第75話 実技2次試験 モナカの場合 ソロバトル編
いくつか疑問はある。
エイルとタイムがスクリプトの最適化をしているのは知っている。
しかしそれ以上のことは聞かされていない。
2人でなにかしているのだろうか。
『細かい話は後でするね。一言で言えば、エイルさんの身分証とマスターの|携帯《身体と一体化したスマホ》を繋げたんだよ』
『繋げた?!』
『まだアルファバージョンだけどね』
どういうことなのか問い詰めたいところだが、今はそのときではない。
最初の打ち合わせ通り、タイムは携帯の中に戻ってサポートに徹する。
的当てはタイム任せだったから、近接戦闘は俺がメインでやる。
そうでもしないと、本当に存在意義を無くしてしまいそうだ。
最近は右手で剣を振るいながら、左手で携帯の操作がある程度できるようになった。
携帯の画面をARに表示させて操作できるようになったのが大きい。
そもそもタイムが居れば、俺自身が操作する必要も無いのだが、万が一タイムのサポートが受けられない状態になったときのために、日頃から訓練している感じだ。
「そんなことにはならないよ」とタイムは言うけれど、世の中絶対は無い。
転んでから杖を用意したのでは遅いのだ。
だから今回の試験も、タイムにサポートはしてもらわないつもりだ。
タイムは頼ってほしがっているけれど、勝手にサポートしないよう、アプリにロックをかけさせてもらった。
これで俺が許可しない限り、タイムはタイム専用アプリ以外が使えなくなる。
当然タイムは猛反対したが、マスター権限に勝てるはずもなく、受け入れるしかないのだ。
なので、一応タイムは待機しているけれど、俺が自力で突破しなくてはならないのだ。
「それでは実技2次試験を開始します。構えてください」
エイルのときと同様に、アニカたちの居る場所が薄緑の半透明な膜に包まれる。
そして再び床から土の塊がモコモコと現われる。
土塊が次第に人型となってくる。
その数、3体。
「多くない?!」
「エイル様は支援型です。ですが、モナカ様は前衛型です。このくらいをこなして頂けなければ、前衛とは言えません」
「そんな無茶な……」
エイルと戦っていたゴーレムの実力は、小鬼乗猪以上であろうことは明白。
それを同時に3体も相手にしろという。
ああ、なんて素敵な試験なんだろう。
もう笑うしかない。
しかし案内人の言うことも道理だ。
さっさと倒してしまおうではないか。
3体のゴーレムをよく観察してみると、完全に役割分担ができているようだ。
剣を構えている前衛。
弓を構えている後衛。
そして杖を構えている……魔法使いか?
この世界では杖そのものが珍しいという。
それをゴーレムが持っているのか?
ゴーレムならなんでもアリなのかも知れない。
野太刀を構えると、ゴーレムが突っ込んできた。
その後ろから当然のように弓矢が飛んでくる。
それに反応して刀でたたき落とす……なんて器用なまねができれば苦労はしない。
反応はできる。
しかし飛んでくる弓矢に合わせることが難しい。
なので素直に避ける。
弓矢は時速200kmを超える速度で飛んでくる。
放たれてから飛んでくるまで1秒と掛からない。
にも拘わらず反応できるのは、左目がきっちりと捉えているからだ。
左目が捉えた映像を〝画像解析〟で処理し、脳に伝える。
それから反応して躱すのだが、それでも時間が足らない。
そこでもう一つ、〝思考加速〟というアプリを使っている。
文字通り、思考を加速させるもので、脳の処理を携帯が補助し、伝達速度をも加速させてしまう。
加速性能はスマホに依存するので、スマホの性能が上がれば加速倍率も上がる。
今はせいぜい3倍がいいところだ。
それでも十分な恩恵を得られる。
しかし思考と反応速度が向上しても、身体の動きまでは加速されない。
刀で叩き落とすだけの余裕はないから、身体を最小限に移動して避けている。
今はそれで十分だ。
とはいえ、弓矢が顔すれすれを通り過ぎていく風圧を感じ、少しヒヤヒヤしている。
慣れるまでは我慢しよう。
2発ほど避けると、ゴーレムと剣を合わせることになった。
さすがに弓矢は飛んでこないだろうと思っていたら、構わず飛んできた。
味方に当てない自信があるのか、当たっても問題ないのか。
さすがに剣を合わせながら避けるのはしんどい。
頬に擦って赤い線が引かれる。
鏃に毒でも塗られていたら、これでアウトだ。
幸いにも、視界の端にAR表示しているバイタルモニターは、[異常なし]を告げている。
どうやら弓矢を積極的に対処しなければならなさそうだ。
もし胴体を狙われていたら、避けられずに当たるだろう。
なにか有用なアプリは無かったかと探してみるも、有効そうなものは見当たらない。
そんなことをしている間にも、弓矢は飛んでくる。
ゴーレムと剣を打ち合わせながら、弓矢を避けるのも限界がある。
ギリギリで避けながら頬に3本、肩に1本の赤い筋を作った代償に、〝予測演算〟に必要な情報収集を完了させることができた。
〝予測演算〟で算出された弓矢の軌道がARに表示される。
弓を構える方向と弦を引く距離から軌道と飛翔速度を計算し、指の動きから放つタイミングを見計らう。
そこからコンマ数秒先の未来を予測し、軌道が映像として表示される。
その〝予測演算〟に必要なデータを、今まで取っていたのだ。
それが完成したならば、もう弓は怖くない。
後は音ゲー(リズムゲーム)の要領で弓矢をタイミング良く叩き落とせばいい。
アプリ[NotesSaber]起動
〝NotesSaber〟に〝予測演算〟を連結させ、自動で譜面をリアルタイム作成・再生をさせる。
両手で構えていた野太刀を右手で構え、タイムがもう1本打ってくれた小太刀を携帯から取り出して、左手で構える。
射られた弓矢をタイミング良く小太刀で叩き切る。
常にパーフェクトを出さなければならないのはきついが、そんなシビアなタイミングも〝思考加速〟があれば割かし余裕でできる。
さらにはその弓矢が飛んでくるタイミングに合わせて目の前のゴーレムを誘導すれば、同士討ちのできあがりだ。
そう、目の前のゴーレムの動きも既に解析済み。
どうするかを考え、それを〝予測演算〟に行動パターンとして入力する。
剣士と弓兵と対処法の3つを演算し、結果を〝NotesSaber〟で譜面化したら、後は譜面通りに切りつけるだけで、考えたとおりの結果が生まれる。
リズムに乗ってパーフェクトを繰り返していけば、ゴーレム撃破も簡単だ。
エイルでは歯が立たなかったゴーレムの腕を切り飛ばし、足を砕き、剣を巻き飛ばして胴体を一閃する。
剣士ゴーレムを撃破した。
残るは弓兵と魔法使いのゴーレムの2体。
不気味なのは、ここまで一切の動きを見せない魔法使いゴーレムだ。
そのゴーレムが、剣士を倒した直後に動きを見せた。
警戒をしつつ弓兵との距離を詰める。
矢切れを起こすことなく無尽蔵に射ってくる弓矢も、弓を切り落としてしまえば怖くはない。
文字通り泥人形と化した弓兵をただの土塊に還すのは簡単だった。
そして魔法使いに意識を向けたとき、俺は一番最初にこいつを倒さなければならなかったことを思い知らされた。
今回はゲーム知らない人には辛かったかな
NotesSaberの元ネタは、Beat Saberです
リズムゲームだとリズム天国とか太鼓の達人とかプロジェクトミライとかで分かって貰えるかな
ラブライブ!とかアイマスとか
次回はタイムのターンです
長くなったのは半分こいつらの所為






