ちっぽけな変化
「じゃあまた!」
スケートボードがはみ出したリュックサックを背負って原付にまたがった龍太郎は、エンジンをかけて高速道路の高架下から大雨の中へ走り去っていった。
春人と二人きりになるのはいつぶりだろうか。
「ガラガラ、ガタン」
と鳴らす二人のスケボーの音と激しい雨の音だけが響く高架のトンネル。一分が五分にも十分にも感じる。何か話すべきなのか。
「パーン!」
春人が技をしくじって転んだ。
「大丈夫?」
もしも転んだのが龍太郎なら春人と一緒に笑っているところだが、なんせ春人だ。二人きりだ。これ以外の言葉も感情も生まれなかった。
半年前、群馬の片田舎で暮らし夢もやりたいこともなかった俺。なにか人生が変わったらいな。そんなぼんやりとした理由で上京したのはいいものの、もちろんちゃんとした仕事にはつけずに今は居酒屋でアルバイトをしている。ギリギリの生活だが親からの仕送りでなんとかなっているのが正直な現状だ。
毎晩、家の近くの高架下でスケボーを滑ることだけが唯一の楽しみだった。
ある日一人でスケボーをしていると
「すいません、ぼく最近スケート始めたんですけど、よかったらお兄さん教えてもらえませんか?」
と半袖半パンのいかにもわんぱく少年のような奴から話しかけられた。これが龍太郎との出会いだ。背が小さく、声も子供っぽい甲高い声だったので年下かと思ったが、後で聞くと同い年の十九歳だった。龍太郎は調子のいいやつで、初めて会った日から俺のことを「ジュンジュン」
と呼んだ。
「今度幼馴染も連れてくるから。」
次の日の夜、龍太郎は春人を連れてきた。春人は自分から口を開かないタイプの大人しい人間だった。龍太郎を通してしか春人と俺は話すことはなかったので春人が俺に心を開くことはなかった。
ほぼ毎晩三人で高架下に集まりスケボーの腕を磨く,そんな日々が始まりそのまま半年が経った。
「大丈夫っす。」
立ち上がった春人はまた黙々とスケボーを滑りだす。
「腹減ったしコンビニでもいこうよ。」
「おっけっす。」
この空気感に耐えられず、適当にやり過ごすようなことを言ってしまった。外は大雨なのに。
「バイクっすか?」
「そりゃそうだろ」
「歩いていきましょ」
バイクなら二分くらいで着くのに歩こうとする。こいつはやっぱり変なやつだ。
「傘あるっすか?」
「ないよ」
「おれもっす」
春人の口角が少しだけ上がったような気がした。
俺の口角も少しだけ上がったような気がした。