第65話 実技1次試験 エイルの場合
俺たちの受験番号は18番エイル・19番俺・20番アニカだ。
欠席者はおらず、受付期間ギリギリで申し込んだ俺たちがおそらく最後だ。
筆記試験の時も、俺たちの後ろには居なかったから、全員で20名だろう。
集まっているのは10人だから、少なくとも筆記試験で10人落ちたことになる。
いきなり半数になるのか。
俺、よく受かったな。
「ん? 1人多いな。関係のない者は隅で見学するように」
どうやらタイムも受験者の1人と数えられているらしい。
タイムは身分証がないから受けられない。
だが大した問題ではない。
俺と一緒に受けるからだ。
そのことを前もって言っておいた方がいいだろう。
「済みません、俺とタイムは2人で一緒に受けます」
「あ? そんなことは認められんぞ。1人1人受けるんだ」
「あー、そうではなくて、タイムは俺と契約している妖精なんですよ」
「妖精だあ?」
「あっはっはっはっ」
「もうちっとマシな嘘つけよー」
「妖精……ぷっ、ただの子供じゃねーか」
周りの受験者は小馬鹿にしたような反応をしている。
笑うもの、物珍しげにみるもの、冷めた目でみるもの、哀れむものなど、様々だ。
だが、そんな中1人だけ目を輝かせて見つめるものがいた。
「やっぱりタイムさんは妖精だったんだね!」
「アニカ、ちょっと黙ってて」
「あ……ゴメンよ」
『タイム、ちょっと妖精っぽいとこ、試験官に見せてやってくれ』
『分かったー!』
そう言うと、背中から羽を生やし、パタパタと試験官の周りを飛び回った。
おおっ、と少し周りがザワついた。
羽から光の粒子をまき散らし、飛んだ後に軌跡を残す。
ひとしきり飛び回った後、試験管に突っ込んでいった。
驚く試験官をよそに、試験官の身体をすり抜けていく。
慌てた試験官はタイムのすり抜けた後を穴がないか、異常がないかを確かめた。
そして異常がないことが分かると、ホッと一安心した。
周りの受験者もそれを見て騒ぎ始めている。
そしてずっと封印されていたタイム四天王。
分裂するのも消費電力が上がるからと、ずっと1人でいたタイム。
そんなタイム四天王が半年ぶりに顕現したのだ。
さすがにこれを見せられて静観している者は居なかった。
試験会場がある種のお祭り騒ぎとなった。
「おお、これが妖精ってもんなのか。初めて見たぞ」
「嘘じゃなかったのか!?」
「なにかのトリックだろ」
「バカ、どうやってあんな小さくなるってんだ!」
「可愛い! 1匹貰えないかしら」
信じるもの、信じないもの、信じられないものと色々な反応を示している。
初めて妖精というものを見たのであろう。
驚きは隠せないようだ。
精霊はオルバーディング家が居るため、狩猟協会の者なら直接見たことがなくても、実在することを知っている。
だが妖精ともなれば話は別だ。
妖精は精霊のように召喚に応じたりしない。
妖精と一括りにしているが、実際には妖精族といって沢山の種族がいる。
エルフやドワーフやホビットなども、妖精族の一種だ。
この世界にもそういった妖精族がいる。
だが、大昔に人間界から妖精界に帰ってしまったため、もう人間界には居ない。
そういった伝承が残ってはいるものの、実際に見た者はこの人間界にはもう居ないのだ。
特にタイムのようなニンフ、或いはスプライトといった妖精は、伝説にしか出てこない。
実在するかも怪しいような存在だ。
それが目の前に現われた。
バカ騒ぎするのも仕方がない。
下手をすれば試験どころではないだろう。
もっとも、実際は妖精ではないからちょっと心苦しい。
とはいえ、説明できないし、体のいい隠れ蓑にしておこう。
バレなければ、知らぬ者にはそれが真実になるのだから。
「信じてもらえましたか?」
「う、うむ。いいだろう。許可する」
「ありがとうございます」
これで俺とタイムは一緒に受けることができる。
最悪タイムにはサポートに徹してもらうことも考えていた。
しかしそうなると試験にある的当てが難しくなる。
俺は弓の訓練をしていない。
魔法も使えない。
つまり、遠距離攻撃手段がないのだ。
ゲームなら抜刀による真空刃で的ぐらい切れるだろう。
だが俺にはそんなことができる技量はない!
アプリストアで検索してみたが、ビックリするくらい高額なのだ。
的当てで落ちる可能性もあったが、これで問題はなくなった。
「よし、静かにしろ! 始めるぞ。まずは的当てだ。近距離、中距離、遠距離、長距離の4つ。1カ所に付き5発、最低3発当てることが合格ラインだ。ただし、長距離は1発でも構わん。まさかとは思うが、近距離で外すような間抜けは来てねえだろうな」
距離で言うと、10m/50m/100m/200mといったところか。
確かに近距離で外すようなやつに、外で生き残れるような気はしない。
しかし200mか……
タイムの魔法の射程は何処までいけるのだろうか。
結局試していないから、それもぶっつけ本番か。
俺たちの番が回ってくるまでに、2人が不合格となった。
あながち合格率が1割というのも頷ける。
まずはエイルの番だ。
「ん? エイルじゃねえか。今年は受けるんだな。去年みたいに棄権しねえのか? うわっはっはっはっ」
「当たり前なのよ」
「ふっ。親父さんを見つけに行くとかいつも騒いでた癖に、筆記試験会場に来なかったと聞いたときゃ耳を疑ったぞ」
「仕方なかったのよ。モナカの所為でできなかったのよ」
「んあ? あーこいつが噂の結婚相手か?」
「はあ?!」
「え、こいつが?」
「あの話マジだったのか?!」
「嘘だろ……」
「なにを言ってるのよ?! そ、そんな訳のよ……ないのよ」
「どういうことだ、エイル!」
俺とエイルが結婚したなんて話は、聞いたことがない。
いつの間に2人は結婚していたんだ?
タイムとならともかく……? いや、それも無いな。
「マスターはタイムの旦那様だよ! エイルさんのじゃないよ!」
「タイムもなに言ってんの!?」
「うわっはっはっはっ、協会じゃ、一時期その話で盛り上がったんだがな」
「てことは、やっぱマジ話なのか」
「俺は信じんぞ」
「あの野郎、エイルさんだけじゃなく、妖精さんとまで!」
「赤くなって照れてるエイルさん、可愛いな」
なんか、タイムが妖精だ! の時以上に反応が凄い。
ショックを受けて崩れ落ちるものまで居る始末。
それはいいんだが、俺を睨み付けるのは止めて欲しい。
エイルとはそういう関係じゃないから。
「初耳なのよ」
「お前は俺たちに興味がねえからな。知らんのも無理はねえ。どれだけ盛り上がっていたか、周りの反応を見れば分かんだろ。お前、親父さん以外虫けらを見る目で見てたしな」
「そうなのか?」
「そんなことないのよ。気のせいなのよ」
「いーや、気のせいじゃねえ! あの目で見られるのが癖になったやつまでいるくれえだからな。うわっはっはっはっ」
「バ、バカなこと言ってんじゃないのよ」
「去年の試験前くれえだったか、お前の目から刺々しさが無くなってた。フブキの散歩を男としてるって聞いたときゃ、そういうことかって妙に納得したよ。おめでとさん」
「勝手に納得するんじゃないのよ! そんなんじゃないのよ!」
「なら、親父さん以外の男を、ゴミを見るような目で見ていたお前が、俺らを普通に見られるようにしたのは誰だ?」
「そ、それは……のよ。お、大人になったってことなのよ!」
「ふっ。だとよお前ら!」
「ぶーぶー」
「信じられるかっ」
「ああ、もうあの目で俺を見てはくれないのか」
周りから言いたい放題言われているエイル。
そんなエイルは、俺のことを最初から興味津々の目で見ていた。検体として。
だからそのゴミを見るような目というのが分からない。
余程キツい目なのだろう。
興味はあるが、そんな目で見られて無事でいられる自信がない。
「いいのよ、さっさと試験を始めるのよ!」
「ああそうだな。ふっ、心を落ち着ける時間を、くっ、やろうか? 外したときに、ぷっ、それを言い訳にされたら、くふっ、敵わんからな。うわっはっはっはっ」
「要らないのよ!」
試験官の合図も聞かずに自作の単発式詠唱銃を構えると、火球を5発ともきっちり的に当ててきた。
「ほう、それが新型の詠唱銃か。威力は申し分ねえみてえだが、弾速が遅えな」
「今はこれが限界なのよ」
「薬莢を交換するのも手間そうだな」
「分かってるのよ」
「ふむ。よし、次」
エイルは単発式詠唱銃をホルスターに収めると、もう一方の連射式詠唱銃を抜いて構えた。
「ん? 新型は使わねえのか?」
「射程が短いのよ。まだ改良の余地があるのよ」
「なるほどねー」
「違反なのよ?」
「いいや、問題ねえ」
射撃用にカスタムした狙撃詠唱銃を使い、残りの的も全て当てていた。
さすがの腕前だ。
「腕は鈍っちゃいねえようだな」
「当たり前なのよ」
「よし、合格だ」
得意な射撃を難なくクリアしたエイル。
こんなところで躓いている場合ではない。
1年出遅れたのだから、尚更だ。
エイルは気を引き締めて、次の試験を待つのだった。
2番手はモナカです
そしてマジカルタイムが受験者たちから弄られます






