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第82話 実技2次試験 アニカの場合 彼女が授かった力

 アニカによって召喚された、タイムに酷似した女の子。

 一体彼女は何者なのか。


「お、重い……潰れ、ぐ」

「あ、ごめんごめん。大丈夫?」


 彼女は召喚陣から引っ張り出されたとき、アニカを下敷きにしていた。

 そのお陰で尻餅をついても大して痛くなかった。

 その代償にアニカは潰され、もがき苦しんでいた。

 それに漸く気がついたようだ。


「あの子のよ、なんて言ってるのよ」

「え? ああ、下敷きになってたアニカにごめんって謝っているぞ」


 エイルの独り言に、思わず答えてしまった。


「モナカはあの子の言葉が理解できるのよ?!」

「ん? あ、ああ、そうだな。あの子が喋っているのは日本語だな」


 どうやら彼女の喋っている言葉は、エイルには翻訳されていないようだ。

 俺は日本語を理解できるから、翻訳されていなくても問題ない。

 と言うことは、アニカも分かっていないのか?

 ……ん? 日本語?

 彼女は日本人なのか?


「ぷあっ……ふっ。うう、えっ?」


 彼女が上から降りたことで、漸く圧迫感から解放されたアニカ。

 そのアニカも現われた彼女の姿を見て、驚いているようだ。

 そして俺の方を見て、目でなにかを訴えてきた。

 その視線に、とっさに〝違う〟という意味で手を振って答えた。

 するとアニカは再び彼女に視線を戻した。


「大丈夫?」

「えっと、タイムさん……ではないのですか? そういえば少し大きいような……どちら様?」


 アニカは彼女の顔から少し下に視線を向けると、そう言った。

 タイムが携帯(スマホ)の中に入っていて良かった。本当に良かった。


「初めまして、時子(ときこ)はね、子夜(しや)時子っていいます」

「え? なに? なんて?」

「あれ? えーと、時子の言ってること、分かりますか?」

「??」


 どうやら彼女にはアニカの言葉が通じているようだが、アニカには彼女の言葉が通じていないようだ。

 確かにエイルは彼女の言葉が理解できていなかったのだから、それが普通なのだろう。

 むしろ彼女がアニカの言葉を理解している方がおかしい。

 どういうことだろう。


「今度はなんて言ったのよ」

「ああ、ただの自己紹介だよ。子夜時子っていうみたいだぞ。子夜が家名で、時子が名前だ」

「子夜時子……なのよ?」

「でもアニカには通じていないみたいだな。子夜さんはアニカの言葉を理解しているみたいだけど」

「異世界人特有の能力なのよ?」

「違うだろ。俺も最初、エイルがなんて言っているか分からなかったからな」

「そうなのよ? でもこれで確信したのよ」

「なにをだ?」

「アニカがモナカをこの世界に召喚したのよ」

「ああ、その話か」


 確かに目の前で異世界人である彼女を実際に召喚されてしまっては、エイルの言った説の信憑性が増す。

 それでもタイムははっきりと〝それはない〟って言っていた。

 だからもっと決定的な証拠が出てこない限り、〝可能性〟から抜け出すことはできない。


「あ! そうだ、先輩は? 居ないの?」

「えっと……」


 先輩?

 彼女の先輩も一緒に召喚されたってことかな。

 多人数召喚? それとも巻き込まれ召喚?

 どちらにしても、アニカの召喚能力の高さが(うかが)えるというもの。

 彼女は先輩を探してなのか、キョロキョロと周囲を見渡している。


「先輩? 何処ですか? うー約束が違う……」


 約束?

 俺は誰かの約束で転生することができた。

 つまり、約束は守られたということだ。

 しかし彼女の約束は守られていないということなのか?

 事情は分からないが、彼女は世界の管理者と会って約束をしたということか。

 そしてその約束は果たされていない……

 項垂(うなだ)れている彼女は、俺たちを見て、そしてジェシカを見た。


「もしかしてアレを倒せば先輩に会えるんですか?」


 ジェシカを指さし、そうアニカに聞いた。

 しかしその言葉をアニカは理解できていない。

 それでもなんとなくの雰囲気で伝わったのか、アニカは頷いている。


「ホントですか?! 約束ですよ。今度はちゃんと守ってくださいね。えーと、そこの貴方! 貴方に恨みはありませんが、先輩の為、時子の為、倒されちゃってください」


 ビシッとジェシカを指さし、じっと見つめる。


「な、なにを言っているのか分かりませんが、宣戦布告されたような気がしますわ」


 ジェシカとその精霊も身構えて、彼女を睨み付ける。

 お互い相手の出方を伺っているのか、全く動かない。

 緊張した空気が場を支配する。

 俺は魔法が使えない。

 だから同じ世界から来た子夜さんも使えないはずだ。

 果たして子夜さんは管理者からどんな力を授かっているのだろう。

 期待で胸がドキドキワクワクする。

 すると、彼女はクルリと顔だけアニカの方に向けた。


「えっと……どうやって倒せばいいんですか?」

「分からないのかよっ!」


 思わず突っ込んでしまった。

 〝倒されちゃってください〟とか言っているから、てっきり授かった力で倒すものだとばかり思っていた。


「うきゃ?! あの……えっと、ご、ごめんなさい?」


 律儀に俺の方を向いて頭を(かし)げた。

 いやいや、対戦中に相手から目を離すのはダメだろ。

 隙だらけになったというのに、ジェシカは動きを見せずに警戒を緩めない。

 これが作戦とでも思っているのだろうか。


「あ、いや、すまん。別に怒った訳じゃないんだ」

「すみません、貴方はどうすればいいか、分かりますか?」


 そんなこと聞かれてもな。

 世界の管理者に力を貰っているのではないのか?


「そうだな、転移するときに――」

「貴方、時子の言ってること、分かるんですぐわっにゃ?!」


 言葉が通じたことが余程嬉しかったのか、俺の方に駆け寄ってきた。

 確かに見知らぬ地で、しかも言葉の通じない人ばかりの中、言葉が通じる人に出会えたら、天の助けと思うのも無理はない。

 だから俺のところへ来ようとしたのだろう。

 しかしそれは薄緑の膜に阻まれてしまった。


「いたたたた」

「大丈夫か?」

「……な、なにコレ?」

「ああ、結界だよ。外で幾ら暴れても、中に影響が出ないようにしてあるらしい」

「へー、本当に異世界なんだ……ね! 貴方はなんていうの? 時子はね、子夜時子っていうの」

「俺はモナカだ」

「モナカくん? ふふっそっか、最中(もなか)なんだ」

「なんだよ、悪いか?」

「んーん、先輩の好物が最中(もなか)だから、ちょっとおかしかっただけ。覚えやすくて良い名前だね」

「ありがと」


 なんだ、良い子じゃないか。

 タイムなんか〝()りに()って〟とか言ってたからな。


「それで、どうすればいいのかな」

「ああ、転移するとき、なにか力は貰わなかったのか?」

「力……あ! 時子、魔法が使えるようになったんだった!」

「え、魔法?!」


 彼女はアニカの元へと戻っていった。

 彼女は多分俺と同じ世界から来たはずだ。

 だから俺も彼女も魔力が無い。つまり魔法が使えない身体だ。

 そして俺は魔法を使えるようにしてもらえなかった。

 なのに彼女は魔法を使えるようにしてもらえたらしい。

 この差はなんだろう。

 俺は転生者だ。

 でも彼女は転移者だ。

 その違いだろうか。

 身体を作り替えるのなら、普通は逆ではないのか?

 魔法が使えるなら、魔力を持っていることになる。

 俺みたいな苦労はせずに済むということか。

 それは良かったなと思いつつ、少し……いやかなり羨ましくもある。


「えーと、貴方に恨みはありませんが、先輩の為、時子の為、倒されちゃってください」


 ビシッとジェシカを指さし、高らかに宣言する。

 あ、そこからやり直すんだ。

 再宣言され、ジェシカは更に警戒を強めたようだ。

 緊張からか、その額には汗が浮かんでいた。

 そして再びにらみ合いが続く。

 魔法を使う隙を(さぐ)っているのだろうか。

 ところがまた無防備な背中をジェシカに向けると、俺の元へと駆け寄ってくる。


「ねぇねぇねぇね痛っにゃん!」


 手招きしながら近づいてくるのは良いのだが、学習能力が無いのか、再び結界にぶち当たっていた。

 結構痛かったらしく、おでこを押さえて座り込んでしまった。


「大丈夫?」

「痛……くないもん! 大丈夫!」


 立ち上がって平気なことをアピールしてくる。

 しかし目の端に涙を抱えて強がっているのが、ありありと見える。

 零れそうな涙を抱えながらも、俺をじっと見据えてくる。


「モナカくんに質問があります!」

「え? なんでしょう」


 すると口元に片手を当てながら、再び手招きをしてくる。

 内緒話がしたいらしい。

 どうせ誰も理解できないのだから、意味ないと思うんだけど。

 とにかく、彼女に耳を貸す。


「魔法っはぐっ」


 おいおい、3度目だぞ。


「がぅー。どうやって使うんですか?」

「あー魔法の使い方ね(そこかよっ!)」

「そうなんです。使い方、教わってくるの忘れちゃって、あはは」

「ドジだなー(そんな重要なこと、忘れてくるんじゃねーよ!)」

「言わないでー! もう。それで、どうすればいいんですか?」

「それはだね……(そんなことはな……)」

「ごくり……」

「俺も知りたい(俺が知りたいっての!)」

「なるほど……つまり、どういうことですか?」

「俺は魔法が使えないんだ(言わせんな、察しろ)」

「なるほどなるほど……えー?!」

「悪いな、役に立てなくて(どうせ魔力0ですよっ)」

「いえ、聞いてこなかった時子が悪いんです。そうですか……モナカくんは魔法が使えないんですか」


 トボトボとアニカの元に戻っていく。

 そしてまたジェシカに指を突きつける。

 が、先ほどまでの元気がない。


「えーと、貴方に恨みはありませんが、先輩の為、時子の為、倒されてはもらえないでしょうか」


 とうとうお願いしだしたぞ。

 といっても相手に言葉は通じない。

 ジェシカと精霊は、油断なく彼女の動向に注意を払っている。


「さて、この後どうしよう」


 なにも考えていないのか。

 魔法の使い方が分からなければ、仕方の無いことなのだろう。

 すると、「やるしかないか」と言いながら、片腕を挙げた。


「ファイヤァァァ」


 いよいよ行動を開始した彼女に反応してなのか、単純に片腕を上げたことが攻撃の意思と捉えたのか、ジェシカの精霊が防御態勢を取る。

 追放されたとはいえ、宗家に居たアニカの召喚した精霊(とジェシカは思っている)だ。

 しかも(当たり前ではあるが)完璧な人形(ひとがた)をしている。

 警戒するのも当然だ。

 迂闊に攻撃をしようものなら、どんな反撃を食らうか分かったものではない。

 言動とは裏腹に、とても慎重なのだ。


「ボォォォル!」


 ビシッと腕を振り下ろして、精霊に指を突き付ける。

 狙いはお前だ! と言わんばかりに。


 ……

 …………

 ………………


 ん?

 彼女は魔法を使った……んだよな。

 しかしこれといってなにかが起こった様子はない。

 彼女の声がこの室内に響き渡っただけ……だと思う。

 それとも俺に魔力が無いから、知覚できないなにかが起こっているというのだろうか。

問題

時子はアニカの言葉が理解できるのに、アニカは時子の言葉が理解できないのは何故でしょうか

正解者にはハワイ旅行が当たります

商品は、正解の発表をもって代えさせて頂きます


次回、またまた出ました恒例の変態火球(ファイヤーボール)

時子の特殊な火球(ファイヤーボール)を乞うご期待

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