第93話 初めての……魔法?
魔力が無いということはどういうことなのか。
それを教える前に、この世界と魔力について時子さんに話すこととなった。
当然、言われただけでは理解しにくい。
だから俺のときと同様、実際に体験して貰った。
そして俺同様、部屋の扉を開けることができなかった。
「え、なんで開かないの?」
「さっき説明したのよ。魔力が無いからなのよ」
「魔法を使えるようにしてもらったのに?」
「試験のときのよ、使えてなかったのよ」
「約束だけじゃなくて、魔法もなの?」
確かにその可能性も出てきた。
俺はタイムがいるから魔法もどきが間接的に使える。
でも時子さんは、携帯ではなく携帯だから、俺みたいにアプリを入れて色々できるわけでもない。
先輩に会えないだけに止まらず、使えるようにしてやると言われた魔法すら使えない。
まさに泣きっ面に蜂だ。
『マスター』
『ん?』
『〝魔法は携帯で使えるようにしてあるぞ〟って言ってる』
『携帯で?』
どういうことかと取説をパラパラとめくってみる。
すると魔法に関するページがあった。
……ふむふむ、なるほど、そうやって使うのか。
これじゃあ幾ら呪文を唱えようが杖を振り回そうが、魔法が発動することはないな。
しかしこれが携帯魔法か。
「時子さん、魔法の使い方が分かったよ」
「えっ?」
落ち込んでベッドに座り込んでいた時子さんが顔を上げる。
「取説に書いてあるよ」
「ホント?!」
「ああ。携帯のMmodeボタンを押してみて」
「まじっくもーどぼたん?」
携帯を貸してもらい、ボタンを探す。
見た目は普通だし、特に変わったところのない携帯だ。
ただ、時子さんの言ったように、かなり傷が付いている年季の入った代物だ。
二つ折りの携帯を開くと、ボタンはテンキーの右上にあった。
「ほら、これのことみたいだよ」
「……なにこれ?! お母さんに貰った形見なのに、改造されちゃったの?」
形見ってことは、時子さんのお母さんは亡くなっているのか。
俺の両親は……どうなんだろう。
居ないってことはないんだろうけど。
「お母さん、今頃なにしてるのかな」
……ん?
「時子の母さんのよ、亡くなってるんじゃないのよ?」
「え?! やだな、元気にしてるよー……多分」
「え、でもさっき形見って」
「ああ、だってもう会えないなら、形見でしょ」
ああ、そういう意味かよ。
「それは形見と言わないのでは?」
「そうかな?」
「そうだよ。で、そのボタンを押してみて」
「あ、うん……押したよ」
「そしたら魔法名入力欄が出てくると思うんだけど」
「なんか、文字が入力できるみたい」
「10文字まで入力できるみたいだね。それじゃ、試しに〝light〟(半角英字)って入力してみて」
テスト用の魔法として、マニュアルに載っているものだ。
そうだよな。
室内で火球とか、撃てないからな。
「分かった。〝ライト〟(全角片仮名)だね」
「そしたら[送信]を押せば発動するって」
「[送信]? ……これかな。なんかショートメールみたいだね」
時子が[送信]を押すと、数秒遅れて光の玉が中空に現れた。
あまり明るいものではない。
真っ暗な部屋を薄暗く照らせる程度だろう。
「わわっ。これ〝ライト〟の魔法……なの?」
「みたいだな」
フヨフヨと浮かぶ光……球?
なんだろう、何処か違和感がある。
「なんか……角張っていないか?」
「……角張ってるね」
どことなく、カクカクしている。
こう、四角い物が寄り集まって丸く見えている感じだ。
「もしかして……ドット?」
「……ドットだね」
それ以前にもっとスゴい違和感がある。
立体感が全くないのだ。
「気のせいかな……球というよりは、円?」
「……平べったいね」
横から見たら線になるのか?
という疑問が沸いたので、横に移動してみるが円にしか見えない。
何処からどう見ても円にしか見えない。
やっぱりこれは球体なのか?
「どういう仕組みなのだろう」
「……どういう仕組みなんだろうね」
そもそも俺が正面から、時子さんが横から、2人で同時に見ても同じ円にしか見えない。
別々の方向から見ているにも関わらず、見え方が変わらない。
もし本当に立体的な物なら、ドットも立方体のはずだ。
正面から見れば平面的に見えても、少しでも角度が付けば立体的に見える。
しかし、何処からどう見てもドットは正方形のままなのだ。
意味が分からない。
「それでのよ、扉は開けられるのよ?」
「ああ、どうだろう。〝open〟(半角英字)とかかな」
「〝オープン〟(全角片仮名)だね。……っと」
時子さんが携帯を操作して魔法を使うと、扉がすっと開いた。
俺はどうやっても開けることができなかったのに、だ。
更にマジカルタイムに頼んだこともある。
結果は聞かないでくれると助かる。
〝light〟は扉が開くと同時に消えていた。
もしかして同時使用ができないとか?
「わわっ! 開いたよ! やっにぎゃっ!」
時子さんが扉を出ようとしたら、無慈悲にも扉が閉まり、挟まれてしまった。
何処かで見たような……いや、経験したような光景だ。
「うぎゅー。な、なんでー?!」
「時子さん、大丈夫?」
慌てて扉を開けようとしたが、俺が開けられるはずもない。
エイルが軽く扉に触ると、あっけなく開いた。
溺れた人を助けに行ったのはよかったのだけれど、実は自分も泳げなかった――みたいでちょっと恥ずかしい。
「生活には利用できなさそうなのよ」
「そうみたいだな」
「えー?! じゃあ、どうすればいいの?」
「うちが面倒見るのよ」
「エイルさんが?」
あ、〝検体が増えたのよ〟とか思っているのか?
俺だけならいざ知らず、時子さんまで毒牙に……
止める手段はないのか!
「そうなのよ。今日はもうお開きにしのよ、続きは明日にするのよ」
「あ、ああ。じゃあシャワー浴びて寝るか」
そして俺はいつも通り、エイルと供にシャワー室へと向かう。
次回は再びシャワー室でムフフ……ではありません
アニカから重大発表があります






