第92話 モナカの充電問題
俺の探し者が時子さんだということ。
俺自身も意味がよく分からないのに、その上タイムのことを伏せて話すとなると、中々厄介だ。
大体、時子さんが運命の人?!
タイムにそっくりなのと関係があるのだろうか。
『しょうがないな。タイムが説明してあげる』
『タイム?』
どういうことかと聞く間もなく、タイムは姿を現した。
あれほど時子さんと顔を合わせるのを嫌がっていたのに……だ。
どういう心境の変化だろう。
なにかあったのだろうか。
とはいえ、素直に姿を見せる勇気はなかったようだ。
「それについてはタイムから説明するよ」
「タイムちゃん?」
「タイムさん!」
「……え?!」
俺の首に隠れるようにして、肩から顔だけ出して時子さんの様子を小さなタイムが伺っている。
「初めまして。タイムはタイム・ラットっていいます。マスターのお嫁さんです」
「タイム?! それ今必要?」
「なに言ってるんですかっ。必須です。むしろ今言っておかないと後々面倒なのです!」
「後々ってなんだよ。そもそもいつ俺の嫁になったんだ?」
「マスター?!」
「マスターって?」
「ああ、タイムは俺のことをマスターって呼ぶんだ」
「そうなんだ。じゃあ、モナカくんのお嫁さんってこと?」
「そうです! だからあげませんよ」
「いや違うから。俺のサポートA.I.だ痛いな! なんでエイルが叩くんだよ!」
「うるさいのよ。バカモナカ」
理不尽なエイルの一撃に納得はできないが、時子さんにどういうことかを掻い摘まんで説明した。
「携帯と混ざったって……いい加減な管理者ね」
「うきゃっ! タイムに言わないでよ、もー。〝管理者じゃなくて神が間違えたんだ! ここ重要〟って言ってるよ」
「どっちでもいいよ。事実は変わらないんだから」
「で……タイムちゃん?」
タイムがサッと俺の首の後ろに隠れる。
それでも恐る恐る顔を半分だけ出して時子さんを見る。
時子さんもタイムをじっと見つめている。
「か……」
「か?」
「可愛いーなにこの子! え、こびと?」
「タイムさんは妖精なんですよ」
「妖精?!」
アニカよ、何故お前が誇らしげに言うんだ。
「あー、あのとき言ってた妖精さんがタイムちゃんなんだね!」
「あーうん、そういうことだ」
「うわー」
「あ、あんまり見つめないで欲しいな。恥ずかしいから」
「あーごめんごめん」
時子さんは少し距離を取った。
「初めまして。時子は子夜時子っていいます。モナカくんと同じ世界から来ました。よろしくね、タイムちゃん」
「よ……よろしく」
「………………」
「な、なに?」
「タイムちゃんって、時子に似てない?」
「そんなことないよ。気のせいだよ」
「そう?」
「そうだよ。そんなことより、マスターのバッテリーを時子が充電できるんだよ」
「……どうして?」
「それはタイムも知りたいよ。でも教えてくれないんだよ」
「教えてくれない?」
「あはは、なんでも無いよ。気にしないで」
「う、うん」
「うん。だから、マスターを助けると思って、一緒に居て欲しいの」
「一緒に居るだけでいいの?」
「近くに居るだけでいいって」
「ん、分かった」
「……いいの?」
「ん? 別に構わないよ。そのくらい。むしろ時子の方がお願いしないと」
「え?!」
「だって、他に頼る人も居ないのに放り出されても、困るじゃない」
「……あー、うん。そうだよね、あははは」
「そんなことしないよ。あれだ! 先輩を一緒に探す対価として、時子さんは俺のバッテリーを充電するってことで。これならお互い貸し借り無しでしょ」
「それ、成立するの?」
「するする! むしろ俺の方が時子さんから離れられないから」
「マスター! なに言ってるんですかっ。あくまで命を繋ぐためなんだからねっ!」
「分かってるよ。だから離れられないんだろ?」
「う、それは。言い方って物が……ぷぅ」
なにか変なことを言っただろうか。
俺とタイムにとっては死活問題だ。
離れられるわけもない。
だというのに、またエイルが引っ叩いてきた。
「痛いな。だからなんでエイルは頭を叩くんだよっ」
「モナカがバカだからなのよ」
「意味が分からないよ」
「バカだから分からないのよ」
「くっ……こいつ」
「時子には先輩が居るのよ。分かってるのよ?」
「分かってるよ。だから一緒に探すんだろっ」
「……ふう。先に進めるのよ」
なんでそんな深いため息をつくんだ?
「それでのよ、具体的にはどのくらい充電できるのよ?」
「あの、ジュウデンってなんですか?」
「とりあえず、アニカは黙ってようか」
「う……ゴメンよ」
「えっと……1日で0.1%くらい?」
「え……それは問題解決というレベルじゃなくね?」
「あーいざとなったら別の方法があるから」
「別の方法?」
「だから、その。……直接触る、とか?」
「……あ、ああ。なるほ、ど?」
「なに照れてるのよ。触るのよ、握手でもいいのよ?」
「問題……あるけど、ないよ?」
あるけどない?
どっちなんだよ。
「なら、さっさとするのよ」
「……なにを?」
「バカモナカ! さっさと時子と握手するのよ」
そう言うと、俺の手と時子さんの手を掴んで、無理矢理握手させた。
「ちょっ! そういうのはちゃんと手順を踏んでだな」
「手を握るのに手順もなにも無いのよ」
「すまん。なんか、その」
「あはは、気にしすぎだよ。こんなんでいいなら、幾らでもしてあげるよ」
小学生の頃、指先で手を繋いでダンスをしていた人間には、ハードルが高いんだよ。
「う……ありが、タイム! どうなんだ!」
恥ずかしさのあまり、ついタイムに話を振ってしまった。
「むぅー。えっと、1時間で1%くらい?」
「これでもその程度なのか?!」
「タイムちゃん、今何%なのよ?」
「今は17%だよ」
「モナカ、時子」
「なに」
「はい」
「今月はずっと手を繋いでるのよ」
「はあ?!」
「えっ??」
「エイルさん?! なに言ってるんですかっ」
「昼起きてるときの話なのよ。一ヶ月も手を繋ぐのよ、満充電になるのよ」
「……昼間?」
「昼間のよ」
「マスター? なに考えてたんですか?」
「あ、いや。……別になにも」
あービックリした。
寝ているときもかと思った。
「あービックリした。時子お風呂とかも一緒なのかと思った。あは、あはは」
それは考えてなかったな。
なんか、負けたような気がする。
なににと言われると分からないが、そんな気がした。
「そんなわけ……のよ?」
そこまで言って、エイルは止まってしまった。
「どうした、エイル?」
「時子、ちょっと手を出すのよ」
「手を?」
「手のひらを上にするのよ」
時子さんが手を出すと、エイルがその上に手のひらを乗せた。
「ちょっと痛いかものよ、我慢するのよ」
「えっ?」
そういえば以前エイルは俺に魔力を流すとかいって、同じようなことをしたっけ。
てことは……
「「きゃあ!」」
あ、やっぱりそうなるんだ。
俺のときと同じで、重ねた手のひらから火花が散って、2人は反発しあった。
……待てよ。
ということは、時子さんも魔力がないって事?
あれ、魔法を使えるようにしてもらったんじゃなかったっけ。
うーん?
「痛ーい。なに今の?」
「やっぱりのよ、モナカと同じなのよ」
「な、なにがですか?」
「時子も魔力を持ってないのよ」
つまり、時子さんも俺と同じで、誰かと一緒でなければ扉もシャワーもトイレも使えない……ということか。
次回、いよいよ時子の魔法の使い方が判明します
そしていつものことですが、普通ではない魔法をご堪能ください
どんな魔法か、予想してみるのも一興かな
因みに使う魔法は、明かりの魔法です






