り傷を、戦闘中に癒しきるほどの回復はありえない。
これが普通なのであれば、オークはもっと高ランクの魔物に指定されているはずだ。
(流石は悪魔憑きってわけかよ)
サガとて、Bランク冒険者として悪魔憑きの討伐経験は何度かある。
そのどれもが通常種と比べれば遥かに厄介だったが、このオークは別格だ。
人型であることもあり、獣型の魔物に比べれば元々知能が高めのオークが、悪魔憑きになることで更に知能を高めている。知性という意味では、もはや人間と遜色ないと感じる。
その知性でもってこちらの動きを読みながら、戦略建てた動きで巨大な棍棒を振るってくるのだ。
異常な回復力が無くても、厄介な存在だった。
(戦闘技術って部分じゃ、負ける要素はねぇ。だが、決定打もねぇ。尋常じゃねぇ回復力にものを言わせてかかってくるが、致命傷だけは受けねぇように立ち回ってやがる。このままじゃ体力が尽きたところを狙われて終わりだ。なんとか足を止めさせて、首を落とせれば可能性はあるが…)
自身は生粋の前衛であるため、足止めなどの搦手が無い。
魔術でも使えればよかったが、それも無い。
このままではジリ貧だ。なんとか援護を…と思ったところで、後方から石礫がオークを襲った。
「苦戦しておるようだな?援護は必要か?」
「あんたは…!」
右手に直剣を携え、歩み寄ってきたのはブラウン大尉であった。
「助かる!、あんた土の魔術が使えるのか?」
「多少だがな。アレを仕留めるほどの腕は無い」
「一瞬でいい!あいつの足を止めることはできるか!?」
「…厳しいが、やれぬと言う訳にもいかぬな。誇りに賭けて、やってみせよう」
「信じるぜ!合図をしたら頼む!」
「あいわかった!溜めが必要になるゆえ、20秒は稼いでくれ!」
「了解だ!」
叫びつつ、石礫の奇襲から立ち直ったオークへと向かうサガ。ブラウン大尉は魔術の準備に入る。
「そぅらよ!」
その巨体からは信じられない俊敏さでオークの周囲を跳ね回り、浅く傷を与えていくサガ。
ブラウン大尉に気を向けられないよう、牽制に徹する。隙あらば首を落とすというつもりで攻めているので、オークもサガの対処に注力せざるを得ない。
「準備完了だ!」
ブラウン大尉の声を受け、攻撃の回転を上げるサガ。
オークが嫌がり、距離を取ろうとした瞬間、
「いまだ!」
「!」
ブラウン大尉が裂帛の気合を込め、左手を突き出した。
すると、バックステップで逃れようとしていたオークの右足を、地面から延びた岩が包み、飛び退く勢いを落とす。
「そこだぁぁああ!!」
足止めは一瞬で、すぐに岩は砕かれたが、好機を逃すサガではない。
「グォ…ッ!」
くぐもった声を上げてオークの首が飛び、ゴトリと地面に落ちた。
残された首から派手に血飛沫を上げながら、仰向けに倒れる。
残心をしてオークがもう動き出さないのを確認し、ブラウン大尉を振り返るサガ。
そのまま近づき、右手を上げた。
「助かったぜ。やったな!」
「フン!当然だ!」
ニカっと太い笑みを浮かべるサガと、憮然とした表情から口元に薄い笑みを浮かべたブラウン大尉の手が合わさり、パァン!と辺りに景気の良い音が響いたのだった。
主人公はいつ出てくるのか…