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1-16

 ララは焦っていた。


 リーンの救助を任されたはいいが見当たらず、どこかのテントに突っ込んだものと考えて3か所目でようやく発見した。

 そこまでは良かったのだが、右腕が明らかに折れており、意識はあるようだが目は虚ろ。ララのことも認識できていないようだ。

 時折苦しそうに呻くので服をめくってみたところ、明らかに致命傷と思えるほど右半身が変形していた。

 段々息が細くなっているように感じ、焦りは募る。

 助けを求めようにも周囲には誰もおらず、かといって無理に動かすと命に関わりそうでそれも出来ない。

 実際、一度担ごうとして身体を起こそうとしたが、下半身があり得ない伸び方をしてリーンが悲鳴を上げたので、断念した経緯がある。


「リーン、リーン!しっかりして…。死んじゃダメだよ。またあたしに色々教えてよ…」


 このままではリーンが死んでしまう。

 まだ短い付き合いだが、自身に優しくしてくれたパーティの紅一点として、殊更に世話を焼いてくれた。

 年下なのに、精一杯背伸びして色々と教えてくれるリーンのことが可愛くて仕方なかった。

 普段は表情に乏しいのに、兄やアインのことを話す時だけは口元が緩むのを発見して、密かに喜んでいた。

 これからもっと仲良くなって、自分も口元を緩ませる仲間に入りたいと思っていた。


 そんなリーンを助ける力が、自分には無い。

 悔しくて涙が出てきた。

 念のため1つだけ持っていた回復ポーションは既に使ったが気休めにもなっていない。

 このまま放っておいても死ぬのなら、せめて少しでも可能性のある方に賭けようと意を決して、再び担ごうと近寄った時、声が聞こえた。


 ”無理に動かしてはダメ”


「だれっ!?」


 咄嗟に短剣を構え、テントの外を見るが誰もいない。


 ”私はそこには居ないわ。とにかくリーンの元へ戻って”


「誰なの?どうしてリーンを知ってるの?」


 ”今は時間が無い。言う通りにして。リーンを死なせたくはないのでしょう?”


「助けられるの!?」


 ”あなたが私の言う通りにしてくれればね”


「わかった!なんでもする!どうすればいい?」


 不思議な声への警戒も忘れ、リーンを助けられると聞いたララは、一も二も無く了承した。


 ”ますは、リーンを正しい姿勢で寝かせてあげて。多少痛むと思うけど、治す時に不自然な体勢だと、そのまま骨が繋がってしまう可能性があるわ”


「わかった!」

 ・

 ・

 ・

 謎の声の指示通り応急処置を終えたララは、次の指示を仰いだ。


「できたよ!あとはどうすればいいの!?」


 応急処置を施している間にも、リーンの命が削られていくのはララにも理解できていた。

 震える手を抑えながら、顔を涙でぐしゃぐしゃにしつつも、助けたい一心で謎の声の指示をこなしてきた。


 ”…この子のために涙を流せるのね。ならどうして…”


「どうしたの?次の指示は?」


 ”…っ、ごめんなさい。次で最後よ。回復魔法を使ってもらうわ”


「あたし魔法なんて使えないよ!?それも回復なんて、魔術だって無理だよ!」


 リーンの回復魔術を見て興味津々だったララは、リーンから魔法と魔術についての簡単な講義を受けていた。

 結果分かったのは、ララには魔術を扱えない、ということだった。

 無意識に身体強化は行っているようだが、体外に放出する系統の魔術を身に着けるには、相当な期間の訓練を経た上で、もしかしたら使えるようになるかもしれない。

 そう言われたララは、密かに旅の目的に魔術の習得を加えていたが、現時点では魔法どころか魔術の入口にも立てていない。


 ”いいえ、あなたなら出来るはずよ”


「でも、どうやって?」


 ”私が手を貸すわ。あなたは私を信じて、受け入れて、リーンを救いたいと心から願ってくれればいい”


「それだけでいいの?でも、リーンを救いたいなんてずっと思ってるよ!回復魔術が使えたらなんて、さっきからずっと思ってる!」


 ”想いだけでは足りないわ。その想いに沿ったマナを込めなくては回復魔法は発動しない”


「でも、そんなの!」


 ”マナの調整は私がするわ。あなたは、私から送られてくるマナを受け入れて、あなたの想いを乗せてリーンに送り込んであげて”


「わかんないけど、わかった!やってみる!それでリーンは助かるんだよね!?」


 ”それはあなた次第よ。でも、それしか助ける方法は無い”


「なら、絶対助ける!お願い、力を貸して!」


 ”最初からそのつもりよ。かわいいリーンを死なせるわけにはいかないわ”


「リーンのこと、大切なんだね」


 ”ええ。ずっと傍で見守って来たわ。…無駄話をしている暇は無いわね。準備はいい?”


「うん!お願い!」


 ララが言った瞬間、目の前が真っ白になった。

 実際に光は発していない。謎の声が送ってきたマナが、ララに光を幻視させたのだ。


「うぐっ…!痛い痛いイタイ!」


 ”反発している…?普段使えない属性に身体が拒否反応を起こしているというの…?”


「あぁぁぁああアア!!」


 ”ダメ!このマナを手放せば回復魔法は発動しないわ!意識を保って、リーンに届けるのよ!”


「リーン……っ、死んじゃダメだよ…!まだ冒険はこれからなんだから!」


 痛みに顔を歪めながら、それでもリーンを助けたい一心で声をかけるララ。


 ”マナが安定してきた…。そのまま、リーンの患部に触れなさい!”


「わかっ…たっ」


 ララがリーンの腹部に触れた途端、テント内に光が溢れた。


「うぐぅぅうううウ!」


 これまで以上の痛みがララを襲う。

 飛びそうになる意識を必死で繋ぎ止め、リーンの生還だけを祈って触れ続けた。


 ”いいわ、その調子よ。もう少しで終わるわ。頑張って!”


「うぐううああああアア!リーーーーン!帰ってきて!!」


 一際眩い光を発し、それが収まった時、リーンの呼吸は穏やかになっていた。

 それを見届けたララは笑みを溢し、意識を手放した。


 ”ありがとう。今は眠りなさい。少しの間なら、私が結界を張っておいてあげるわ”





 ララがリーンを救うために謎の声を受け取っていたその頃、アインとリードもまた、決死の覚悟でオークを誘導していた。


「まずはララとリーンから引き離す!遠回りになるが仕方ねぇ!やれるなリード!」


「誰に言ってやがる。やるしかねぇだろうよ!」


 二人は、オークの襲撃場所から真っ直ぐに本部テントを目指すのではなく、一旦リーンの飛ばされた方とは逆方向に引き離し、そこから本部テントを目指すことにした。


 リードがオークの目を狙って矢を放つ。

 鬱陶しそうに片手で矢を払ったオークは、リードの方に向き直り、咆哮を上げた。


「なんて反射神経だよ。自信なくすぜ」


 苦笑しながらも後退し、再び矢をつがえる。

 そこへアインが飛び込み、剣で盾を打ち鳴らしながらオークを挑発した。


「こっちへ来いデカブツ!ビビってんのか!?」


 魔物に人間の言葉は通じない。だがニュアンスは伝わったのか、オークはアインに向かって棍棒を振り上げ向かってきた。


「よし、釣れた!」


「こんなに嬉しくない釣果は初めてだ」


 リードがダメ押しにもう一度矢を放ち、アインと共に背を向けて逃げる。

 オークが追いかけてくるのを確認し、速度を上げた。


 本部テントへと方向転換する目標地点で足を止め、再度振り返る。

 明らかに詰められている距離に、背筋が凍る思いだった。


「さぁこっからだ。覚悟はいいな、リード?」


「とっくにだ!お前こそ、目的地までに3回はあの棍棒を受けなきゃならんぜ?」


「なんとかする!腕ごと無くならない限りは咥えてでも盾を構えてやるさ!」


「その意気だ!射るぞ!」


 言うや否や、オークを足元を速射で狙うリード。

 オークは嫌がり、若干だが速度が緩む。


「一当てしてあっちだ!リードは先に行ってくれ!」


「わかった!頼むから1発目で終わるなよ!」


「なめんな!」


 言い合い、すれ違いざまに手を叩き合う二人。

 リードは本部方向へ。アインはオークへ。


 オークは、近付いてきたアインに棍棒を振り下ろす。

 素早く左へ躱し、オークの右足を斬りつけた。


「かったぁ!デブな見た目のくせに皮膚は固いのかよ!」


 オークの脛には薄く傷が付いただけであった。

 自身の右後方へ駆け抜けたアインに向かって、後ろから棍棒を振るう。


「うぉお!風圧だけでこぇえ!」


 地面へダイブし、なんとか躱すアイン。一行動ごとに騒がしい。


 アインが立ち上がる間に、オークもアインへと向き直った。


「やっべぇ、勢い余って駆け抜けたけど、誘導方向を塞がれちまった」


 アインがオークの後ろを取ったことで、オークは誘導したい方向に背を向けてしまった。

 リードに合流するためには、再びオークの横を抜けなければならない。


「どうするか…。もう一度同じ手、通用するかな…?」


 考えるより行動だとばかりに、オークに向かって駆け出すアイン。

 先程と同様、棍棒の振り下ろしで迎撃するオーク。


(いけるっ!)


 同じ反応を示したオークに作戦の成功を確信し、左へ跳んで躱そうとする。


「アイン!右だっ!」


 リードの声に反応し、咄嗟に右へ跳ぶ。

 オークの棍棒は、半身分左へ叩きつけられた。

 あのまま左へ跳んでいれば直撃していただろう。


「あぶねぇ!コイツ読んでやがったのか!」


「思ったより知能が高い!人間だと思って相手しろ!」


「こんなデカい人間が居てたまるかよ…っ」


 毒づきながらも、渾身の狙いが外れて若干硬直しているオークの股下に滑り込み、そのまま後ろへ駆け抜けた。


「へっ!お前のへっぽこな棍棒なんざ当たるかよバーカ!」


 誘導のための挑発も忘れない。


 すぐさま振り向いたオークは、猛りながらアインを追いかけてきた。

 その足元へ、再度矢が突き立つ。

 たまらずたたらを踏むオーク。


「こっちだへっぽこー!」


「地団太踏んでどうした?欲しいおもちゃでも買ってもらえなかったのか?」


 二人して煽り、背を向けて走り出した。

 怒りを増幅させたオークが後を追う。



 本部テントまでの道程は、あと半分。

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