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第98話 素数を数えて落ち着くんだ

完全にブーメラン台詞です

 エイルと時子(ときこ)さんが部屋に戻ってきた。


「モナカとアニカのよ、さっさと入ってくるのよ」

「う……、なあエイル」

「嫌なのよ」

「まだなにも言ってないだろ」

「いいからさっさと済ませるのよ。男同士なのよ、遠慮は要らないのよ」

「この場合重要なのは外見(そとみ)だろ」

「まだ言うのよ? うちも外見(そとみ)は女なのよ」

「え?! まさか……エイルも?」

「バカ言わないのよ。うちは中身も女なのよ」

「ほら、モナカくん! 早く入ろうよ」


 気が乗らない俺とは対照的に、ノリノリなアニカ。

 男なら男同士で入るより、女の子と入ることを喜ぶべきだろうに。

 なにがそんなに嬉しいんだか……


「分かったよ。別にアニカと入るのが嫌なわけじゃないからな。ちょっと恥ずかしいだけだ」

「確かのよ、まだ恥ずかしいのよ」

「エイルさん?! 何処を見て言っているのですかっ!」

「……言っていいのよ?」

「ごめんなさい。言わなくていいです」


 年貢の納め時である。

 諦めてアニカとシャワーを浴びに向かう。

 せっかくエイルとの生活も慣れたというのに、ここに来てアニカと交代になるとか。

 幸いなことに、時子さんと入ることになる未来はなさそうだ。

 ちょっと残念。

 ……ん?

 なにが残念なんだ?

 などと下らないことを考えながら、服を脱ぎ始める。

 アニカは待ちきれなかったのか、既に全裸で待機していた。


「……なあアニカ」

「なんだい、モナカくん」

「その……見つめられていると脱ぎにくいんだけど」


 アニカはしゃがみ込んで俺が服を脱ぐのをじっと見つめている。


「ああ、そうだね。じゃあボクのことも見ていいよ」


 そう言って立ち上がると、両手両足を広げてどうぞ見てくださいと言わんばかりにしてくる。

 いや、見られるかっ!


「そういう話をしているのではない!」

「いいじゃないか。ボクは男の人の身体を見れる。モナカくんも女の人の身体を見れる。良いこと尽くめじゃないか」

「くっ、アニカはそんなに男の裸が見たいのか?」

「当たり前だよっ! 何年振りだと思ってるんだい!」

「何年って……お父さんとかフレッドの裸を見ただろうに」

「見たことなんてないよ。赤ちゃんの頃は乳母が入れてくれてたし。子供の頃はメイドさんが入れてくれてたし。だからそんな機会なんて無かったんだよ。そもそも、兄さんとなんて、死んでも嫌だね」

「そ、そこまでなのか」

「そこまでだよ。さ、そんなことは良いから、早く入ろうよ!」

「あ、ああ……」


 アニカに急かされるように全裸になると、シャワー室へと押し込まれる。


「ふふ、やっと二人っきりだね」


 そう言いながら、俺の背中にもたれ掛かってくる。


「アニカさん! タイムのことを忘れてもらっちゃ困ります!」

「タイム?! なんでお前がここに……じゃなくて、なんでお前まで裸になる必要があるんだよっ!」

「当たり前じゃないですかっ! シャワーを浴びるのに、服を着たまま浴びるバカは居ませんっ」

「それは……そうだけど」


 いや。丸め込まれるな、俺!


「じゃなくて、なんでタイムがシャワーを浴びるんだよって話」

「タイムだって女の子なんです。身体を綺麗にしたいのは同じですよ」

「それは……そうだけど」


 いやいや、丸め込まれるな、俺!


「じゃなくて、なんで急にシャワーを浴びることにしたんだよ。今まで一度も浴びたことなかっただろ」

「だから1年分の汚れが……ってなに言わせるんですかっ! マスターのバカっ!」

「あ……そっか。ごめん」


 確かに1年もシャワーを浴びていなければ……

 いやいやいや、丸め込まれるな、俺!


「なに言ってるんだよ。タイムは汚れてなんか居ないぞ。凄く綺麗だ」

「えっ。タ、タイム、綺麗かな。えへへ」

「ああ、凄く綺麗だ」

「時子より綺麗?」

「へ? そんなの当たり前だろ」


 時子さんが1年間シャワーを浴びなければ、どうなるかなんて考えなくても分かる。

 でもタイムはいつも綺麗だし、良い匂いがする。

 汚れてみえても、全部見た目だけの演出だ。指で剥がせる。

 比べるまでもない。


「え、えへへ。そっか、タイムの方が綺麗なんだ。でへへへ」

「? タイム? 大丈夫か?」

「うへへへ。って、アニカさん、マスターの身体にベタベタ触らないでください! これはタイムのですっ」

「いいじゃないか。減るもんじゃないんだから」

「減るんですぅーマスターもデレデレしない!」

「いや、してねーから。いいからさっさと身体洗って出ようぜ」

「初めてなんだから、ゆっくり堪能してもいいだろ」

「堪能って、なんだよ」

「男の人の、か・ら・だ……」


 アニカは俺の背中を人差し指でつつっと撫でる。


「ひっ! お前、それ絶対他で言うなよっ。絶対誤解されるからなっ」

「アニカさんっ、マスターはタイムのものですっ。あげませんからねっ!」

「お前もひっつくなっー! いいからさっさと洗ってくれっー!」

「もう、せっかちだなぁ。じゃあ、ボクがモナカくんを洗ってあげるから、モナカくんはボクを洗っておくれよ」

「……なに言ってるの?」

「……なに言ってるんですか!」

「そうしないと、不公平だろ」

「不公平もなにも、俺にできるわけないだろっ」


 俺ではタオルを泡立てることはできない。

 どう足掻(あが)いても垢擦りにしかならないのは、エイルのときに散々試した。


「大丈夫だよ。モナカくんは自分を洗えなくても、ボクなら洗えるから」

「はあ?」

「ほら、試してごらん」


 そう言うと、アニカは腕を差し出してきた。

 半信半疑でまずはタオルを泡立た……ないな。


「やっぱり無理だよ」

「泡立てなくていいから、洗ってみてよ」


 差し出した腕を引っ込めようとしないので、言われるままに泡立っていないタオルで洗い始める。

 すると、なんということでしょう。

 今までなにをしても泡立たなかったタオルが、見事に泡立ったのです。


「どういうことだ?」

「当たり前だよ。だってボクが魔力を供給してるんだもの」

「……あ、そうか」


 確かに俺では泡立てることはできない。

 それは単に魔力がないからだ。

 ならば、魔力を供給してくれる人が居ればいい。

 アニカの身体からタオルへ魔力を供給すれば、俺でも泡立てることができる。

 はは、なんか面白くなってきた。


「……どういうこと?」


 そしてタイムはそれが理解できていない、と。

 相変わらずだ。

 というか、アニカがよくそんなことを思いついたものだ。

 感心するよ。


「エイルさん、ありがとうございます」

「……ん? エイル?」

「いえ、なんでもありません。あははあん、ちょっと痛いよ。初めてなんだから、もっと優しくして」

「ああ、すまん。俺もこういうの、初めてだからさ。……こうか?」

「うん、そのくらいゆっくり擦って。慣れてきたら強くしても平気だと思うから」

「分かった」

「ちょっと、マスター?」


 タオルが泡立つ。

 たったそれだけなのに、それが凄く楽しい。

 今までできなかったことができる。

 それがこんなに楽しく、心(おど)るものだとは暫く忘れていた。

 ワシワシとアニカの身体を無心に洗っていく。


「あんダメだよ、上下に(こす)って洗ったら。そこはちゃんと下から持ち上げるようにマッサージして洗わないと」

「おお、悪い悪……いいっ!」


 言われて気が付いたが、柔らかいふにふにとした感触が面白くて、自分が何処を触っているのかということに、気が向いていなかった。


「マスター! 何処触ってるんですかっ!」

「すすすすすまん! 夢中になってて、つい」

「夢中になるような大きさじゃないと思うんだけどな」

「マスターはタイムのに夢中になってくーだーさーいー!」

「そういう意味じゃない! タイムも叩くなっ!」


 痛くはないけどな。

 こういうときでもタイムはちゃんと甘噛み仕様で加減してくれている。

 暴力ヒロインとは違うのだよ、暴力ヒロインとは。


「ボクは気にしてないよ。ほら、ボクもモナカくんをこうやって洗えば、お相子でしょ」


 アニカは自分に付いている泡を手で(すく)うと、それを俺の身体に(こす)りつけてきた。


「アニカさん! マスターへのお触りは禁止です!」

「ふふ、触らなきゃ洗えないじゃないか」

「アニカさんの触り方は、なんかエッチだからダメですー!」

「なに言ってるんだい。男同士なんだから、なんの問題もないよ」

「問題しかありませんーマスターはタイムが洗うからいいんですー!」


 タイムは俺からタオルを奪い取ると、俺の身体を洗いだした。

 が、すぐに泡が消えてただの垢擦りになってしまう。


「なんで泡が消えちゃうの?! もー」


 いい加減タイムも学習しろっ!


「ふふ、タオルなくなっちゃったね。じゃあ仕方ないよね」


 そう言ってアニカが身体を寄せてくる。


「アニカ?」


 そして自分の身体に付いている泡を、直接俺の身体に(こす)り付けてきた。


「アニカ?! お前なにしてんの!」

「アニカさん!」

「手で泡を(すく)って(こす)るのがダメなら、直接身体で(こす)るしかないよね」

「あるわけねーだろっ!」

「タ、タイムだって!」

「ちょっ、タイム? なにお前まで張り合っているんだよ。そもそもお前、泡付いていないだろっ」

「モナカくん、いい身体してるね。羨ましい」


 くそっ、これだったらまだエイルの方がマシだっ。

 あいつは機械的に触ってきていたからな。

 あくまで触診だった。

 それがアニカときたら、完全に触ることが目的で触ってきやがる。

 タイムはタイムで意味不明な対抗心で触ってくるし。

 というかなんで急に一緒に入るなんて言い出したんだ?

 今まで一度もそんなこと言い出さなかったのに。

 そりゃ、俺だって男だ。

 裸の女の子ときゃっきゃうふふするのは、嫌いではない。

 が、これは完全にオモチャにされているようなものだ。

 それに、これはちょっと刺激が強すぎる!

 その気がなくても元気が出てしまう。

 が、アニカやタイムが相手だと、それは負けになるような気がしてならない。

 ! 素数だ。

 こういうときは、素数を数えて落ち着くんだ。

 素数が1匹、素数が2匹、素数が3匹……

素数を数えるとは、こういうことだー!

次回もモナカとアニカのキャッキャウフフをお楽しみください


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