第77話 実技2次試験 モナカの場合 サムライタイム編
またまたタイム大暴れです
1人の女サムライが荒野を駆け抜ける。
目の前に剣士が居ようとも、弓兵が居ようとも歩みを緩める様子はない。
両の腕を組み、足早に何人が居ようとも、我の道を塞ぐ者無し。
そんな堂々とした走りだった。
ゴーレムの攻撃も、彼女にとっては止まって見えるほどだ。
通り抜ける通行料として、振り下ろされた武器を躱しながらゴーレムの肩をちょいと小突く。
振り下ろされた攻撃の力が、逆側の肩を小突くことによって回転の力となり、ゴーレムは背中から床に叩き付けられる。
力を使うことなく、相手の力を利用した投げ技だ。
『はぁ、はぁ、ちょっ、待ってくださいよー』
チラリと声のする方を見やると、四天王の中でも最弱と呼ばれている者が、倒れたゴーレムを飛び越えていくのが見えた。
かような者が拙者らの中にまだ居たでありんすか……
そう思いながら視線を戻すと、彼女の怨敵に向け、その足を加速させた。
相手は召喚術を使うゴーレム。
杖を折ってしまえば無力化できるだろう。
腰の獲物に手を掛ける。
召喚術師の脇を駆け抜けながら、抜刀した。
鞘走りで加速した大太刀が、杖を一閃する。
なんの抵抗も無く振り抜いた大太刀の刀身を、懐紙で拭う。
そして一払いすると、鞘に収めた。
『ふっ、つまらぬでありんす』
駆け抜けた召喚術師の方へ足を向ける。
『む、加減を違えたでありんすか』
見ると、召喚術師の胴から上の部分が床に落ちていた。
その断面は、鏡のように綺麗だった。
『いかんでありんす。拙者もまだまだ未熟でありんす』
己の未熟さを反省しながらも、無力化には成功したと解釈する。
四天王を見やると、1人が弓兵を殴り飛ばしたところだった。
『どうやら一番乗りは拙者のようでありんす。ふふっ、これで1等は拙者のものでありん……いや、まだ終わりではありらん。拙者の殿の相手は3体でありんしたな』
気になった彼女は殿の方へ意識を向ける。
すると辺りが急に暗くなった。
ハッとして飛び退くと、先ほどまで居た場所に足が踏み下ろされていた。
まだゴーレムが居たのかと思ったが、そうではなかった。
下半身だけのゴーレムが踏み付けてきたのだ。
『なんと面妖な。しかし、相手の技量を見誤るなど言語道断でありんす。更なる精進をせねばならぬでありんす』
そして動いているのは下半身だけではない。
上半身も浮かび上がり、2つに折れた杖を両方とも両手で握りしめている。
そして両方から魔法陣が生み出されようとしていた。
しかし産み落とされる前に、粉微塵となり燃え尽きることになった。
剣戯 八百万
1秒間に800万回斬り捨て、対象を細切れにする。
その際発生する摩擦熱により、灰すら残らず燃え尽きるという。
(アプリ説明欄より)
上半身を失った下半身は、視界を失ったのか、ただ暴れ回っているだけになった。
目標もなく闇雲に足を振り回し、蹴り上げ、踏み付ける。
まるで素人のガチャプレイを見ているかのようだ。
そんな闇雲プレイに惑わされる彼女ではない。
見切っているのが当たり前と言うが如く、最小の動きで華麗に躱す。
掠りすらしない。
まるで前もって定められた動きをする演舞のようである。
だから動きを合わせるのは、彼女にとって呼吸をするのも同然なのだ。
指一本軽く触れるだけで、ゴーレムのバランスを崩すことなど造作もなかった。
倒れてしまえば所詮は下半身。
起き上がることもできず、ただ藻掻くのみ。
彼女が大太刀で一刺しすると、1度ビクンと跳ねて痙攣したのを最後に、力なく横たわって静かになった。
動かなくなったのを確認して大太刀を引き抜く。
障害を排除した彼女は気を抜くことなく周囲を警戒する。
敵影が無いことを確認すると、刀身を懐紙で拭う。
そして一払いすると、鞘に収めた。
因みに別になにかで汚れているから拭っているのではない。
なんとなく格好いいからやっているだけだ。
そんないつもの所作をし終えると、再び殿が気になった。
『『『! 最弱!』』』
三獣士の叫び声が聞こえてくる。
殿のことは気になるが、聞こえてしまった叫び声も気になる。
様子を伺うと、どうやら先ほど後れを取っていたものが、敵に捕まってしまったようだ。
『この程度の敵に捕まるなど、同じタイムとして恥ずかしいでありんす。何故かような者が四天王の末席におるのか……不思議でならぬでありんす』
そもそも三獣士が付いていながらなにをやっているのか。
気にはなるものの、三獣士の顔を立てて手出しは無用だ。
三度殿へと意識を戻す。
ちょうど最後のゴーレムを切り倒したところのようだ。
『なんと! 殿の活躍を見逃してしまったでありんす。至極無念でありんす』
余程のことなのか、膝を落として嘆いている。
しかしそれも一時のこと。
すぐに立ち上がると膝を払い、殿の元へと歩み出した。
だがそれも直ぐに終わる。
床に固いものが落ちた音がすると同時に、三獣士の悲痛な叫び声が響いたからだ。
彼女は反射的に、音のした方へと駆け出した。
四天王、サムライと来たら、次は……やっぱりタイムです
そして明らかになる
モナカの衝撃の事実!






