天国への階段
死んでしまった・・・
死因は不慮の事故だ。
そして、幽体離脱した俺はすぐに死神の引率によって雲の上まで案内され、現在天国に続くという長い階段の前にいる。
「はぁー・・・死んじまったか。」
ため息をつきながら俺は霞がかった下界を見下ろした。
「お気持ちわかりますが、仕方のない事です。」
喪服の上に黒いマントを身に着けた中年男性の死神が慰める。
確かに仕方のない事だが、とても一言で割り切れる話じゃない。
「もう一度聞きますが、戻る事は出来ませんよね?」
死神に背を向けたまま聞く。
「三回目になりますが、出来ませんね。」
「ですよね・・・。はぁ・・・」
突然の事過ぎて涙は出なかったが、代わりにため息ばかりが出る。
「皆、悲しむだろうな・・・」
そして、悲しむであろう家族や友人の事を思うと胸が詰まる。
「・・・ああ、でも俺、結構良い生命保険入ってたよな。」
その一方で、その悲しみはすぐ乗り越えるであろう事と、後に入る保険金で上手いことやっていくであろう事が頭に浮かぶ。
「・・・まあ、どうにかはなるか。」
「よろしいでしょうか?」
少しだけ安堵したタイミングで死神に声を掛けられた。
「ええ、はい。」
返事をし振り返るが、後ろ髪を引かれるのをひしひしと感じる。
「では、こちらから天国にお登りください。」
死神は手で空高く延びる雲の階段を示し、柔らかい声で事務的に言った。
「うーむ、にしても長いな・・・途中で力尽きてもう一回死ぬ事になりそう・・・」
改めて階段を見上げると、先が見えず今までに登ったこともない長さだということがよくわかる。
「・・・あ、そうだ。裁判は天国で行われるんですか?」
死後は生前の行いに応じて裁きを受けるとよく言われていた。
俺自身、特別悪い事はしていない筈だが、逆に良い事も特にしていないから裁きの行方が非常に気になるところだ。
「いえ、あなたの場合、重い罪は犯していないので裁判を受けずに天国へ行けます。」
「ああ、そういうパターンか・・・」
つまるところ閻魔様も暇ではないらしい。
「あともう一つ、これは完全に興味本位ですがこの階段、転げ落ちたり踏み外したりした場合はどうなります?」
俺は更にくだらない質問をした。
「転倒しそうになった際は係の者が補助します。踏み外しに関しては実際にやって頂いた方がよろしいかと・・・」
死神は淡々と説明する。
「係の者ね・・・」
そう呟きながら俺は踏み外しを試すため、階段の一段目に足を掛けた。そして、二歩目を階段の外に踏み出す。
「 お?」
足は地に着くことなく宙に着地している。
「これは・・・」
そして、三段四段と見えない段差を登る。
足は着いているがゲームのバグや空中浮遊を体験しているようだ。
「そういう事か。なんかバグってるみたい。」
階段は何も無い空間にも存在していた。
「・・・よし。では、俺はもう行きます。ありがとうございました。」
俺は礼を言い、階段が延びる先を見据える。
「ああ!危ないんで普通に階段を上ってください!」
「面白そうなんでこのままいかせてください。」
慌てて注意する死神の声を背に俺は見えない階段を登り始めた。・・・が、階段そのものが見えないため、俺はあっさりバランスを崩し転げ落ちてしまった。
「ほら、言わんこっちゃない。」
死神が呆れたように言う。
この時、係の者とやらの補助はなかったが、恐らくそれは段数が低かったからだろう。
そして、俺は素直に階段を登り天国へと向かった。




