第7話 増えて行く友、そして圭の登場
環は気が付くと、医務室のベッドに寝かされていた。隣のベッドにはシャークが居て、まだ気を失っている。エリーが付き添っていた。
「気が付いたのね、あれは他の場所には居なかったらしいよ。シャークったら、ついていないね。彼、良く貧乏くじを引くタイプなんだ。あたしが何度ピンチを救ってやった事か。今回は船に残留する方になったから、ツキが回って来たかと思ったけれど。こんなだから、やっぱりねって感じ」
「でも結局は助かっているから、ツイていると言えるんじゃあないかな」
環は感想を言うと、
「あは、それもそうだね」
とエリーは納得したようだった。そして、
「ドクターが、急いであれを顕微鏡で見たら、透き通って見えにくいけど、小さな生物だって、もしかしたら、依然はびこっていた人工の虫ってのの、モデルじゃあないかって話になっているみたい。船長に言ったら本部にそう報告して、そいつは焼いたらどうかなって事になって、焼いたら燃えて死んだそう。それに生物だから、宇宙空間では生きられないだろうって言ってたよ。あたしもちょっと、外にほうり出した奴が、どうなったかなと思ったんだけど安心だね」
環は、エリーは話しぶりから利口だなと思えた。
「そうでしたか」
相槌を打ちながら、環は散々だったけれど、貴重な事実が分かったのだと思った。
「体調、もういいの」
と聞かれて、
「何だか息吸うのを忘れていたみたいで、失神したんです。・・・我ながら馬鹿臭くて呆れたよ。具合が悪かった訳じゃあないんだ。練習不足」
思わず本音を言って起き上がると、
「環ってわりと面白いじゃない。さっきもパニックぽかったし、もっと出来る感じなのかと思っていた。もちろん、あたしらより格段に能力あるのも分かったけど、でもちょっとかわいいとこあるね」
と言ってにっこりされた。
「あは、そうかな」
環は少し恥ずかしくなり、慌てて出て行こうとして、シーツを引きずって転びそうになった。
また笑われて、騒がしがったのか、シャークが目覚めたようだったが、環としてはそのまま出て行くことにした。きっとへまは話題になっているだろう。
その後、やはり噂は流れていて、ノックダウンの声の能力も知れ渡り、船内の環の立ち位置は、格段に上がって来た。食堂に行くと、皆から声を掛けられるようになったが、応対は少し天然っぽいらしく、何故か笑われることが多かった。
船は外壁を修復するのに数日かかったが、帰路はワープで本部迄は直ぐに戻れた。
連合軍本部に戻ると、そこには何と中務圭が居た。カイ叔父さんの総司令官室に行ってみると、丁度部屋から出て来た。
「圭、病気だったんじゃないの」
環が驚くと、
「うん、でも第二の地球に言ったら直ぐ、治っちまった。止められたけど、ぴんぴんしているから、また入隊したいと思って来たんだ。環、きっとがっかりしているだろうと思っていたから。司令官に許可を貰おうと思って来た。もう一度健康診断をして、合格範囲だったらOKだといわれたよ」
「治ったのか、良かったね。でももう無理しなくて良かったのに」
「無理じゃないって、自分の体調は分かるってば、今度は第3銀河人向きの惑星探索行だよきっと。そうじゃ無けりゃ入隊した意味がない」
「だよね、圭と一緒に行けるよね」
そう言い合って、圭とは別れ、環は司令官室に入った。
「叔父さん、中務圭は治ったってね、よかったなあ」
入って直ぐ感想を言う環だった。すっかりご機嫌だったのに、カイはそれに水を差した。
「お前に言って良いものかどうか、しかし言わない訳にはいかないだろうが、困ったな。お前の思うとおりにさせようかな」
「どうしたの、妙な言い様だけど」
「いいか、今から言う事は極秘だ。これを守る自信が無ければはっきり言えよ」
「何言い出すの。極秘だって?環が聞いていい事なのか考えてから言ってよね」
「言いたくはないが、言わない訳にはいかないんだ。崋山から連絡が来たが、あの中務圭は本物じゃあない。アメーバもどきなんだ。崋山の所に来た奴はそれだった。龍昂爺さんが、殺さなくても良いと言うので、本物と思っているふりをして、こっちに行かせたそうだ」
「ええっ、どういう事?」
「最近、アメーバもどきの態度が変わったんだ。敵方だったのは、敵に騙されていたのだそうだ。第3銀河人が彼らの故郷の海水を汚染したと言われていたので、わずかに生き残っていたアメーバもどきたちは、地球をブラックホール砲で破壊する計画に協力していたそうだ。ところが地球で暮らして、そういう技術にまで行きついてはいなかったと分かった。つまり自分たちの星に危害を加える能力も、果ては理由もない事が分かってね。どうやら今では、生き残っているアメーバもどきたちは、我らに協力する気なんだそうだ。中務圭は地球ですでに瀕死状態だったそうで、だからアメーバもどきの生き残りが、彼に変わって崋山の所へ来て、崋山に癌を治してもらっている。ご丁寧に癌の体になり切っていたそうだ。だけど実際は元気なんだから、アメーバもどきは死亡する事なくここにやって来た。環と惑星探索をする気満々なんだが、お前は一緒に行く気あるか?」
「なんだってえ。本人じゃなくて、アメーバもどきなの。そして環とお友達のつもりだって」
「そう言う事だ」
環はショックで頭を抱える事となった。
2カ月前の地球
中務圭は絶望して、海を眺めていた。癌に蝕まれた体は動く事もままならないほどの痛みがあった。膵臓から全身に転移した癌細胞は圭の筋肉に広がり出していた。若いため、第4ステージになってからは、進行は早かった。
「連合軍、入りたかったのに。お断りだってさ。畜生。行きたかったな、惑星探索。環はきっと俺が居なくてがっかりするだろうし。悪かったなあ、俺が誘ったみたいだったのに、当の本人は行けなくなっちまった」
砂浜に座り込んでいたが、圭は思い立ち、必死で起き上がった。空を見上げると、小さな月が白く浮かんでいる。
「昔はもう少し大きかったとママが言っていたな。月の模様が見えるほどには。すっかりしけちまったな。俺もだけど」
圭は痛む体を引きずり海に入った。砂に足を取られ、最初の内は行きづらかったが、沖に進み体が海水に浸かってしまうと、割合楽に進めた。
「行きたかったな、環といっしょに」
圭はふらりとよろけ、海水に頭から浸かってしまった。少し驚いて海水の中で目を開けると、何故か鏡らしいものを見ていた。自分の顔は、
「行きたいんだね、環の所へ。僕が代わりに行って来るよ」
と言っているのが分かった。
自分がしゃべってはいない事を口走るとは、少し意外だったが何だか安心出来て、そのまま圭は目を閉じた。