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第71話 友人の娘

ギャグは行方不明になりました

 今日から第7支部で結界外探索許可試験が行われる。

 とはいえ、今となっては本気で探索をしに行く者など居ない。

 単純に資格手当てが目当ての者ばかり。

 なぜなら、まだ結界が張られて間もない頃ならともかく、今となっては魔物の巣窟になっているからだ。

 結界が張られて600年。

 外の世界が人類の手に負えなくなるには十分な時間が経っている。

 魔素の絶対量が減り、毒素が蔓延している。

 結界の中は安全だが、外で生き延びるのは無理だろう。


 数年前、何十年か振りに結界の外へ探索に行った者たちがいた。

 デニスとその仲間たちは、結界の中では取れない鉱石を持ち帰ってきた。

 それはとても希少で、かなりの価値が付いた。

 そして後に続けと、一攫千金を夢見るものが何十人も現われた。

 だが、その大半は未だ帰ってきていない。

 その帰ってきていない者の娘が、試験を受けるという話を聞いたのは去年のことだ。

 しかも結界の外へ父親を探しに行くと、幼き頃から公言していた娘が、だ。

 だがその娘が試験会場に来ることはなかった。

 正直ホッとした。

 それなのに、今年も試験を受けるという話を聞いてしまった。

 そして筆記試験を受けに会場に来たとも。

 その娘に恨みはないが、落ちれば良いと願ったものだ。

 現実とは残酷で、願い空しく筆記試験を通ってしまった。

 不正に通過させることができないように、不正に落とすこともできない。

 次の実技試験で落ちてくれれば良いと願うしかなかった。


 実技試験の結果が届いた。

 その娘は1次試験を突破したようだ。

 だがなんだこの報告書は。

 (にわか)には信じられないことが書いてある。

 これを信じろというのか。

 いや、虚偽報告をするなら、もっと最もらしいことを書いて寄越すだろう。

 なのに、まるでお伽噺(とぎばなし)でも読まされているかのような内容だ。

 馬鹿げている。

 そう思っていた。

 一緒に添えられていた試験の記録映像を見るまでは。

 微精霊?

 妖精?

 馬鹿げた威力の精霊魔法。

 馬鹿げた威力の結界魔法。

 どれもこれも現存しない魔法ばかりではないか。

 作られた映像だと言われた方が信憑性がある。

 こんなものを見せられても、誰も現実だとは思わないと断言できる。

 しかし、繰り返し見ても改竄(かいざん)された跡は一切見つけられなかった。

 魔力障害が発生している為、試験は延期になったとも付け加えられている。

 再開の目処は立っていない。

 場所を移しての再開が現実的であろう。

 場所の確保をしなくてはならない。

 あってはならないが、同様の事態に対処できる場所と人員でなくてはならない。

 該当者を失格にすれば良いだけなのだろうが、そんなことはできない。

 個人的にはしたいところだが、それでは規約に違反する。

 早急に対処しなくては……


「中々面白い映像ですね」


 今年も結界外へ本気で探索に行こうという者が試験を受けに来る。

 そんな話が中央本部でも噂されていた。

 その為、筆記試験当日同様、本日も中央本部から視察官が来ていた。

 こちらとしては、直接第7支部に行って欲しいのだが、何故かクラスク本部に来ている。


「特にこの少年がいい」

「妖精様ではなく……ですか」

「その妖精を使役できる者がこの世界に居る……(まこと)面白い」

「なるほど。確かにそうですね」

「しかしこの少年……」


 視察官が自前の端末を使い、少年の身元を中央のデータベースで確認している。

 そこになにか面白いことが載っていたのか、それまで清ました顔をしていた視察官であったが、口元が緩んでいた。


「その少年がどうかしましたか?」


 そう尋ねたときには、既に元の顔に戻っていた。

 不思議に思うも、相手が答えない以上、疑問は押し殺さなくてはならない。


「会場と試験官は全てこちらで用意しましょう。宜しいですね」

「それは構いませんが……訳を伺っても宜しいですか?」


 しかし視察官は不適に口元を緩めるだけだ。

 中央が出張ってくるくらいだ。

 何かあるとは思ったが、やはり答えて貰えそうもない。


「褒賞についてもこちらで用意しましょう。貴方方(あなたがた)では用意できないでしょうから」

「ありがとうございます」

「代わりに、妖精に関するデータは全て貰っていきます。データも消去いたします」

「消去……分かりました」

「貴方も、この件に関しては他言無用ですよ」

「心得ております」


 消去までするとは思わなかった。

 知られてはいけない何かがあるというのか。

 まさか他の参加者も……いや、考えすぎか。

 そういえば、試験会場も試験官も中央で用意すると言っていた。

 なにか訳があるようではあるが、我々末端には教えられないのだろう。

 データの接収を終えた視察官は、「くれぐれも……分かっていますね」と言い残し、部屋を出て行った。


 試験の件は片付いたが、後処理がまだ残っている。

 現場の視察もしなければならない。

 親子なのだろう。

 父親同様、問題を起こしてくれる娘だ。

 しかしできることなら外になど出ず、中で幸せに暮らして欲しかった。

 連れて帰ってくることができなかった者としては、せめて娘には平穏に過ごして欲しかった。

 だが彼女は中央に目を付けられてしまった。

 もはや平穏に暮らすことは不可能だろう。

 デニスよ。

 お前が俺なんかを庇わなければ……

 家族の居る者が、家族の居ない者なんて庇わなければ……

 済まない。

 俺ではお前の娘を救うことはできない。

 試験に落ちることを願うことくらいしかできない俺を、許してくれ。

 だがこの少年ならば……

 お前にしか懐かなかった娘が、心を許しているこの少年にならば或いはなんとかしてくれるかも知れない。

 この少年が何処(いずこ)から来たのかは不明だ。

 身分証は偽造ではない。

 しかしあの変わった身分証は一体なんなのだ。

 身分証は都市間で違いはあるものの、基本技術は中央のものが使われている。

 だがそれらに当てはまるとは思えない身分証を持つ少年。

 それが視察官の気を引いたのだろうか。

 単純に妖精の(あるじ)だから気を引いたのだろうか。

 どちらにしても、彼女から少年を引き離されるようなことがなければいい。

 そんなことになったら、父親を失ったときのように塞ぎ込んでしまうかも知れない。

 客として定期的に顔を見に行っていたが、ここ1年は本当にいい顔をしている。

 父親を探すと言い出した頃の空元気(からげんき)と比べたら、雲泥の差だ。

 そんな顔がまた失われるようなことは避けたい。

 どんな形でも良い。

 2人を引き離さないでくれ。

 俺はデニスの手を離してしまった。

 だから少年よ、俺の分までデニスの娘の手を離さないでくれ。

時々現れるシリアスパート

シリアス度が足りないかも知れませんが、今はこの辺が限界かと

次回は打って変わって平常運転です

兄と妹の漫才をお楽しみください

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