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第63話 可能性を求めて

 エイル指導の下、タイムの組んだスクリプトの改善が進められた。

 エイルが直接編集できれば良かったのだが、現状ではどうやっても無理だということが分かった。

 なので、エイルの時間が許す限り、タイムにつきっきりで自分のノウハウを叩き込んでいるといった感じだ。

 そして改善すべき点と改善の仕方を教え、一つずつ丁寧に直していった。

 俺は余命が1年半も無いということをみんなに言えずにいる。

 タイムもそのことには気づいていないようだ。

 それについては良かったと思っている。

 だが気づくのは時間の問題だろう。

 解決策を見つけるまでは、模擬戦は止めておくことにした。

 スクリプトの改善をしてもらっているのに、申し訳なくも思う。

 エイルの護衛については、今まで通りやることにした。

 とはいえ、アプリは使用せず、自力だけでなんとかしなくてはならない。

 オオネズミ程度なら余裕だろう。

 だがゲンコウ類を相手にするのは無理だろうと判断する。

 フブキと連携できればなんとかなるとは思う。

 それでも怪我は避けられない。

 怪我の治療には相応の電力を消費するから、得策ではない。

 怪我を治せても、寿命を縮めるだけなのだから。


 寝る前にタイムに頼んで携帯(スマホ)の消費電力一覧を作ってもらった。

 タイムを抱き抱えて横になりながら、一覧を見る。

 ここ最近で消費電力が大きいのは幻燈機ポップアップディスプレイRATS(ラット)だ。

 これは予想通りで、ある意味安心した。

 ただ、模擬戦を止めてからは大人しくなっている。

 アクティブアプリは使わなければ問題ないので、保留にしている。

 問題はパッシブアプリだ。

 今までは日常でも[On]のままでいた。

 これからは小忠実(こまめ)に[On][Off]しなければならないだろう。

 とはいえ、やはりこれも焼け石に水。

 根本的な問題は、もう後戻りができない部分。

 つまりアップグレードしたことによって増えた消費電力、ということだ。

 ダウングレードするという案もあったが、タイムに無理だと言われた。

 すること自体は可能なのだが、今のグレードに身体が適応し終わっているからだという。

 ダウングレードすると身体を維持することができなくなり、バッテリーが切れる前に身体が動かなくなるそうだ。

 打つ手無し……ということか。

 余命はあと1年ほどと思えばいい。

 1年あれば、エイルたちの試験が終わるまでは一緒に居られる。

 それが最後のチャンスになるだろう。

 そんなことを思いながらタイムを抱きしめ、夢の世界へと入ろうとしていた。

 タイムは携帯(スマホ)の中で寝ると言っていたが、それは俺が却下した。

 今更その程度の省電力をしても意味が無い。

 それに〝ギュッてされると頑張れる〟と言っていた。

 それを考えれば、この程度は安いものだ。


「タイムちゃんは寝たのよ?」


 ベッドに潜り込んできたエイルが話し掛けてきた。


「珍しいな、もう寝るのか?」

「モナカに話があるのよ」

「話? タイムなら寝息を立てて寝てるよ」

「……」

「なんだよ、話があるんだろ」


 そう問い掛けるも、エイルは黙ったままだ。

 どうしたものかと思っていると、エイルが抱きしめてきた。

 そして耳元で囁くように話を始めた。


「後どれくらい持ちそうなのよ?」

「な、なにを急に――!」

「もっと声を(ひそ)めるのよ。タイムちゃんが起きるのよ」

「なにを急に言い出すんだ? 大丈夫だよ。大人しくしてれば問題な――」

「うちに隠し事しないのよ。あんたを見てのよ、そのくらい分かるのよ」

「う……そうなのか?」

「伊達に毎日全身隈なく調(しら)……洗ってないのよ」

「今〝調べる〟って言いかけませんでした?!」

「うるさいのよ。細かいことを気にする男はモテないのよ」

「細かくないよっ」

「タイムちゃんが起きるのよ。静かにするのよ」

「……?」


 相変わらずだな。

 確かにエイルに隠し事をしても仕方がないか。


「多分1年持つか持たないか……だと思う」

「そうなのよ、1年なのよ」

「ああ。ま、思えば1度は死んだ身だ。もう半年も延長戦ができたんだ。満足とは言わないが、まだ1年もあるんだ。十分だろ」

「……!」

「諦めるんじゃないのよ。もっともがくのよ」

「もがいたら、寿命が縮むんじゃないかな」

「諦めるのよ?」

「諦めはしないさ。なんとしても、タイムだけでも助けないとな」

「……!?」

「……モナカはいいのよ? あんたが居なくなるのよ、(たと)えタイムちゃんが助かったとしてのよ、あの子は喜ばないのよ」

「……(コクコク)」

「? 分かってるよ。それでも、俺はタイムに生きていて欲しいんだ」

「……」

「同じことをタイムちゃんも言うのよ」

「だろうな、それは分かってる。実際そうしようとしていたし」

「……(ううっ)」

「分かってるのよ、2人で助かる方法を探すのよ」

「タイムだけなら、方法はある」

「タイムちゃんだけ?」

「……?!」

「ああ、タイムは以前、俺ではない別のマスターと一緒に居た形跡がある。だからその人にタイムを(ゆだ)ねられれば、タイムは助かると思うんだ」

「……#」

「その人は何処に居るのよ?」

「それが分かれば苦労はしないさ」

「ならのよ、その人をうちらで探すのよ?」

「無理だよ」

「探す前から諦めるのよ?」

「俺がいた世界の人間だろうからな。無理なんだよ」

「それは……のよ」

「なに、全く諦めたわけじゃない。半年後の試験、それが分かれ目だと思っている」

「……?」

「試験のよ?」

「ああ。試験に合格する。そして結界の外で可能性を見つける。どうだ?」

「……!」

「それは魔素の中から元素を探すようなものなのよ」

「なんだその例えは?」

「……??」

「不可能ってことなのよ」

「……(うっ)」

「エイルだって行ったことはないんだろ? だから試験を受けようとしている。可能か不可能かは、行ってみてから決めればいい」

「そんなのは幻想なのよ」

「エイルが自分で言ったんだろ。〝諦めるんじゃないのよ。もっともがくのよ〟って。だからもがくんだよ」

「そうかも知れないけれのよ」

「タイムだってそう思うよな!」

「……! (えっえっ)」

「起きてるのよ?」

「……zzz」

「ふっ。いや、寝てるようだ。とにかく、半年後の試験にみんなで合格する。そして結界の外で可能性を見つけ出す。……手伝ってくれるよな」

「当たり前なのよ。大切なモ……」

「……!」

「検体を死なせる……わけには、いかないのよ」

「今〝モルモット〟って言おうとしませんでしたか?!」

「い、言ってないのよ! 細かい……ことを言う男のよ、その……モテない……のよ」

「細かくないよっ」

「……(笑)」

「もう……で、なんでタイムには聞かせたくなかったんだ?」

「……」

「どんなに取り繕ってのよ、タイムちゃんは傷つくと思ったのよ。だから聞かせたくなかったのよ」

「そっか。気を遣ってくれて、ありがとうな。きっとタイムも分かってくれるさ」

「そうだといいのよ」

「護衛は今まで通りにやる。でもゲンコウ類は勘弁な」

「無理はしなくていいのよ? 回復手段が見つかるまでくらいのよ……」

「ん? なんだよ」

「養ってやるのよ、嫌ではないのよ」

「ははっ。ありがとう。でも、それは遠慮しとくよ」

「お金の心配ならしなくていいのよ」

「そういう問題じゃないんだ。最後まで人として生きていたいんだよ。なにもせず生きているだけなら、死んでいるのと変わらない」

「そう……分かったのよ。頼むのよ」

「ああ、おやすみ」

「おやすみのよ」

『タイムも、おやすみ』

『……!! zzz』

今回で第4章は終わりです

次回から第5章が始まります

舞台は結界外探索許可試験に移ります

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