表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

82/100

第85話 言語問題

 部屋にはテーブルと椅子があった。

 立って待っているのもなんなので、椅子に座ることにした。

 座って待てとは言われていないが、座るなとも言われていない。

 子夜(しや)さんが隣に座り、向かいにエイルとアニカが座った。


「ねえモナカくん。どうしてモナカくんはみんなと話せるの? 時子(ときこ)と同じ日本語で話しているのに、どうして時子だけみんなと言葉が通じないの?」

「ああ、それは言語相互翻訳(マルチリンガル)ってアプリのお陰だよ」

「アプリ?! なにそれ」

携帯(スマホ)にアプリをインストールすることで、言葉を相互翻訳してくれるんだよ」

「へー良いなー」

「子夜さんは携帯(スマホ)持っていないの? 持っていればインストールできるんじゃないかな」

「あー、時子は携帯(スマホ)持っていないんだ」

「そうなんだ」

『なータイム』


 そういえば、携帯(スマホ)に籠もったきり、戻ってきていないな。

 タイムならなんとかできるのでは、と思ったんだけどな。


『なに、マスター』

『ぅわっ。……ど、どうしたんだ? 全然元気が無いじゃないか』


 誰が見ても一目で分かるほど、タイムは落ち込んでいた。

 なにしろ視界の端に現れたタイムの顔アイコンに、青い縦線が貼り付けられていて、〝漫画かよっ〟と突っ込みたくなるほど、分かりやすかったからだ。

 まあ、そういう分かりやすいエフェクトは、いつも通りなのだけれど。

 もしかしたらタイムはポーカー激弱なのかも知れない。

 表情がエフェクトに出すぎだよ。


『なんでもないよ。タイムはタイムで、時子と違うよ』

『それは分かってるよ。……あれ?』


 なんでタイムが子夜さんの名前を知っているんだ?

 ずっと携帯(スマホ)の中に居たはずじゃ……

 聞き耳は立ててたってことか。

 俺と視覚を共有できるのだから、聴覚も共有できて当たり前か。


『聞いていたのなら、話が早いな』

『? なにが?』

『だから、子夜さんの言葉の翻訳問題だよ』

『ああ、それなら携帯(スマホ)言語相互翻訳(マルチリンガル)をインストールすれば問題解決でしょ。そのくらい、タイムだって分かるよ』

『そ、そうなんだけど、彼女は携帯(スマホ)持っていないってさ』


 あれ、聞いていたんじゃなかったのか?


『あ……そういえば、そうだった』


 なんだ、忘れてただけか。


『時子は携帯(スマホ)持ってなかったね。そんなこと、忘れてた』

『だからタイムが彼女の通訳になっ――』

『なんでタイムがそんなことしなきゃいけないんですかっ!』

『え、なに怒っているんだよ』

『怒ってませんっ!』

『そうか? いや、だってさ、言葉が通じないのは可哀想だろ。俺がずっと付いてて翻訳してあげるわけにもいかないし』

『タイムだってマスターから離れられないんだから、無理ですっ!』

『それはそうかも知れないけど……どうしたんだ?』

『なにがですかっ!』

『なんか、いつものタイムらしくないというか……』

『いつものタイムらしいってなんですかっ! タイムは時子と違うんですよっ!』

『いや、それは分かってるけど……』


 いったいどうしたっていうんだ?

 ただのご機嫌斜めとは違うような気がする。

 やっぱり子夜さんが関係しているのか。

 そりゃいきなり自分と瓜二つの人間が現れたら、驚くだろうけど。

 世界には同じ顔の人間が3人居るともいわれているのだから、タイムと同じ顔の人間が居ても、おかしくはない。

 その人間が召喚されてくる確率は、天文学的確率ではあるが……

 なんでここまで機嫌が悪いのか、皆目(かいもく)見当も付かない。

 多分今はギュッてしても逆効果だろう。

 触らぬ神に祟り無し、かな。


『大体、タイムが時子の通訳するってことは、タイムは時子と会わなきゃいけないじゃないですかっ!』

『……なにか問題でも?』

『問題しかありませんっ! そもそも――』

「モナカくん? どうかしたの?」


 あ、しまった。

 タイムと話し込んでたから、子夜さんをほったらかしにしてしまったな。


「多分タイむがっもがふが……!」

「いやなんでもないなんでもない。ちょっと考え事してただけだから」

「な、なにするのよ!」


 エイルとアニカを引き寄せ、耳打ちをする。


「悪いけど、タイムのことはまだ話さないでくれ」

「どういうことなのよ」

「よく分からないが、タイムが嫌がっているんだ」

「タイムさんが?」

「ああ、だから頼むよ。タイムに関して話さなきゃいけないときは、エイルが対応してくれ。俺とアニカの言葉は子夜さんに通じるからさ」

「分かったのよ……ならなんでうちの口を塞ぐのよ」

「……あ! 咄嗟のことでつい」

「モナカくん?」

「えっと、とりあえず今は俺が通訳するから。暫くはそれで我慢して」


 暫くがいつまでなのかは分からないけれど。


「ホント!? ありがとう!」

「同郷のよしみだから、気にしないで。色々聞きたいことはあるだろうけど、ここだとできない話が多いから、帰ってからでいいか?」

「! 元の世界に帰れるの?!」

「いや、俺は今エイルの家で厄介になっているんだ。そこに帰ってからって意味だよ」

「あ……そっか」

「悪いな、期待させてしまって」

「ううん、そんなことない」

「それより……」

「?」


 ここで待たされているのは、やはり子夜さんのことでだろうか。

 精霊ではなく、人間を召喚したのだから当たり前だ。

 嫌な予感しかしない。


 そんな話をしていると、扉が開いて人が入ってきた。

 少し背の高い身なりの整った姿勢の良い男と、猫背で無精髭でボサボサ頭の中年男だ。

 先ほどの案内人も一緒に来ていたが、扉の中には入ってこなかった。

 俺たちが席を立つと、「そのままお座り下さい」と言われた。


「みなさん、初めまして。僕は中央省で補佐官をしているデイビー・ラッセル・ルーゼドスキーと申します」

「ワシはウィーラー・グリフィン・イーデンだ。同じく補佐官をしとる。よろしくな!」


 見た目と言動は一致するというかの如く、姿勢の良い男の言葉遣いは丁寧で、猫背の男はちょっと馴れ馴れしい。

 〝よろしく〟と言いながら、子夜さんの頭を乱暴に撫で回していた。

 姿勢の良い男、デイビーに「止めなさい」と注意されると、懐から煙草を取り出して火を付けた。

 「ここは禁煙ですよ」と更に注意されるも、部屋の隅に逃げてズボンのポケットに手を突っ込み、煙を噴かしていた。


「相方が失礼を働き、申し訳ない。宜しければ、お嬢さんのお名前を伺っても宜しいでしょうか」

「彼女は子夜時子っていいます」

「トキコ・シヤさんですね。それでシヤさんのことですが、精霊様……ではありませんね」


 やはりそのことで待たされていたのか。

 嫌な予感が的中してしまった。

 さて、どうすればみんなが無事に家に帰れるかな。

最後に出てきた2人の出番が早すぎです。

本来なら第2部で出てくる予定だったのに……

ま、ここで出てきても問題ないけどね

イベント前倒しです


次回、狐と狸の化かし合い……といえるほどのものかは分かりませんが、そんな感じです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ