第76話 実技2次試験 モナカの場合 タイム四天王編
今回はちょっとタイムとタイムが会話するので、混乱するかも知れない
ゴーレムの魔法使いは、魔法使いではなかった。
「アリなのかよ!」
意識を向けた先に居たのは、無傷な剣士と弓兵だった。
しかも2体ずつ、計4体が立っていた。
そう、最後の1体は魔法使いではなく、召喚術師だったのだ。
最悪なのは、杖から新たな召喚陣が生み出されていることだ。
それはつまり、まだまだゴーレムが増えるという事実。
冗談じゃない!
やっと2体倒したというのに、倒す前より増えているってなんの罰ゲームだよ。
しかも剣士とは言ったが、持っている獲物が違う。
先ほどのゴーレムは幅広の剣だったが、今度のゴーレムは槍と三日月刀だ。
弓兵も長弓から短弓と洋弓銃に変わっていた。
つまり、また情報収集をしないと、〝NotesSaber〟が使えないということだ。
いくら〝思考加速〟があるとはいえ、4体……いや、既に5体か。
そんな数を同時に相手にするなど無理がある。
モタモタしてると6体に増えそうだ。
『タイム!』
『待ってました!』
タイムを呼ぶと、バイタルモニターの代わりにタイム六道衆のアイコンがぴょこんと現れた。
『奥に居る召喚術師を無力化してくれ』
『『『サーイエッサー』』』
『……って、それだけ?』
『あー、ついでに弓矢を防御してくれ』
『了解であります!』
『じゃあね、四天王は弓兵を無力化するでしょ』
『分かったー!』
『分かったー!』
『分かったぞ!』
『分かりました!』
『で、サムライタイムが召喚術師をボコってきて』
『心得たでありんす! ……タイムはなにをするでありんす?』
『え? タイムはマスターのサポートに決まってるじゃないですか、やだなー』
『ずるいでありんす! 拙者だって殿のサポートしたいのでありんす!』
『そうにゃそうにゃ!』
視界の端っこで、タイム六道衆が揉め始めた。
アイコンとはいえ、6人でドタバタされると目立つ。
なにをやっているんだなにを。
タイムがアホなことを言い合っている内に、ゴーレムがまた一体増えた。
このままじゃ増える一方だぞ。
埒が開かないので、目の前にニンジンをぶら下げることにしよう。
『そうだなー、ゴーレムを無力化した順にご褒美をあげちゃおうかなー』
そういうと、タイムたちがピタリと黙り込んだ。
そして一斉に俺を見る。
『無力化した順?』
『順とは、どういうことでありんす?』
『1等、2等、3等、4等、5等、参加賞……って事で』
そう言った途端、四天王とサムライは実体化してゴーレムに駆けだしていった。
『ちょっと待って! それ、タイムが参加賞ほぼ確定じゃない!』
『マスターのサポートは特賞みたいなものでしょ!』
『そうだけど、そうじゃないよー』
『おぬしが決めたことでありんす。自業自得でありんす』
『そんなぁ』
視界の端で項垂れるタイムのアイコン。
そんな状態でちゃんとサポートできるのか、心配だ。
その分、俺がしっかりすればいい。
というか、あいつらちゃんと分かっているのかな。
今回の主役はあくまで俺だぞ。
活躍の場をこれ以上奪わないでおくれよ。
いや、ホント、マジお願いします、タイムさん。
四天王は3体居るゴーレム剣士の間を駆けていく。
槍で突こうが三日月刀で斬ろうが戦槌で叩こうが、的が小さいのと、すばしっこいの相乗効果で、あっという間に駆け抜けた。
『そんにゃもの、当たらないにゃ』
『犬が歩いても棒には当たらないわん』
『遅すぎて欠伸が出るぞ』
駆け抜けるついでに犬猫のダブルキックと武闘家の傾躯掌底で2体のゴーレムを転倒させるのも忘れない。
四天王は(自称)できる女の子なのである。
『はぁ、はぁ、ちょっ、待ってくださいよー』
転倒した剣士ゴーレムの上を最弱が飛び越えていく。
……ちょっとだけ訂正。
3バカは(自称)できる女の子なのである。
余談だが、残りの1体はサムライタイムが投げ倒した。
つまり、王の通る道をお供の者が切り開いたのだ。
と言っても過言……だね。
対峙するのは弓兵が4体。
揉めたりご褒美だったりで放置した結果、4体にまで増えていた。
しかしそれは好都合。
こっちも4人、あっちも4体。
1人1体受け持てばいいだけだ。
これがもし3体しか居なかったら、1人あぶれてしまう。
つまり、参加賞すら貰えない。
ゴーレムを相手にする前に、四天王同士の血で血を洗う戦いが始まるところだった。
それを回避できたのは、なんと幸運なのだろう。
つまり、最弱は命拾いしたということだ。
尤も、最弱がたどり着く前に戦闘が始まるだけだろうけど。
それはともかく、弓兵の対処なんて簡単なものだ。
矢筒を取り上げてしまえば……
『はぁ、はぁ、矢筒、持って……いませんね』
『無いね』
『はぁ、はぁ、四盾結界で、囲おうか?』
『省エネじゃないわん』
『普通に、はぁ、倒します?』
『でもマスターは無力化しろって言ったにゃあ』
『む? 倒してはダメなのか?』
そう言った武闘タイムは、既にゴーレムを殴り倒していた。
『抜け駆け、はぁ、ダメだよ!』
『タイムもやるわん!』
『あーズルいにゃ! タイムもにゃる!』
そんな感じで結局は当初の予定〝全員で同時に倒してみんなで1等をもぎ取る作戦〟は、実行されることもなく闇に葬られた。
そうなると早い者勝ち。
我先にと攻撃を開始する。
当然ゴーレムも応戦する。
しかしタイムたちは的として小さい上にすばしっこい。
そもそも弓兵は接近された時点で蹂躙されるしかない。
小さいからと無視してモナカを攻撃しようとしても、纏わり付いたタイムが狙いを定めさせない。
意図せず無力化に成功している。
が、意図していないので、倒しに掛かる。
顔を引っ掻き、腕に噛み付き、腹に拳を突き立てる。
3バカはやりたい放題やっている。
そんな中、最弱だけはなにもできずに居た。
顔に張り付いては引き剥がされ、、腕にしがみついては振り落とされ、腹を叩いてははたき落とされ……
なにをやっても返り討ちに遭っていた。
そんな最弱を横目に、3バカは既にゴーレムを土塊に変えていた。
顔をひっかいて削り取り、そのまま全部削り取った四天王が1人、猫耳少女のタイム。
『ねー最弱ー、手伝うにゃん?』
腕に噛み付き、噛み砕き、そのまま全てを噛み千切った四天王が1人、犬耳少女のタイム。
『暇だわん』
腹に拳を突いて突いて突いて突いて突いて突いて突き抜けてもまた突いて、そのまま全てを突き切った四天王が1人、武闘家のタイム。
『物足りぬ』
張り付こうがしがみ付こうが叩こうが、軽くあしらわれる四天王が1人、最弱のタイム。
『ひ、1人でできますっ』
とはいえ、既に体力は限界。
フラフラになりながらも弓兵にしがみ付く。
マスターに弓1本射らせてなるものか。
ただそれだけが最弱の原動力。
執拗に絡みついてくる最弱に我慢の限界を迎えたゴーレムは、最弱をいとも簡単に捕まえると、握りしめた。
『『『! 最弱!』』』
『こ、来ない……でっ』
加勢しようとした3バカを、最弱は拒否した。
今にも折れそうなほど締め付けられているその細い首。
それでも声を振り絞って強がる最弱。
『このくらい、1人で、できなかったら、四天王を……名乗れま、せんから』
息も絶え絶えに気力だけで耐える。
嫌な音を立てて軋む首。
いつ折れても不思議ではない。
『お前は十分頑張ったにゃ!』
『そうだわん! 1人で頑張る必要はないわん』
『我ら四天王、4人で1人なのだ。我らの絆は諸行無常なり!』
※諸行無常:永遠はないよ
そして最弱は力を振り絞って3バカの方を見ると右拳を突き出し、親指を立てた。
その顔は、満足そうな笑みに満ち溢れていた。
その直後、嫌な音を立て、ゴーレムの手から1つの塊が落ちた。
『『『最弱ー!!』』』
最弱の運命や如何に
次回はサムライタイムのターンです






