第78話 実技2次試験 モナカの場合 タイム編
最弱の運命や如何に
視界の端でしょぼくれるタイム(のアイコン)。
いざとなったら、1人でなんとかしよう。
幸い、さっき2体相手になんとかなった。
しかも弓矢による狙撃もない(はず)。
なんだかんだとタイム(たち)は頼りになる(と思う)。
直ぐに気持ちを切り替えて支援してくれる(ことだろう)。
元気よく飛び出していったタイムたちが、剣士ゴーレムを転ばして通過していく。
いや、そんなこと頼んでないんだけど……ま、いっか。
とはいえ、このまま突っ込んでいって転がっているゴーレムにトドメを刺すだけっていのも、張り合いがない。
実戦ならばそれで構わないだろう。
しかしコレは試験だ。
力を見せなければ、合格にはならないのではなかろうか。
妖精の力も、それを使役するものの力という見方もできる。
この場合、どれが正解だ?
そんなことを考えてはみたものの、結局判断するのは俺ではない。
ならば今取れる最善を尽くすのみ。
とにかく、目の前のゴーレムを倒してしまおう。
『よし、いくぞ』
『……』
『……タイム?』
『あ、ごめん。はぁ……いこう』
なんか、凄くやる気がなさそうだ。
そりゃそうか。
参加賞確定だもんな。
ニンジンのぶら下げ方、間違えたかも知れない。
仕方が無い、もう1本ぶら下げるか。
『ほら、元気出せ。目の前のゴーレムをタイムたちより早く片付ければ、タイムが1等だぞ』
『……え? 嘘』
『嘘じゃない』
『マスター、ダッシュで片付けるよ!』
『お、おう』
いきなり元気になったぞ。
どうやらいいニンジンだったようだ。
って、その〝ダッシュ〟で行くのかよっ。
ぐんっと一気にゴーレムまでの距離を詰める。
起き上がろうとしていた三日月刀を持っていたゴーレムを一気に〝袈裟斬り〟で両断する。
そこから〝横薙ぎ〟に繋げて一気に槍ゴーレムも屠る。
アプリとアプリの間には、キャンセルして繋げられるポイントが僅かにある。
アプリ連携といったところか。
基本1回しか繋げることはできないが、同じ連携を続けていくと1つの技扱いとなり、ショートカット1つで連携できるようになる。
更にアプリでやると身体への負担は全くないに等しい。
実際にやるとするなら、かなり身体への負担が高いし、そもそも身体が鍛えられていなければ繋げることすら不可能。
アプリ様々だ。
ただこの連携、実際にやろうとしても絶対にできない。
どういうことかというと、アプリ動作中に携帯をいじれないからだ。
それもそのはず、アプリによる動作は終わるまで自分の意思でどうこうできるものではない。
プレイヤーがいて、初めてキャラクターが動くというものだ。
キャラクターが技の途中で勝手に動いたら、ゲームにならないからな。
なのになんでこんなシステムがあるのか……
テストプレイできないからあぶり出されることがなかったバグなのか?
格ゲーでも、技をキャンセルして必殺技を出すのは、最初バグだったと聞いたことがある。
つまりはそういうことなのだろうか……
しかしそれだとショートカットに発展する説明がつかない。
いや、そうじゃない。
今やっているのは格ゲーじゃない。
なのに気がつけば、最後の3体目も立ち上がって戦槌を振り上げようとしたところに〝サイドステップ〟と〝回転切り〟の合わせ技・〝流旋風〟で瓦礫にしてしまった。
『ふー』
『〝ふー〟じゃない!』
『ふえ?!』
『なあタイム、俺はサポートしてくれって言ったよな』
『う、うん』
『今のは……サポートの域を超えてないか?』
『うえ?! そ、そんなことないよ。マスターの動きを予測して、先回りしただけだよ』
『ほー。じゃあなんで目をそらしているんだい? ちゃんと目を見て言ってごらん』
『え……っと。は、恥ずかしいからヤダ。』
『だったらせめて頬ぐらい染めてから言え! なあ、俺なにもしてないよな。タイムが全部やったよね。あれか、タイムの手元にはレバーとボタンがあって、コマンド入力すると俺がその通りに動くようにできてるのか?』
『え?! なんで知っ……はっ!』
『ちょっと待て! 今なんつった? 俺、冗談のつもりで言ったんだけど、タイム今なんて言った?!』
『ナ、ナニモイッテナイヨ』
『嘘つけー!』
まさか本当にプレイヤーとキャラクターなのか?!
俺が今まで自分の意思で動いていたと思っていたものも、全てタイムが――
『! ちょっと待って』
『待てるかっ』
『今最弱が大変なの』
『そんなんで誤魔化さ、れ……!』
最弱の様子が三獣士の目を通して、目の前に映し出された。
そこには、ゴーレムに鷲掴みにされている最弱の姿があった。
苦しそうな顔を浮かべながら、ゴーレムの指を引き剥がそうとしている。
『三獣士はなにをやっているんだ!』
『最弱が〝1人でやれる〟って拒否してるんだよ』
『そんな場合じゃないだろっ』
最弱の元へ駆けつけるべく、1歩を踏み込んだそのとき、ゴーレムの手から、1つの塊が床に落ちるのが微かに見えた。
そんなまさか……
だって、タイムは怪我をしないんだろ?
痛みや熱は感じても、火傷もなにも負わないんだろ?
押しつぶされてもぺちゃんこになるだけで、普通にしてたじゃないか。
え、もしかしてデュラハンなのか。
それならなんの問題も無い……訳ないよな。
2歩目を踏み込むと、また強烈な風圧を顔に感じた。
今更遅いんだよ。
今手が届いても、もう最弱は助からない。
分かっている。それでも助けたいんだ。
だから最弱を掴んでいるゴーレムの目の前まで、一足飛びでたどり着けたんだ。
そして俺は刀を持っているのも忘れ、その手で顔面を殴りつけていた。
普通なら土の塊を殴れば痛いはずだ。
なのに殴っている感触はしっかりあるが、痛みはまったく感じなかった。
ゴーレムの顔面は素手で1発殴っただけで、跡形もなく消し飛んでいた。
そのまま刀で最弱を掴んでいる腕を切り落とす。
切り落とした腕を受け止めると、腹に回し蹴りを食らわせた。
ゴーレムの腹はだるま落としのように吹っ飛んでいき、残った上半身と下半身が床に崩れ落ちた。
『最弱!』
切り落とした腕が掴んでいる最弱を、腕ごと抱きしめる。
そういえば、俺も最弱を掴んだことがあったな。
あのときはタイムが暴走してて悪乗りしてたんだったな。
でも今回は違う。
今回は悪ふざけではない。
こんな形でさよならなんて、嫌だ。
『マスター……』
気づけば、タイムたちも集まってきている。
暴れていた上半身と下半身も静かになっていた。
どうやらタイムたちがとどめを刺したようだ。
そうだ、考えてみればタイムたちにとっては自分自身のことだ。
1人でも欠けてはいけない存在なのだ。
なのに、俺が無能なばかりに1人を欠くことになってしまった。
『済まない』
謝って済むことではないが、今の俺にはそのくらいしかできない。
『済まない……』
『謝らないでよ、マスター。マスターは悪くないよ』
『そうにゃ。最弱が弱いのが悪いのにゃ』
『全く、殿の役に立つのが拙者らの役目でありんす。殿の手を煩わせるとは、嘆かわしいでありんす』
『そんな言い方ないだろっ。最弱だってタイムなんだぞ』
『っ……ふんっ』
悪態をついてはいるが、みんな気を落としているように見える。
なんだかんだ言って、最弱はみんなに愛されているのだ。
そんな最弱はもう……
とうとう犠牲者が?!
次回、反省会です






