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第8話 環の真骨頂、それは天然


 環は少しの間、頭を抱えて考えていた。少なくとも、カイにはそう見えた。

 環は一瞬狼狽したが、圭はアメーバもどきだと言われても、会った時の様子を思い出すと信じられなかった。

 彼そのもの。声も背寸も、はっきり言って彼の体臭だって感じられ、アメーバもどきとは思えなかった。 顔を上げると、

「彼は圭です。そう言う情報、信じられませんね」

 環の驚きの反応で、カイ叔父さんは、

「それじゃあ、彼と一緒の船で移住適正一番の惑星に探索に行くか」

 と、聞いてみた。

 元よりそのつもりの環である。

「行きますよ。彼はどう見ても中務圭です」

「じゃあ、そう手配しておくよ」

 カイは、環のファイルに《反応パターン想定外》と記録した。


「天然だな。崋山も言っていたけど。まあ良いかな、きっと極秘事項は漏れないだろう」

 と、呟いた。


 環は次の日から惑星探索出発日までの間、圭と過ごす日々だった。圭から聞いた悲惨な闘病の日々の後、父崋山の病院に行ってからの治療の様子を聞き、意外と淡白な父親の治療態度に少し違和感を覚えた。だが一瞬の事で、おそらく環が家を出る原因になった彼だから、そういう感じになるかもしれないと解釈した。天然とはそういうものである。

 環は機嫌良く圭と共に、第3銀河人移住計画第一候補の惑星へと出航した。

 船長は出世した崋山の元部下、カール・リーだった。環は彼を見て、何だか見覚えがある気がした。だが咄嗟には思い出さず、年上の同僚ズーイ副船長に、

「見違えたねえ、メグ。あ、環と言うべきだな。第2の地球でちょっとばかり遊んでやっていた、俺の事覚えていないみたいだね。まあ良いけど」

 と話しかけられ、思い出した。

「あ、あのズーイさんでしたか」

「そうそう、あのズーイさん。崋山司令官が鬱々としていて、君を構ってくれない時、変な生き物を見つけて一緒に遊んだね」

「そうでした。すっかり忘れていてごめんなさい。ズーイさんが他所へ配属されてからも、私はあの生物をネズと名付けて、構っていたらすっかり懐いて、ネズの家族とかを紹介されたりして、楽しかったです。学校では友達とかいなかったですが、あいつは学校までやって来て、ズーイさんが居なくなっても、なんとか過ごせていました。心配そうにされて別れましたが、どうにかこんな感じで、また再会できて光栄です。あの時はお世話のなりました」

「いやいや、お礼を言われるような事じゃないでしょ、一緒に遊んでいただけだから」

「リー船長と御一緒なんですね」

「あは、覚えているのか、俺の愚痴を。あいつとは腐れ縁で、いつも一緒の任務になるんだよな。ひょっとしたらあいつ、俺を指名しているのかなと最近思いついたんだ、どう思う」

「さあ、直接聞いてみれば」

「いやいや、無理」

 そう言ってロッカールームで笑い合っていると、圭が来て、

「環、勤務時間終わったんだろ、飯食いに行こう」

 と誘いに来た。

「うん、行こ行こ。じゃあズーイさん後はお願いします」

 と、食堂に急いだ。気のせいか、圭は機嫌が悪い気がした。

「圭、何かあったの」

「え、何でもないよ」

 しれっと、答えるがきっと何かあったのだろうと思えた。だが、彼は理由を言う気はないようなので、環はそれ以上追及せず、話題を変えた。

 今回の探索惑星は、かなり遠方なので、ワープは数回に分けて行っている。そのワープポイントについて話す事にした。

 第18銀河と、第20銀河の間にある一つの恒星に属するその目的の惑星は、今まで両方の銀河人から見向きもされていない星だった。もしかしたら、環の任務だった前回と同じように危険な生物が居るのかもしれないと、最近は再考案件にしていた連合軍である。

 しかし、味方である第20銀河人に聞いてみると、敵方に近すぎて、お互い敬遠していただけだと言う事だった。彼等から第3銀河の地球環境に似ているから検討してみてはと言われている。

 そう言う訳で数回ワープして行く事になったが、そのワープポイントが、意見が分かれて、船長は少し検討してみようと言っている。予定のポイントは決まっていたのだが、近場迄ワープしてみると、次のポイントは、近くに新星が現れそうで適していないと言うデータをコンピューターが出していた。

「どう思う。新星の出現とか、コンピューターに良くもデータが蓄積されているもんだよね。船長が不思議がっている。どうやって新星の出現が予知できてデータが収集されのかな。予知能力のある銀河があったのかな以前は。この辺に現れるとか分かっていなけりゃ、データをどうやって取れると思う?はっきり言って不可能な事じゃないかな。確率的に言って。だからフェイクデータじゃないかって意見が出ているんだ。不味いポイントに誘導されるんじゃないかとかね」

 圭はむっつりと、

「新星が出現しそうなデータなんて、きっとフェイクだと思うな」

「ふうん、圭もそう考えるんだね。そして、次の適したポイントが本当は不味いとこだったりするとか」

「次が何処だか知らないけど、その可能性は捨てきれないね」

「つぎの候補ポイントは、少し遠くなるけど、第19銀河の近くだ。そしてワープはそれでやめにして、目標の惑星迄普通に航行する事になるよ」

「多分それが目的じゃないかな。近くの第19銀河は生物の生存に適していないことになって居るけど、敵だった奴らの現在の技術では、不可能な事は無いんじゃないかな。そこに残党が居るんじゃないか」

「だよね」

 二人はそう言う結論に達し、食事を終えた。


 翌日のミーティング室では、船長と、副船長のズーイさんと環が向かい合っていた。

「さて、どうするかな。お前ら順に意見を言え」

 ズーイさんに目くばせで、お前から言えといわれ、環は、

「おそらく新星の発生の可能性は、フェイクデータと考えます。次の候補ポイントは第19銀河にも近いですが、そこは生物の生育は不可能って事になっていますが、そこに敵の残党が居て、この船がワープして来るのを、網を張って待っているのではないかと考えます」

 と意見を言った。昨日の圭の意見の受け売りである。

「ほう、お前そんな遠くまで透視能力があるのか」

 リー船長が感心したように言った。感心したようにであって、全く感心はしていない事は、環にもさすがに察せられた。皮肉のリーさん炸裂である。以前ズーイさんが言っていた事のある状態だ。

「意見を聞かれて、言ってみたまでです」

 環は言い返した。

「つまり確固たる根拠は無いわけだな」

「そう言う事です。想像とも言えます」

「会議ではな、空想話はするな」

「じゃあ、意見は無しって事です」

「俺は意見を言えと言ったのだぞ。無しでは意見を言っていないと言う事だな。命令通り意見を言え」

「では言い方を変えます。新星の出現の可能性とかデータにある筈は無いです。新星の出現場所を予め予測する事は、今までの技術では不可能です。フェイクデータを仕込まれていると言う事です」

「だれが仕込むんだ。そんなホラ」

「それは分かりません」

 ズーイは、

「この船のコンピューターをいじくった奴が居るって事ですよ。船長。アメーバもどきが入っているかもしれませんね」

 環はそこでギョッとしたが、しかしこの意見は圭から聞いたのであって、圭がどうこうしたはずはない。

 リー船長は環の様子を見逃さず、

「どうした環。なんだかギョッとしていなかったか」

 と、睨んだ。環はカイ叔父さんの言っていた事を思い出した。もし、圭が本当にアメーバもどきだったら、もしズーイがアメーバもどき退治に乗り出し、皆をバスタブに放り込みだしたら、圭が死んでしまうのでは。

「言っておきますけど、この意見は中務圭の意見の受け売りで、彼は味方ですから。爺さんのお墨付き出すから」

 ズーイが呆れて、

「お前何を言っているんだ」

 と言い出し、環は言葉に詰まった。あれは極秘って言っていたっけ。

 しかし、リーは知っていたようで、

「中務圭は、俺らに味方するアメーバもどきだと報告があった。環のお友達だそうだよ。龍昂さんがそう言ったので、殺すんじゃあないぞ。ズーイ」

「何だと、奴らが味方な者か。擬態した奴そのものになるんだからな。そしてここぞと言う時にスイッチが入って敵になるんだぞ。スイッチが入る前は、馬鹿は馬鹿、良い子は良い子のままの人間だ。騙されるんじゃない環。龍昂爺さんはモウロクしたのと違うか」

 ズーイは立ち上がって叫んだ。

 リーは頭を抱えた。

 環はぞっとした。ズーイさんは折り紙付きのアメーバもどきキラーだったのだ。

 リー船長はズーイさんに、

「あのな、ズーイ。今は昔とは違うんだ。状況が変わってな。アメーバもどきは味方になったんだ。仲間と思っていた銀河の奴に、今まで騙されていたそうだ。第3銀河に自分たちは滅ぼされたと知らされていたが、地球に行ったら、そんな能力は無いと分かった。そう言う訳だから現在は味方。普通の奴らはな。奴らにも頭の固い奴が居る。何処にでも居がちだな。今回はその頭の固い奴らの仕業かもしれない。犯人捜しは前より困難だな。取り敢えず、環のお友達は殺すんじゃあないぞ」

 ズーイは少し目を瞬かせ考え中になった。

「ズーイさん。圭は殺さないでね」

 環は必死で訴えた。

「分かった、バスタブに放り込む前に、尋問してみよう。やった仲間を知っているんじゃあないか」

「知っていたとしても、仲間を売るような事をするかなあ」

 リー船長は懸念を呟いた。

「環と、方針に従わない仲間のどっちを取るかだな」

 ズーイは言った。そして、

「環、中務圭を連れて来い。お前が連れてきた方が、穏便に事が進みそうだ」

 船長も、

「おそらく環には危害を加えることは無いだろう。何せお友達だから」

 と言うので、環一人で彼を連れて来ることになった。

 とぼとぼミーティング室を出ようとしていると、環の耳に、船長達の話が聞こえた。

「連合軍のデータによると、アメーバもどきの強者は、一人船に侵入しただけで全乗務員を殺傷する能力があるそうだ。だから圭は味方だ。他に敵方のアメーバもどきが居たとしたら、圭が居るから動けないのだろう。だから今平穏で居られると思うな」

「分かっています。穏便に話しますから。よく言うじゃないですか。友達の友達は、皆友達だってね」

 それから、ズーイさんは、

「友達の友達は、皆友達だー」

 とか言っていたらしい。


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