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 冒険者と領主軍の混成集団は、朝の騒動以降は何事も無く、夕暮れ前には西方山脈の麓に辿り着いた。

 騒動の後のサガと軍の副隊長の話し合いにより、これ以上のトラブルを防ぐため、軍と冒険者それぞれに別れて野営の準備を始めていた。


「俺たち冒険者は、軍の山側で野営を張る!当然、見張りも山側だけだ。メシは依頼主から提供されることになってるが、トラブル回避のために材料だけもらってきてある!各パーティから料理のできる奴を出し合って調理するから、そいつらはこっちへ集まってくれ!残りのメンバーで設営を頼む!」


 サガがそう叫ぶと、設営組は三々五々散っていき、料理担当が集まってきた。


「じゃあ適当に担当を振り分けるぞー。メニューは干し肉と野菜のスープだ。そっちは野菜を切っていってくれ。お前らは火を起こして煮炊きの準備な」


 テキパキと指示を出し、それに従って調理を進める調理担当たち。

 サガはそれを眺めながら、明日以降のことを考えていた。


(明日は山道を登って古戦場入り。入り口付近に拠点を作って、周辺の探索か。今のところは平穏を保っているが、さて…)


 このまま何事も無く、魔物と盗賊の相手だけで済めばいいが、と軍の方を見遣る。


(道中が平穏すぎて忘れそうになってたが、これはあくまで緊急依頼だ。それなりの事態を想定しているからこそ、領主直々に依頼してきたんだろう。虎の子の軍まで動員してな)


 通常、男爵程度では軍など持たないし、国も許可していない。

 それでもアドレア領主に軍があるのは、歴史的背景と現在の経済力からだ。

 何度も北方からの襲来を跳ね返していた時代は、アドレアこそが辺境伯領の中心として、城塞都市としての側面が強かった。

 国境を山の北側へと押し込んだ現在では、山の向こうが辺境伯領となり、アドレアは男爵領として、辺境伯領と国内を結ぶ交易都市として栄えるようになった。

 辺境伯領に何かあった際の備えとして軍事力は残しておきたいが、国軍を派遣するには諸々の事情で勿体ない。

 そこで国は、一定の負担を負うことを条件に、アドレア領主に軍を持つことを許可した。

 実態としては、軍を置きたい国が無理矢理アドレアに金を出させているというものではあったが。

 兎も角、こうしてアドレア領主は一定の軍事費を国から受け取りつつ、独自の軍を持っているのである。


 そうした背景から、アドレア軍を動かすには他領に比べて面倒な手続きが多くなる。一部とはいえ、国費が入っているからだ。

 もちろん緊急事態であれば事後承諾で動かせるが、後になって出した報告の内容に不備があれば、容赦なく叩かれる。具体的には、金を取られる。

 軍を動かすための実費を負担した上で、国にも同等の額を納めねばならなくなるのだ。

 軍を動かした理由に正当性が認められれば、取り決めた割合で国費が支給されはするのだが。


 交易都市として成長著しいアドレアといえども、そう易々と軍を動かせるほどの余裕は無い。

 そんな中、今回の依頼で領主が軍を動かしたからには、ある程度確度の高い情報を得ているはずだとサガは考えていた。


(とにかく何かあるのは間違いねぇ。最悪、ドラゴンが山を下りて来てるくらいのことは覚悟しとかねぇとな)


 かつて一度だけ遭遇したことがあるドラゴン。

 人が楯突いていい生き物ではないと絶望し、冒険者の道を諦めかけた。


(プリンちゃんが居なかったら、今頃俺は何してたかねぇ)


 ドラゴンに遭遇して逃げ帰り、依頼失敗の報告をした時、これが最後だと告げようとしたサガを、一所懸命慰めてくれた受付嬢のプリン。

 彼女は単純に初めて依頼を失敗したサガを励まそうとしていただけだろうが、それまでの人生で女子供には怯えられることしか無かったサガには、後光が差して見えた。

 以降、サガはそんな受付嬢の笑顔を守るために生きている。

 プリンちゃん親衛隊は、事の大小はあれど皆そうやってプリンに救われた者たちだ。


 顔は怖いが気のいい仲間たちのことを思い出し、サガは笑みを浮かべた。


(隊長殿の言ってたことも、あながち的外れってワケでもねぇわな)


 早くに両親を亡くし、故郷の村に居場所の無くなった自分には何もない。冒険者を辞めたとして、うまいこと雇ってもらえる場所が無ければ、今朝トラブルを起こした隊長の言う通り、山賊に落ちていたかもしれない。


(だが、現実としてそうはなってねぇし、若ぇモンにもそうはさせねぇ)


 そんなことになれば、プリンちゃんが悲しむ。

 ブレない自身の想いを胸に、サガは覚悟を決めた。


(これからって奴らを死なせるわけにはいかねぇ)


 もし本当にドラゴンが出たなら、自身が殿を務めてでも若い冒険者から逃がそう、と。


(俺だって死ぬ気は無ぇがな。せいぜい軍人様方に頑張ってもらうさ)


 悔しいが、大規模な戦いとなれば冒険者よりも軍の方が強いだろう。

 1対1ならば負ける気は無いが、そう言えるのはBランクでも上の方だけだ。

 今回のレイドはBランク3人、Cランク22人、Dランク25人の50人だ。半数が駆け出しのヒヨッコども。

 そこらの盗賊程度には負けないだろうが、イレギュラーな魔物でも出れば危うい。

 同行している軍は、3個小隊と男爵家所属の騎士合わせて百人。中隊規模だ。

 大型の魔物でも現れれば、対処は軍に任せてしまった方が確実だ。


 軍も斥候は出すだろうが、あくまで本命は戦闘。森や山に慣れた冒険者に探索を任せ、イレギュラーが現れた場合に軍が討伐する手筈になっている。

 イレギュラーが何なのかについては知らされていない。軍は把握しているのかもしれないが、打ち合わせの場では何も言われなかった。

 軍の人数からして、大規模な盗賊団か、オーク以上の魔物の集落か、…ドラゴンか。


「ま、なるようになるか。まずはメシだな!…おう!出来たか!」


 思考が堂々巡りになっているのを感じ、切り上げた。

 いずれにせよ、出会ってみなければ分からないのだ。

 分からないことを考えて悲壮感に浸るよりも、今は仲間たちと語らって食事をする方がいい。


「メシの後は見張りの割り振りだ!量はあるからしっかり食って、へばらないように頼むぜ!」


 テントの設営を終えた冒険者たちに声をかけていく。

 顔に似合わず面倒見のいい彼は、アドレアの冒険者皆が認めるリーダーであった。

怖い顔のおっさんの考え事で終了…。


今週中には進展あると思います。

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