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第8話のヨシュアと領主の会話にて、領主が辺境伯領について言及していなかったのを修正しました。

話の流れには変更ありませんので、読まなくても問題ありません。

 時は少し遡る。


 アドレア北の森を発ったヨシュアは、竜剣山脈と西方山脈それぞれの麓に挟まれた古戦場跡を訪れていた。


「これは…!」


 アドレア領主オルグから古戦場跡の様子を聞いていたヨシュアは、事前情報と明らかに異なるその様相を前にして戦慄していた。


 そこかしこにクレーターが穿たれ、竜剣山脈北の辺境伯領とアドレアを繋いでいるはずの街道は見る影も無い。


(大規模な戦闘の跡だ…。商隊どころか魔物の気配も無いとは、よほど派手にやったと見える。これではアドレアまで情報が回っていないのも頷ける。それに…)


 人里離れた街道。周囲には古い城塞の跡がある。大規模な破壊の余波で、数えるほどしか残っていないが。

 盗賊が襲撃するには、ここほど整った場所も無いだろう。


(実際、この辺りを根城にしている盗賊団がいくつかあるって話だったしな)


 オルグ男爵の話を思い出し、残っている遺跡の方へと歩み寄る。


(何度も待ち伏せに使った痕跡はある。とするとアジトになりそうなのは…)


 周囲を見渡し、いくつか目星をつけて山へと入ることにした。

 こんなに分かりやすく盗賊が好みそうな場所だ。何度も領主が討伐に乗り出しているに違いない。

 それでも生き残ってきた盗賊団であるということから、山中に何か所も拠点があり、それらを転々としながら隠れ潜んできたはず。

 そして、拠点とするなら少しでも領主軍が入ってこないほう。


(つまり、竜が棲むという竜剣山脈側にアジトが点在しているはず)


 この破壊について、この辺りを根城にしている盗賊なら何か知っているはず。

 手がかりを求めて、竜剣山脈を探索することに決めたのだった。




 時は現在に戻り、アドレアの街。

 ララ達は、あれからそこそこの量の薬草を採取し、ギルドへと報告に来ていた。


「ゴブリン討伐依頼2回分と、薬草採取をこなしてきたぜ!査定を頼む!」


「かしこまりました。それでは討伐証明部位となる右耳と、採取した薬草をお出しください」


 査定窓口にて、パーティリーダーであるアインが代表してやり取りを行っている。

 ほかのメンバーはそれを後ろで眺めながら、次の依頼について話し合っていた。


「とりあえず明日は休みだな。アインのケガも直さなきゃならねぇし、そのために魔術を使うリーンも休ませなきゃならねぇ」


 そうリードが切り出すと、リーンも頷いて同意する。


「私はまだ未熟だから、今夜と明日の朝アインに治癒魔術を使ったら日中はもう魔術がほとんど使えない。だから明日は日中も休んで、夜にまたアインのケガを治す。多分それで完治するだろうから、明後日にはまた戦える」


「ってなわけだ。すまんな、ララ」


 リーンの説明に一言添えて、ララに視線を向けるリード。


「ううん、あたしも1日くらい大丈夫!それより骨にひびが入るようなケガが丸一日で治せるなんて、すごいねリーン!」


 全く問題ないとばかりに首を振り、キラキラとした目でリーンに笑いかけるララ。

 リーンは俯きがちに首を振り、


「私なんてまだまだ。村で私に治癒魔術を教えてくれたシスターなら、骨のヒビくらい1度の魔術で治せるし、それくらいでマナ切れも起こさない」


「そーなんだ!?シスターさんはもっとすごいんだねぇ。でもリーンもすごいよ!あたしには魔術なんてできないもん!」


「まぁ、うちの村のシスターは特殊らしいけどな。なんでも元はもっと大きな街の教会にいて、教会付属の治癒院で働いてたって話だ。シスター本人は昔のこと話したがらないけど、リーンに才能があるって分かってから村長がこっそり教えてくれたんだ」


「そう。シスターはすごい人。私の目標」


 ふんすと拳を握り、表情の乏しい顔を少しばかりキリッとさせながら顔を上げるリーン。

 リードはそんな妹をニコニコと撫でている。すぐに叩き落されていたが。


「目標かぁ。リーンは立派な治癒士になって、パーティを支えていきたいんだね」


「うん。ちなみに兄さんの夢はドラゴンを射落とすこと。アインは世界一の剣士」


「ちょ、よくそんなこと覚えてんな!それ言ってたの子供の頃だろ!」


 いきなり自分の子供染みた夢を暴露され、狼狽えるリード。


「ちがうの?」


「い、いや、違わないけどさ…」


 妹の純粋な瞳に、明後日の方向を向きながらも否定できない兄。


「でも、恥ずかしいから軽々しくララに言うなよ!俺のクールなキャラがブレるだろ!」


「兄さんは街に来てからクールぶってるけど、中身はアインと同じ。無理してもすぐにバレるんだから、早いか遅いかの違い」


「うぐっ」


 痛いところを突かれ、言葉に詰まるリード。そこへアインが査定を終えて帰ってきた。


「待たせたな!査定票もらったから依頼受付へ行こうぜ!…リードはどうしたんだ?」


「なんでもない。若気の至りを指摘されて悶えてるだけ」


「?まぁいいけど。とにかくさっさと並ぼうぜ!世界一の剣士も金が無くちゃ目指せねぇからな!」


 顔を覆って俯いているリードが気になったアインだが、リーンの曖昧な答えにとりあえず納得し、大きな夢に対して身も蓋も無いことを楽し気に語るのだった。


「これと同じかなぁ、俺」


 しょんぼりと呟きながら付いていくリードに、黙って歩き出すリーン。いつもの光景なのであろうそれを、また眩しいものを見るような目で眺めながら、ララもアインを追いかけた。



 ララ達4人が依頼達成の手続きを終え、備え付けのテーブルを囲んで報酬を分け終えた頃。ギルド内が俄かに騒がしくなった。

 騒ぎの方へ目をやると、どうやら街の兵士が周囲に向けて何事か話しているようだ。


「領主であるオルグ・アドレア様より依頼だ!辺境伯領へ続く街道及びその周辺の調査依頼となる!街道周辺の魔物と盗賊の討伐も兼ねる故、Dランク以上を条件とする大規模レイドパーティを組んでもらう!出発は明後日早朝1の鐘!詳細は受付で聞いておくように。是非とも参加してくれ!」


 領主による北への誘いであった。

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