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第101話 心の変化

ベッドシーンです

 今日はもう色々と疲れた。

 試験に馬車移動にシャワーと、大変だった。

 ……普通シャワーは疲れを取るものなのだが。

 逆に疲れてどうする。

 元エイルのお父さんの部屋に入ると、タイムは大きく(6頭身に)なった。

 徹底的に時子(ときこ)さんの前でだけ、小さく(3頭身に)なるようだ。


「マスター、アニカさんと一緒に寝ることは、100万歩譲って良くはないけど良しとしましょう」

「100万歩って……」


 タイム的には余程嫌なことのようだ。

 エイルとの時も、そうだったのかな。

 でもタイムはそのことについて文句を言ったりしたことはなかった。

 もしかしたら、今までは我慢して言わなかっただけかも知れない。


「でも一緒に寝るだけだからねっ。マスターの腕の中は、タイム専用だからねっ。間違ってもアニカさんを抱き締めて寝たりしたら、タイムはなにをするか分からないからねっ」

「はい、覚えておきます」

「ええっ、ボクのことは抱き締めてくれないのかい?」

「締めません!」

「そうなのかい、モナカくん?」

「……締めないな」

「それは寂しいよ。でも床で寝るとか、もう言わないでよね」


 アニカがベッドに潜り込んだので、俺も潜り……と思ったら、タイムが先に潜り込んだ。

 どうやら隣もダメらしい。

 ベッドに潜り込み、タイムを抱き締める。

 いつものことではあるが、エイルではなくアニカという違いは大きい。

 タイムとエイルの匂いではなく、タイムとアニカの匂いだ。

 すぐに慣れるだろうが、最初はちょっと寝づらいかも。


「! アニカ?」

「しーっ」

「ん、マスター?」

「あ、いや。なんでもないよ」


 俺とアニカの間には、タイムが寝ている。

 そしてそのタイムは俺が抱き締めている。

 当然腕を回しているから、手はアニカの方にあるわけで……

 その手を、アニカが握りしめてきたのだ。


「このくらい、いいだろ」

「なあ、アニカ」

「なんだい、モナカくん?」

「その……俺を慕ってくれるのは嬉しいのだけれど、俺はアニカになにかしたか?」

「どういう意味だい?」

「俺はそこまで慕われるようなことをした覚えがない。むしろいつも邪険に扱っていると思うのだが」

「あははっ。そう思うなら、もう少し優しくしておくれよ」

「なんていうか、最初男と思ってただろ。それが抜けないのかな。女物の服も最初だけだったし」

「最初はトレイシーさんが用意してくれたのを着てたけど、兄さんが出したボクの養育費で好きな服を買ったんだ。だからだよ。トレイシーさんは残念がってたけど、ボクは女装癖なんてないんだよ」

「女装癖ねえ。確かに違和感しか感じなかったからな。ああいうことにでもならない限り、アニカが女の子だって忘れちまう」

「そういうところだよ」

「何処だ?」

「分かってくれる人は少ないと思うよ。でも、ボクにはそれが重要なんだ。だから、恋愛感情とは違うよ。だってボクはホモじゃない。ノーマルなんだよ」

「そうなのか」


 でもね、モナカくん。

 最近、変なんだ。

 心が身体に引っ張られてるみたいなんだ。

 身体は完全に女の子だからね。

 それは否定できない。

 だからなのか、モナカくんにならって気持ちがなくもないんだよ。


「ん、どうした?」

「ふふ、モナカくんはシャワー室で凄く意識してたのになって」

「それは、その。男なら仕方ないだろ。可愛い女の子が裸でいたら……その」

「ボクって、可愛いのかい?」

「可愛くないっていう奴の方が少ないんじゃないかな」

「もう。世界中の人がボクを不細工だって言ったとしても、モナカくんが可愛いって言ってくれれば、それでいいんだよ」


 あれ。

 いつもなら女の子扱いすると、すぐ〝ボクは男です〟とか言うのに。

 可愛いはアリなのか?


「そういうものか?」

「そういうものなんだよ。ね、タイムさん」

「あ……うん。そうだね」

「タイム?」


 おかしいな。

 いつもなら〝アニカさん!〟とか言いながら、プンスカすると思ったのだけど。

 なんか大人しいな。


「大丈夫だよ。タイムさんもちゃんと可愛いから、モナカくんもドキドキしてたと思うよ」

「でもタイムはあんまりスタイルよくないし」

「ん? タイムはスタイルいいと思うぞ」

「はへ? うゆ……でも、タイムは満足してないもんっ」

「ほんと、モナカくんはタイムさんが好きだよね」

「まあ、否定はしない」

「タ、タイムだってマスターが大好きですっ」

「はは、ありがと。もう遅いし、寝ようか」

「そうだね。おやすみ、モナカくん、タイムさん」

「ああ、おやすみ」

「おやすみー」


 激動の一日は、こうして過ぎてゆくのであった。


『……ねぇマスター』

『ん?』


 目を(つぶ)っているのに、何故かタイムのアイコンがひょっこり現れた。

 AR(拡張現実)だから直接脳で見ているということだろうか。


『どうしてタイムは参加賞なの?』

『そうでありんす。何故参加賞なのでありんすか?』

『え、それ今聞く? 寝る流れだっただろ』

『はっきりさせにゃいと、寝られにゃいにゃ!』

『そうだわん! 寝られないわん』

『寝られぬぞ』

『zzz』


 次々に現れるタイム六道衆(りくどうしゅう)のアイコン。

 あ、最弱(タイム)だけは寝ているのか。

 ……本当にタイムって寝る必要あるのか?

 分からん。

 でもちょくちょく寝ているんだよな。

 それは置いといて、理由か……


『それはだな』

『『『ゴクリ……』』』


 なんでわざわざ口で言うんだ?

 ま、今に始まったことじゃないか。


『タイム、俺が言ったこと覚えているか?』

『え?』

『試験のときに言ったことだよ』

『えっと、〝ゴーレムを無力化した順にご褒美をあげちゃおうかなー〟かな』


 なるほど。

 片方しか覚えていなかったということか。

 サポートしてくれ、は完全に抜けているようだな。


『で、タイムはどうした?』

『ちゃんとゴーレムを無力化したよ』

『そうでありんす。完璧に無力化したでありんす』


 確かに()()()()()()していたな。

 俺が手を下すまでもないほどに。


『……誰が〝倒してくれ〟って言った?』

『倒せば無力化するわん』


 あー、いい方に捉えたってことかな。

 確かにそれは否定できない。

 だがしかし。


『あくまで俺の実力を見る試験だぞ。タイムが片付けたら、俺の実力を見せられないでしょ』

『タイムの力はマスターの実力の内だよ』

『俺自身が〝自分がどれだけ通用するか〟を知りたかったんだよっ。遠距離は任せたけど、近接戦闘までタイムが片付けたら分からないでしょ』

『だからそれは――』

『言い訳はいいのっ。最弱(タイム)はちゃんと倒さずにサポートしてくれていたでしょ』

『それは倒すにゃけの実力がにゃかっただけにゃ!』

『本当にそうか? 同じ四天王なのに? いや、同じ〝タイム〟なのに?』

『所詮タイムはA.I.だから同じだって言いたいの?!』

『そうじゃない。タイムたち(みんな)に個性があるのは分かっている。だからこそ、タイムたち(みんな)が1等を取ることに目が眩んで、本来の目的を忘れたのに、最弱(タイム)だけはちゃんと理解して、サポートに徹してくれたんだ』

『それは結果論でありんす。倒せなかったからそうなっただけでありんす』

『そうにゃそうにゃ!』

『タイムが自分で言ってたよな。〝マスターとの約束を守れないのは、悪いことなんです〟って。約束、守れてなかったよな』

『それ言ったの最弱――』

『最弱はタイムではないとでも?』

『……』


 タイムたち(みんな)には個性があるから同じではない。

 でもタイムたち(みんな)がタイムであることに変わりはない。

 ならば全員が1等でいいのではないのか、というのは野暮である。


『さ、もう遅い。寝るぞ』


 今度こそ、長い長い一日が終わりを迎えた。

 色々と疲れていたので、今回は羊を数える必要も無く、眠りにつくことができた。

1等については、少々強引か?

ま、それを決めるのはモナカだからね

次回はモナカと時子が少しだけ踏み込んだ話をします

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