第84話 試験結果
現実でもそうだけど、通訳挟んだ会話って創作だと面倒くさいよね
「それまで! 試験終了」
案内人の声と供に、結界が溶ける。
泣き崩れているジェシカを横目に、火蜥蜴の頭を撫でてやるアニカ。
そんな2人を見て、途方に暮れる少女、子夜時子。
この世界に呼び出され、ジェシカを倒して欲しいと言われたものの、それを果たすことができなかった。
そして泣き崩れている者に追い打ちを掛けられるほど、非情でも無かった。
とりあえず自分を呼び出したアニカの元へ行ってみようと思ったが、火蜥蜴が怖くて二の足を踏んだ。
そこで唯一日本語が通じる者の元へ行こうと思い至った。
さすがに4度目ともなると、結界を警戒してゆっくりとモナカの元へと歩み寄る。
既に結界は無いのだが、そんなことが理解できるほど、この世界に詳しくない。
傍目にはなにも無いところに手を伸ばし、なにかを探しているようにしか見えない。
そんな不審な動きを見せる時子を見て、モナカは時子の側へと歩み寄った。
「もう結界は無いから大丈夫だよ」
「そうなんだ、あはは。えっと……モナカくん?」
「はい」
「その、どういう状況なのかな。時子はどうすれば良いの?」
「簡単に話すと……」
とりあえず細かいことは抜きにして今は試験中であることを掻い摘まんで説明した。
「んー、それで時子はなんで呼び出されたのかな」
「俺に聞かれてもな……」
「そうだよねー。じゃあご主人様に聞かないとね」
「そうだね……ん?」
ご主人様?
もしかしてアニカのことか?
何故ご主人様呼びなんだ?
そんなことを考えていると、アニカが火蜥蜴と供に近寄ってきた。
火蜥蜴を見ると、彼女はササッと俺の後ろに隠れてしまった。
「モナカくん、今その子と話してなかったかい?」
「ああ、話してたけど……」
「なんで言葉が通じてるの? ボクはその子の言ってることが全然分からないよ」
「まぁ、彼女が話しているのが、俺が元居た世界と同じ言葉だからな」
「え、それじゃあ彼女はモナカくんと同じ世界からやってきたっていうのかい?!」
「そうなるな」
「え? モナカくんもご主人様に呼び出されたの?」
やっぱりご主人様って言っているな。
「ご主人様って、アニカのことか?」
「え? ご主人様? 時子、ご主人様なんて言ってないよ。ちゃんとご主人様って……あれ? ご主人様のこと、なんでご主人様って言ってるの?」
なんだろう。凄くデジャブっている気がする。
「もしかすると……ボクが彼女を――」
「時子だよ。時子の名前は子夜時子っていうの」
「え? モナカくん、彼女はなんて?」
「ああ、自分の名前を言っているんだよ。子夜時子だってさ。子夜が家名で、時子が名前だよ」
「トキコ・シヤさんですか。初めまして、ボクはアニカ・ルゲンツ・ダン・ロックハートといいます。ボクのことを〝アニカ〟って呼んでみてください」
「あ、はい。ご主人様のことをご主人様って……あれ?! 時子、ご主人様って言ったのに、なんでご主人様って言ってるの?」
うん、完全にデジャブだ。
初めの頃、タイムがマスターマスター連呼していたのを思い出すな。
「モナカくん……通訳お願いしても?」
「いや、なんで子夜さんはアニカの言葉を理解できるのに、アニカは子夜さんの言葉を理解できないんだよ」
「おそらくそれは、ボクがトキコさんを召喚したからだと思います」
「どういうことだ?」
「どういうこと?」
「どういうことなのよ?」
「一言で言うなら、召喚した精霊はボクの言葉を理解できますが、ボクたちの言葉を話すことはできません。トキコさんもそれと同じなんだと思います」
「なるほど」
「どういうこと?」
「そういうことなのよ」
ん?
肝心の彼女が理解できていないようだな。
確かに俄には信じがたい内容ではあるが、納得はできる。
なにしろ精霊や使い魔は、言葉は話せないけれど、召喚者の言葉を理解できるのはセオリーだからだ。
そもそも意思疎通ができなければ、召喚できても命令ができない。
命令して実行できる以上、言葉を理解しているということ。
だからといって、彼らが言葉を操れるかといったら、まず無理だ。
それは単純に発声器官の有無ということではない。
「とにかく、トキコさん」
「あ、はい」
「ありがとうございました」
「いえいえ、結局なにもできなかったんだよね、あはは」
「――と言っているぞ」
「そんなことありません。トキコさんのお陰でなんとか試験を……モナカくん、試験ってどうなったの?」
「あ、そうだった」
すっかり忘れていたが、3人とも実技2次試験が終わったんだった。
子夜さんには悪いが、試験結果はどうなったのかが気になる。
ジェシカさんは既に泣き止んでおり、案内人と一緒に居た。
しかし登場したときのような傲慢な態度が抜け落ち、全く元気がない。
かろうじてそこに居るだけに見える。
試験の結果を尋ねるべく、案内人のところへと移動する。
相変わらず無表情な案内人は、俺たちが近くに来ると、子夜さんに靴を渡してきた。
「あ! 時子の靴だ。すっぽ抜けたの、拾ってくれたんだね。ありがとう」
お礼を言う子夜さんを気にもせず、試験結果を発表し始めた。
「結果をお知らせします。合格はモナカ様。以上になります」
エイルは落ちるのが分かっていたようで、落ち込んではいるが文句はないようだ。
俺はというと、ほぼタイムが片付けたようなものなので、逆に合格になったことが申し訳なく思う。
アニカに関しては、なにが悪かったのか、よく分からなかった。
「エイルは……まぁ分かりますが、アニカは何故落ちたのでしょう」
「アニカ様が召喚なされた精霊様は、ジェシカ様になんら効果がありませんでした」
「や、でもアニカの精霊がジェシカを退けたんだろ?」
「アニカ様は火蜥蜴を召喚されていません。違いますか?」
「あ……いえ、違いありません」
「ご理解頂けだでしょうか」
「はい」
「いいのかよそれで」
「よくはないけど、本当のことだから仕方ないよ」
「それではモナカ様、次の探索試験を――」
「あ、済みません、辞退します」
「モナカ?!」
「モナカくん?!」
「エイルとアニカが落ちたのに、俺だけ受けても意味ないからな」
「モナカは時間が無いのよ。それでいいのよ?」
「良くはないけど、エイルが居なければ外に出られてもどうすれば良いか分からないからな。それならこっちで可能性を捜す方に賭けるさ」
「本当に宜しいのですか?」
「はい、結構です」
「分かりました。それでは全試験を終了といたします」
試験が終了した俺たちは、案内人に一室へと案内された。
そして案内人はここで暫く待つように告げると、部屋を出て行った。
靴の回収忘れずに
次回、本当はもっと後に登場する予定だった人が前倒しで登場します






