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第62話 消費電力

2021/4/8 台詞修正

エイルの台詞に翻訳ミスがありました

内容に変化はありません

「2人に話があるんだ」

「安心するのよ」

「な、なにがだ?」

「母さんには言わないであげるのよ」

「その話じゃない! いや、言わないで欲しいのはその通りなんだけど、違うんだ。真面目な話なんだ」

「真面目な話なのよ?」

「ああ、俺とタイムのことだ」

「マスター、0だなんて言っておいて、やっぱりホントだったんだね」


 俺が真面目な話をしようとしていると、タイムが脳天気な声で割り込んできた。

 2人の温度差がありすぎる。

 一体なんの話だと思っているんだ?


「なにがだ?」

「もうーとぼけちゃってー、タイムは分かってるんだよ」


 そう言いながら、俺の身体をツンツン突いてくる。

 一体なにが分かっているというのだろう。

 分かっているようには見えないのだが……まあいい。

 今は放っておこう。

 気を取り直して話を戻そう。


「はぁ……俺とタイムは、俺に内蔵されているバッテリーが0になると、死んでしまうんだ」

「「「ええ?!」」」


 ちょっと待って。なんでタイムまで一緒になって驚いているんだ?

 さっき分かっているって言っていたよな。

 聞き間違いか?

 そう思ってタイムを見てみると、驚いた顔をしたのも束の間、すぐに顔を暗くさせ、落ち込んでしまった。

 なにか勘違いをしていたようだが、思い出したらしい。


「モナカくん、死ぬってどういうことだい?」

「順に話すから、落ち着いてくれ」


 まずは2人に俺の身体のことを、身分証を見せながら説明した。

 俺が〝サイボーグ族〟になった経緯を。

 エイルはサイボーグについて知っていたから良かったが、アニカにはさっぱり分からなかったようだ。


「エイルは本当に物知りだな」

「勇者小説に書いてあったのよ。アニカは読んでいないだけなのよ」

「そうだね。ボクは勇者小説を読んだことがないよ。エイルさん、宜しければ今度貸して頂けませんか?」

「え……そ、そうのよ。後で面白そうなものを見繕っておくのよ」

「ありがとうございます」


 そしてこの身体に課せられた制約。

 タイムが携帯(スマホ)に引き籠もっていた理由にも起因する。

 それは恐らく俺の中にあるバッテリーの充電を使いすぎたのが理由だろうこと。

 そして使いすぎて少なくなったのが原因であろうこと。

 回復する手段は呼吸と食事だけということ。

 それが追いついていないであろうこと。

 そういった説明を掻い摘まんで2人に話している間中、タイムは黙って俯いたままだった。

 それは肯定を意味する沈黙と思って間違いがないのだろう。

 アプリを使いすぎると消費電力が増えるとタイムは言っていた。

 最近の模擬戦ではかなり使っていたから、そういうことだと推測したのだ。

 そしてそれは間違いではなかったというだけの話。


「そういうことだよな」


 タイムにそう訪ねると、黙って頷いた。


「タイムは少しでも消費電力を少なくしようとして、携帯(スマホ)の中に引き籠もっていた……ということだ。違うか?」


 今度は激しく首を振って、俺の考えを肯定した。


「そういうわけだ。心配を掛けて済まなかった」

「マスターが謝ることじゃないよ。全部タイムが悪いんだもの。ホント、ごめんなさい!」


 2人して頭を下げる。

 しばしの沈黙が流れ、エイルが口を開いた。


「そんなに不味い状況なのよ?」

「タイム、どうなんだ?」


 しかし、頭を下げたままなにも答えず沈黙している。


「黙ってたら分からないぞ。怒らないから、言ってみな」

「それ、絶対怒るパターンだよね」

「あっははは、お望みとあらば、怒ってやるよ」

「望んでないよっ。……分かった、話すよ」


 そう言うと、タイムは1つの折れ線グラフを全員に配った。

 最初の方は一番上の辺りからほぼ変化が無い。

 しかし途中から、僅かに下降をしていて、終わりの方で滝のように落ちていた。

 そして一番最後のところは、ほぼ真横になっている。


「この世界に来てからの、マスターの電池の残量グラフだよ。この急降下し始めたところが、イノシシ狩りをした日なの。でもこのくらいなら数日で元に戻ってたんだけど、その後ずっと模擬戦をしてたから」

「ちょっと待て。模擬戦なら今までだってやってただろ」

小鬼(ゴブリン)とイノシシだと消費電力が全然違うの。それに使用アプリも増えてきたから、消費電力に対して回復が間に合わなくなったの。その原因がタイムの所為なんだよ」

「どうしてタイムちゃんの所為なのよ?」

「イノシシのスクリプトを組んだのはタイムなんだよ」

「スクリプト……ってなんですか?」

「簡単に言うと、行動パターンを決める手順を書いたものだよ。それをタイムが書いたんだけど、よく分かんないで書いたから、無駄が多いんだって。それで更に消費電力が増えたの。でもタイムはバカだからそんなことも気づかないで、更に消費電力の高い小鬼乗猪(ゴブリンライダー)なんて組んだもんだから……しかも、2匹も……ううっ」

「だからそれはもういいって。怒ってないから、な」


 啜り泣くタイムをギュッとして頭を撫でてやる。

 それが逆にスイッチになったのか、堰を切ったように泣き出した。


「気づかなかった俺も悪いんだから、1人で背負い込むな」

「マズターが、気づげるわげ、ないよ。ダイムにじか、見えらいんらがら」

「そうなのよ?」

「そういえば、見たことはないな。腹の減り具合とバッテリー残量は無関係みたいだし」

「そうなると、タイムさんの確認だけが頼りなんだね」


 それを聞いて更に声を上げて泣き出した。


「アニカ! 少しは気を遣え」

「いや、そんなつもりじゃ……ゴメンよ」

「俺に謝るな」

「あ……そうだね。タイムさんを責めるつもりはありません。ですが、配慮が足りませんでした。ごめんなさい」

「ううん、アニガざんの言う、とおりだ、もん。タイムが気をづげて、いれば……こんなごとには、ならながっだんだもん」

「ね、タイムちゃん。そのスクリプトのよ、うちにも見せてくれるのよ?」

「うぐ、い、いいげど。翻訳でぎらいがら読めらいと思うよ」

「それでもいいのよ」


 タイムが書いたスクリプトを、エイルが見つめる。

 エイル自身では表示をスクロールさせることができないので、代わりに俺がスクロールしてやる。

 普段とは逆だ。


「これはのよ……」


 そこに書かれていた文字は、見たことのない文字で書かれていた。

 こういったプログラム的なものは、元の世界だと大概英字で表記されている。

 こっちの世界ではどうなのかは分からないが、言語相互翻訳(マルチリンガル)が翻訳できないとなると、オリジナル言語なのかも知れない。

 それをエイルが食い入るように見ている。

 未知の言語に刺激されたのだろう。

 なにかブツブツ言いながら画面に目を走らせていた。


「ナムエシシコソムウウ、ケロヤ、モウムヤ、ムサンムケムヤ、エシムラシ。サンムナムラカエワモシロケムケモシムラシ」

「え? な、なに?」


 エイルが翻訳できない言葉でタイムに話しかけた。

 それに自ら気づいたのか、ハッとした表情を見せる。


「タイムちゃん、これなら分かるのよ。うちでも書けるのよ」

「え?! ホントですか??」


 ビックリしすぎたのか、涙が引っ込んだようだ。

 それもそうだ。

 俺には読めない、タイムにもよく分かっていない言語。

 それをエイルは理解して書くことができるという。

 エイルは普段から工房でノートPCを使って仕事をしている。

 つまり、こっちの世界のプログラム用言語だったということなのだ。

 タイムがエイルの元に駆け寄ると――といっても距離的には数歩なのだが――、しがみついた。


「ホントなのよ。うちに任せるのよ。最適化するのよ」

「ホントに……できるんですね。マスターを救ってくれるんですね。うう、ありがとう、ありがとうございます」


 タイムはその場で崩れ落ちると、再び泣き出した。

 エイルはタイムの頭を撫で、そして抱き寄せた。


「大丈夫なのよ。今までよく頑張ったのよ。後はうちに任せるのよ」

「……あ゛い゛。お願い、じばす」


 恐らくはこれでスクリプトの方は問題が解決できるのだろう。

 だがそれはあくまで消費電力の話。

 現在減っている充電を効率よく回復する手段はないのだろうか。

 その為にも、現状把握は必要だ。

 渡されたグラフをよく見てみると、縦が充電量で、横が日付になっている。

 減り始めたのは1ヶ月ほど前……携帯(スマホ)をアップグレードした頃に近いな。

 そして急激に減ったのは、タイムが言うようにイノシシと模擬戦を開始した日らしい。

 そしてタイムが引き籠もるとほぼ真横になり、今日に至ると。

 ここで問題なのが、急激に減ったところではない。

 タイムが引きこもりを始めたときは37%を示している。

 そして今日現在は36%に減っている。

 タイムが引き籠もってから2週間弱。

 それなのに回復していないどころか、減っているという現実。

 仮に2週間で1%減ると計算した場合、残りは18ヶ月。1年半だ。

 しかもタイムを引き籠もらせての話だから、実際にはもっと短いのだろう。

 今と同じく、エイルたちの狩りに同行すれば、更に寿命が縮む。

 食事の量を増やすのは家計に負担を掛けるし、そもそも今でもお腹いっぱい食べさせてもらっている。

 これ以上は胃に入らないし、消化も追い付かない。

 呼吸の回数を増やす?

 ……いや、それはない。

 やはり消費電力を抑える以外、手は無いということか。

モナカの命の灯火のカウントダウンが開始しました

次回で第4章は終了です

エイルとベッドの中で締めくくります

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